記事監修医師
前田 裕斗 先生
2018/7/27 記事改定日: 2019/4/1
記事改定回数:1回
記事監修医師
前田 裕斗 先生
脳性麻痺とは、運動に関する神経が何らかの要因で傷つけられてしまう障害のことです。脳性麻痺につながる神経の損傷は、産まれる前や、産まれてすぐの時期に起こることがわかっています。
では、脳性麻痺が起こってしまった場合、その症状はいつ頃から見られるのでしょうか?また、どんな症状が出てくるのでしょうか?この記事では、脳性麻痺の症状や、治療法について説明します。
重症例では出産後すぐに診断がつくこともありますが、大多数の症例では数週間〜数ヶ月の早期に脳性麻痺を診断することは難しいです。なぜなら、「おすわり」や「ハイハイ」などの運動機能は、生後すぐにできるものではないからです。また、発達は脳性麻痺でない子供であっても個人差が大きいことから、発達の遅れがすなわち脳性麻痺とはいえないからです。
また、明らかに脳性麻痺とわかる筋肉の異常なこわばり(痙性)は、通常生後数週間〜半年程度では見つかりにくく、生後7〜9ヶ月程度経ってハイハイやつかまり立ちをする時期にならないとわかりづらいことが多いことも、脳性麻痺を診断することが難しい要因となっています。
これらの要因から、脳性麻痺は早ければ生後半年~1年程度、遅ければ生後2年程度の間に発覚することが多いです。
脳性麻痺を診断する場合、出生歴・発達・筋肉の検査の3項目を総合的に診察して判断します。
これらの診断によって脳性麻痺の疑いが非常に強いと判断された場合、MRIやCTなどによって脳神経を画像で検査し、最終的な確定診断が行われます。
脳性麻痺の症状は、脳の損傷部位によって痙直型・アテトーゼ型・失調型・混合型の4つの型に分けることができます。
痙直型の脳性麻痺は、大脳の錐体路系という運動神経の伝達経路が損傷されることで起こる障害です。脳性麻痺の約70〜80%が痙直型であり、症状は体の両側に均等に現れる両麻痺が多く見られます。また、異常な筋緊張や姿勢による背骨の固定により背骨がS字のように曲がってしまうことがあり、この症状は特に側弯症と呼ばれています。
痙直型の脳性麻痺では、筋肉の異常なこわばり(痙直)が特徴であるため、以下のような症状が現れます。
痙直型の脳性麻痺では、筋肉が硬直して動かず、関節を動かすこともしづらいため、筋力が落ちて関節が固くなり、さらに体を動かしづらくなるという悪循環に陥ってしまいがちです。
痙性四肢麻痺という最重度の障害になると、知的障害やけいれん発作などの合併症を引き起こしている可能性が高いです。また、筋肉の異常な緊張により、嚥下障害などを併発することもあります。
アテトーゼ型の脳性麻痺は、大脳の大脳基底核という不随意運動に関わっている部位が損傷することで起こる障害です。脳性麻痺の約10〜20%がアテトーゼ型で、腕や脚・体幹の筋肉が不随意運動を起こします。これにより、一定の姿勢を保ったり、動きを止めることができません。
アテトーゼ型の不随意運動は、強い感情と相関性があり、したがって睡眠中には起こりません。嬉しいことや精神的に緊張することが起こって神経が興奮すると、姿勢の緊張も高くなって腕がピンと張ったり、上手くしゃべれなくなったりすることが多いです。
アテトーゼ型の脳性麻痺の場合は、知的障害や精神遅滞が起こることは稀であると言われています。有名な例では、徳川幕府9代将軍の徳川家重は四六時中の歯ぎしり、言語不明瞭などがありましたが、知能はむしろ高かったと言われています。これは典型的なアテトーゼ型の脳性麻痺の症状と考えられています。
失調型の脳性麻痺は、小脳の錐体路外系という運動の協調に関する部位の損傷で起こる障害です。脳性麻痺の約5%で起こり、何らかの運動を起こす際に筋肉がうまく緊張せず、正常と低緊張を繰り返す状態です。
