記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2018/8/20 記事改定日: 2019/6/3
記事改定回数:1回
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MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
これまで、筋肉痛などの筋肉疲労の原因物質は「乳酸」といわれていましたが、近年それに代わる新しい説が出てきていることをご存知ですか?以降では筋肉の疲労物質として新しく注目されている原因や、有効な対処法について解説していきます。
乳酸は、運動をしてグリコーゲンやブドウ糖が使われるとき、同時に生成されます。そしてこの乳酸が蓄積することで、筋肉が中性から酸性にかたむき、疲労が起こっていると考えられてきました。これは、イギリスのノーベル賞受賞学者アーチボルドビビアン・ヒルが、1929年にこの理論を提唱したためです。
しかし最近では、疲労の原因は乳酸ではなく、乳酸の生成過程で発生する水素イオンが身体を酸性へとかたむけていること、そして、エネルギー源である筋グリコーゲンの蓄えが減少することが疲労の原因であることが解明されてきました。
以前乳酸が疲労の原因であると考えられていたときには、この乳酸の分解、除去に効果があるものとしてクエン酸が有効だといわれてきました。クエン酸は酸味を感じさせる成分で、レモンやオレンジなどの柑橘系の果物や梅干しなどに含まれています。さらに、クエン酸回路という代謝経路を経て、私たちの体の中でも生成されているものです。
乳酸が、疲労物質ではなく、脳や体の重要なエネルギーであることが分かった今でも、クエン酸は疲労回復に効果的な成分であると考えられています。それはクエン酸が、運動やストレスによって供給が低下するATPという物質の産出を増加させることができると考えられているからです。
ATPは、筋活動のエネルギー源となる物質であり、これが減少すると筋活動のレベルが低下してしまいます。そのため、クエン酸がATPの産出を増加させられれば、筋活動のレベルが低下するのを防ぎ、疲労の原因に対処できることになるでしょう。
疲れた筋肉を回復させるは、一体どんなことをしたらよいのでしょうか。重要なのは、筋肉の血液循環をよくすることで、主に、ストレッチや入浴、マッサージなどがおすすめです。また、逆にウォーキングや水中を軽く歩くなどの、軽度の有酸素運動もよいとされています。あくまでやりすぎず、負担をかけないよう軽く行うのがポイントです。
このような軽い運動やストレッチなどは、アクティブレスト(積極的休養)と呼ばれ、入浴やマッサージなどと組み合わせると効果的だと考えられています。
ほかにも、スポーツ選手などの激しい運動を行う人が、よくアイシング(冷却)をしているのを見ることがあるでしょう。これは、筋肉の温度が上昇したままの状態にしておくと、エネルギーが消費されやすくなってしまうためです。上昇した筋肉の温度を下げることが、エネルギーの温存につながります。
また、糖質やタンパク質、ビタミンB群、水分など、体の栄養になるものを積極的に補給することも大切です。
疲労を回復させるには、質の良い睡眠をとることが必要不可欠です。
私たちは、日常生活の様々な場面で緊張したりストレスを感じたりします。すると、自律神経の中の交感神経が過度に刺激され、体内では活性酸素や疲労因子となるたんぱく質が過剰に産生されるようになります。その結果、私たちは疲れを感じたり、身体の様々な部位に痛みなどを感じるようになるのです。
このような活性酸素や疲労因子の生成をストップさせるには、交感神経が作用しないよう睡眠をとることが一番です。また、睡眠中は疲労回復因子が生成されますので、疲れを癒す効果も期待できます。
特に深い睡眠であるノンレム睡眠は、身体だけでなく脳もしっかり休めることができるので疲労回復効果が高いとされています。疲労回復のためには「熟睡感」の高い睡眠を得るよう睡眠中の環境などを整えるようにしましょう。
最近では、乳酸は筋肉疲労の原因となる物質ではなく、むしろ脳や体の重要なエネルギーであることがわかってきました。以前はこの乳酸の対策成分として注目されていたクエン酸ですが、現在では、乳酸対策としてではなく、筋活動のエネルギー源を増加させるのに役立つ成分であると考えられています。筋肉疲労を回復させたいときは、クエン酸の摂取やマッサージ、入浴、アクティブレスト(積極的休養)などを取り入れましょう。