記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2018/12/15
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
脾臓はお腹の上の方に位置する臓器です。体内でも重要な役割を持っているのですが、重篤な疾患に関与したり不調がすぐに自覚症状に結びつく臓器ではないため、普段はあまり意識することはないでしょう。
では、脾臓は実際にどんな働きをしているのでしょうか?詳しく見ていきましょう。
脾臓とは、体の左上腹部にある重さ約80〜120g程度の臓器です。体内で最も血管の多い臓器で、1日に約350Lの血液が脾臓を通過します。主な役割は古くなった赤血球をとらえ、破壊・除去する処理を行うことです。その他、体内に侵入したホコリやハウスダストなどの異物を捉えて処理したり、細菌に対する抗体を作ったりする免疫機能や、血小板をストックしておく貯蔵庫としての働きもあります。
脾臓は肋骨の下に隠れていて、普段はあまり意識することはありません。重要な臓器ですが、成人では手術などで取り除いてもほとんど体に不都合がないこともその一因です。万が一、手術などで脾臓を取り除いてしまっても、骨髄など他の臓器が脾臓の代わりの機能を担うことができるのです。
しかし、小児の場合、脾臓は免疫機能の発達において重要な役割をもっているため、脾臓を摘出してしまうと免疫不全状態をきたしやすくなります。そこで、小児の場合は脾臓に何らかの異常や疾患があってもなるべく脾臓を全て摘出することはせず、脾臓の全部または一部を温存しながら工夫して治療を行います。
このように免疫機能に脾臓が大きく関わる理由の一つとして、脾臓内にリンパ球が多く存在していること、抗体を産生する機能があることが挙げられます。最近では、脾臓はがんに対する抗体を産生したり、逆にそれらの抗体を破壊・除去したりする役割があるのではないかといったことも考えられており、さらなる研究が待たれます。
脾臓の働きは、主に以下の4つに分けられます。
これらの項目について、それぞれ詳しく見ていきましょう。
赤血球の直径は7〜8μm程度で、通常の太い血管に引っかかることはありませんが、毛細血管で最も狭い直径5μmの血管はそのままでは通ることができません。このとき、赤血球はアメーバのようにぐにゃりと変形することで細い血管を通り抜けています。若い(新しい)赤血球では難なく変形できますが、老化した(古くなった)赤血球では変形することができません。
変形しづらくなった赤血球は、同じように狭くなっている脾臓の隙間に引っかかります。つまり、この隙間はフィルターの役割をしていて、まだ変形できる新しい赤血球だけを通し、古くなって変形機能が衰えた赤血球を捕捉するのです。こうして捕捉された赤血球はマクロファージという免疫細胞によって破壊され、赤血球内の鉄分は回収されて骨髄へ送られ、新たな赤血球の材料となります。
赤血球の寿命は約120日といわれており、毎日約2000億個の古い赤血球が脾臓で破壊されると同時に、ほぼ同じくらいの数の赤血球が骨髄で生み出されます。脾臓のフィルターが赤血球を常に新しく保っていてくれるおかげで、毎日いつでも体の各部へ新鮮な酸素を供給することができるのです。
脾臓には、全身の約4分の1のリンパ球が集合しているといわれ、体内で最大のリンパ器官とも考えられています。病原性微生物を始め、体内に侵入してきた異物や代謝によって産まれた老廃物などを攻撃・破壊したり、異物に対する抗体を作ったりする役割があります。とくに、肺炎球菌や髄膜炎菌、インフルエンザウイルスに対して防御する作用があるとされています。
脾臓には、体内の血小板の約3分の1が蓄えられています。血小板は血液中にも存在していますが、血液中の血小板が怪我などで減少したときなどには脾臓に蓄えられている血小板が放出され、血小板の極端な減少を防ぎます。また、血液そのものを貯蔵しておく働きもあり、運動時や緊張時など体の組織が大量の酸素を必要とする際は、貯蔵されていた血液を放出して体の各部に十分な酸素を送ります。
胎児期には、脾臓は赤血球を作っています。この作用を造血作用といい、ヒトを始めイヌやネコなど多くの哺乳類では、造血作用は出生が近づくにつれ徐々に骨髄で行われるように移行していき、出生時にはほぼ骨髄でのみ造血が行われるようになります。ただし、ラットやマウスなどでは出生後も脾臓による造血が行われています。
このため、何らかの原因によって骨髄での造血が行われなくなった場合、脾臓が骨髄に代わって造血を行うことができます。これを髄外造血といい、脾臓だけでなく肝臓などでも行われることがあります。いずれの場合も、髄外造血を行う臓器はメインの機能以外に造血の負担がかかるため、造血を負担した臓器自体も疲弊して何らかの異常をきたすことがあります。
脾臓で髄外造血が行われた場合、肥大して脾腫と呼ばれる状態になることがあります。脾腫は軽症であればほとんど無症状ですが、正常の3倍以上に肥大する重度の脾腫になると周囲の臓器が圧迫されるため、違和感や食欲不振などの症状が現れることがあります。
脾臓は、赤血球の入れ替え・血小板の調節・リンパ球や抗体の産生など、血液成分に関するメンテナンスの役割を持っています。意識することはあまりなくても、私たちの体内で非常に重要な働きをしてくれているのです。
脾臓は自覚症状の少ない臓器で、不具合があれば摘出してしまっても機能にそれほど問題がなかったことから、まだまだわかっていないことも多いのが現状です。さらなる研究が期待されています。
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