記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
2017/3/24 記事改定日: 2018/3/26
記事改定回数:1回
記事監修医師
前田 裕斗 先生
妊娠中は大半の妊婦さんが眠気を感じるといわれています。ある程度の眠気は仕方ありませんが、仕事中の眠気や昼間起きていられないほどの眠気に対しては何らなの対策を取りたいところです。
この記事では妊娠中の眠気の原因と対策方法をご紹介します。眠気に悩む妊婦さんやこれから妊娠を予定している人は参考にしてください。
妊娠初期に眠気を感じる妊婦さんは多く、日常生活にも支障を来たすほどの睡魔に襲われることもあります。妊娠と眠気の因果関係は正確に解明されていませんが、妊娠初期には大幅なホルモンバランスの変化があります。特に、妊娠すると増加するプロゲステロンは体温を上昇させ、血管を拡張して血圧を低下させる作用があり、このプロゲステロンの作用によって眠気が引き起こされているとの考え方が一般的です。
また、急激な体調変化やつわりなどに体がついていかず、疲れやすいのも妊娠初期の特徴といえるでしょう。疲れは眠気の原因にもなるため、妊娠初期の眠気の正体は疲れであるとの意見もあります。
妊娠による眠気を予防することは残念ながらできませんが、眠気を感じたら、無理をせずにゆっくり休むことが必要です。短時間の昼寝は眠気もすっきりし、気分も冴えるものです。しかし、一回2時間以上の昼寝や頻回の昼寝は夜の睡眠に影響を及ぼすこともありますから注意が必要です。昼寝をした時にも、夜は早めに休むようにして規則正しい生活を送るようにしましょう。
妊娠中期に入っても黄体ホルモンの産出が激しくなります。これはいわゆる妊娠ホルモンといわれるものです。体は、妊娠中に疲労や栄養不足などのリスクを少しでも感じたら、それをいち早く察知して防御する働きをします。
眠くなるのは「休養せよ」というシグナルが出たと考えましょう。また、妊娠前にコーヒーなどのカフェインを飲んでいた人が妊娠中に飲まなくなることで、眠気を感じるようになることもあるといわれています。
妊娠後期の眠気の多くがの夜の睡眠不足が原因といわれています。長時間寝ていたとしても、睡眠の質が良くないため疲れが回復できずに眠くなってしまうのです。睡眠不足になってしまう主な原因と対策法は次のようなものです。
妊娠初期と後期に特にトイレが近くなります。腎臓は通常の50%増の血液を通しています。その結果、排尿回数も多くなります。後期になるとお腹の赤ちゃんが下がってきてぼうこうを圧迫しますから、なおさらトイレは近くなります。
対策は、寝る2時間前からは水分補給をひかえましょう。しかしそれ以外のときは十分に水分はとらなくてはなりません。
ふくらはぎのけいれんの原因は正確にはわかっていません。しかし、妊娠によりお腹が重くなり、脚の血管を圧迫し疲労させるのではないでしょうか。また、血清中のカルシウムとマグネシウムの低下が原因ともいわれています。
対策は、食事を通じてミネラルの摂取量を上げることが役に立つかもしれません。日中は水をしっかりとり、サポート機能のある長靴下をはきましょう。病院入院中に使うタイプのものは薬局などで市販されています。けいれんがおこったら、脚をまっすぐにして、やさしく伸ばすか、少し冷たい風を当ててみましょう。これらが一時的にも効かなかったり、あまりに頻繁なようなら、医師に相談してください。他の重大な血液関連の病気の可能性があります。
妊娠ホルモンの影響で通常よりも長時間胃酸が胃の中にとどまっています。そのせいで特に夜横になったときに、胸焼けが頻繁におきます。ちょうど逆流性食道炎(胃食道逆流症)のような症状です。
対策は、真夜中に胃の中が完全に空にならないように、寝る前に少しだけ胃に負担のない軽食を食べましょう。りんご一切れやチーズ、全粒粉マフィンなどを、細かくしてよく噛んで食べてください。あたたかいミルクもよいでしょう。あまりひどいようなら、医師に妊娠していることを必ず告げて、薬を処方してもらいましょう。
これも妊娠ホルモンの影響で鼻の粘膜が腫れて鼻がつまるといわれています。このせいでいびきを誘発することも多く、眠りがさらに浅くなります。対策は、妊娠中も安全に使えるスプレーや点鼻薬などを医師に処方してもらってください。
特にひどいいびきは、高血圧と糖尿病に関連づけられる、睡眠時無呼吸症候群の可能性もありますので、医師に相談してください。睡眠時の無呼吸は血液中の酸素レベルを下げ(呼吸する空気が少なければ体に入る酸素も少なくなります)、高血圧、心臓発作、脳卒中、肥満、糖尿病、うつ、心不全などのリスクが上がります。無呼吸症候群の妊婦さんは糖尿病と子癇前症という赤ちゃんにとって危険な状態になりやすい可能性があるのです。ある調査によれば、無呼吸症候群のお母さんたちは3倍も帝王切開の可能性が増えるといわれています。
ホルモンの影響もあり、出産や将来の不安で神経をすり減らして不眠状態になることがあります。
対策は、出産後のうつにもつながりかねない問題ですので、パートナーともよく話して、精神的に安定できる方法をさぐりましょう。
日中は、リラクゼーションのために体操やウォーキングをしましょう。室内では、閉じこもりがちにならないで、窓を開けて新鮮な空気と日光を取り込むように心がけてください。
今は働いている女性が多いですから、仕事をしながら妊娠生活を送ることも珍しくありません。
仕事中の眠気は集中力や作業効率の低下にもつながり、体調の面でも非常につらいものです。しかし、眠いからといってすぐに昼寝を許されるような職場は少ないでしょう。
眠気を感じたときには、ガムやミントタブレットなどの眠気覚ましを口に含んだり、ごく短時間に席を立って伸びをするだけでも眠気が改善することがあるので、試してみてください。
しかし、やはり一番の解決方法は仮眠です。妊娠初期は体形が変化しておらず、周りに妊婦さんと気づかれることはないでしょうが、早めに職場に報告して体調変化に対して理解を得ることも必要です。
時間がとれるようなら、短時間でよいので仮眠をとるようにしましょう。
妊娠中はホルモンの変化などの影響で眠くなってしまうものです。家族や職場の人に協力してもらいながら、乗り切っていきましょう。ただし、夜間の睡眠が十分とれなくなってしまうと著しく健康を損なってしまうことがあります。担当医師に相談しながら自分の健康状態を常に把握するようにしてください。