上記3つのうち、2つ以上が複合して発症するのが混合型です。ほとんどが痙直型とアテトーゼ型の混合タイプで、重度の知的障害を伴う場合もあります。
脳性麻痺自体を完治させることは、残念ながらできません。そこで、脳性麻痺と診断された場合は、できる限り自立して生活を送れるよう、生活をサポートするような療育を行うことになります。小児が自発的に活動できるよう、自立性を高めることが重要です。
理学療法や作業療法では、筋肉の制御や歩行を改善するための装具をつける、リハビリテーションを行うなどの療法が行われます。
非麻痺側上肢抑制療法とは、麻痺していない正常な部位をあえて拘束し、麻痺している部位を強制的に動かさざるを得ない状況を人工的に作ることで、麻痺している部位を動かす神経経路を新たに作る療法です。この方法により、麻痺のある手や脚でも作業や日常生活を送れるようにすることが目的です。
この方法は、片麻痺や単麻痺など、麻痺が四肢の一部に限られている場合に有効です。
脳性麻痺の言語療法は、脳の言語機能自体には損傷がない場合が多いことから、発音や発声のリハビリテーションを行うことになります。これにより、かなりはっきりと話せる状態にまで回復することもあります。また、口周りの筋肉や器官の訓練をすることで、嚥下障害などの部位の同じ障害も改善されることがあります。
薬物療法は、注射と内服薬の2つがあります。注射は該当部位に直接行い、内服薬は経口摂取します。いずれも筋肉の緊張を弱める目的で使用されます。
注射は、ボツリヌス毒素を筋肉内に注射したり、筋肉を刺激する神経に薬剤を注射したりすることで、筋肉の緊張を弱めます。ボツリヌスというと毒性の強いイメージですが、その毒性は神経伝達物質の放出を阻害する、いわゆる筋肉を弛緩させるというものです。この効果に着目し、脳性麻痺だけでなくけいれんやしわの軽減・改善など、筋肉の緊張を緩めることで症状を緩和する目的で薬剤として使われています。
内服薬は、バクロフェンを始めとし、ベンゾジアゼピン系・チザニジン・ダントロレンなどが使われます。痙縮が特に強い小児では、脊髄周辺にバクロフェンを持続注入する埋め込みポンプを使用することで、継続的な薬物治療が適用となる場合があります。
手術療法では、動きを制限するようなこわばった筋肉の腱を切断、または伸ばす療法が行われます。特に、未熟児で知能が正常、かつ痙縮が主に脚に限られる小児の場合、脊髄後根切断術という脊髄につながる特定の神経根を切除する手術を行うと、痙縮が抑えられることがあります。
脳性麻痺は脳に加わったダメージが原因で引き起こされる病気です。残念ながら、脳のダメージを元に戻すことはできないため、脳性麻痺は症状と上手く付き合っていくための療育が必要になります。
療育では、筋力トレーニングやストレッチなどが行われますがなるべく早く始める方がよりよいとされています。診断を受けた段階で療育を始めるようにしましょう。
また、医療機関によっては、緊張している筋肉をほぐすための薬物療法や手術、ボツリヌス毒素注射などが行われたりすることもありますが、効果には個人差があり、全く効き目がないことも少なくありません。
どのように治療・療育を進めていくかは担当医とよく相談して決めるようにしましょう。
脳性麻痺は、原因を直接改善する治療ができる疾患ではありません。そのため、症状に応じて療育を行う必要があります。また、症状の度合いに応じて、薬物療法や手術療法の適応となる可能性もあります。
脳性麻痺でも、軽度の場合は普通学級で生活することもできます。大切なのはそれぞれの症状に合った療法・療育を行い、自立した生活を送れるようなサポートを行うことです。子供の成長を見守りながら、気になるとことがあるときは医師に相談して、適切な対処がとれるようにしましょう。