記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2018/11/27
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
脾臓は消化器官の膵臓や肝臓、腎臓と比べてあまり知られていない臓器ですが、疾患を発症することもあります。
この記事では、脾臓に起こりうる疾患とその病状、検査方法について解説します。
脾臓とは、左上腹部にある重さ120g程度の臓器です。老化あるいは変形した赤血球を破壊して除去する働きや、怪我をしたときにかさぶたを作る成分である血小板をためておく貯蔵庫としての役割があります。また、脾臓内にはリンパ球がたくさんあり、体内で最大のリンパ器官ともされているため、免疫機能とも深く関わっていると考えられています。
脾臓の性質から、発症する疾患としては主に血液に関するものがあります。具体的には以下の2つが頻繁に起こる疾患です。
これらの疾患はいずれも、脾臓内で破壊される赤血球や血小板が多すぎて、必要な分の赤血球や血小板まで破壊されて数が極端に減少してしまうことが原因です。必要に応じ、脾臓摘出術などが適応とされます。
その他に起こりうる疾患として、脾機能亢進症・インターフェロン導入に関する問題などがあります。
慢性B型・C型肝炎の治療に使用される薬剤に、インターフェロン薬剤という製剤があります。インターフェロンとは生体がウイルスに反応して作られた免疫の一種で、薬剤として体内に大量に供給することで疾患を治療しようという治療法です。
この際、インターフェロンの副作用で血小板が減少することがあるため、脾機能亢進症を含め、脾臓の疾患で血小板が減少している場合はインターフェロンの投与を中止しなくてはならない場合があります。
また、脾臓に腫瘍ができることは他の臓器と比較して稀ですが、悪性リンパ腫などをはじめとした悪性腫瘍が発生することがあります。これらは近年、画像診断技術の進歩によって、発見される機会が増えています。
発見される腫瘍は悪性リンパ腫以外にも血管腫、リンパ管腫、過誤腫、嚢胞性腫瘍など多岐にわたっており、画像診断で良性か悪性かなどの確定診断は難しいのですが、悪性が否定できない場合は脾臓摘出の適応となる場合もあります。
赤血球とは、通常中央部分が凹んだ楕円形に近い形をしています。これは、血管や組織の狭い部分を通過するときに赤血球が折り畳まれ、血管や組織の細胞が赤血球と接触することで摩擦・摩耗するのを防ぐためです。赤血球は酸素や二酸化炭素の運搬を担っているため、組織や血管の細く狭い隙間にまで入り込む必要があるのです。
遺伝性球状赤血球症の人の赤血球は、この特殊な形状を保つための細胞骨格を作っているタンパク質に遺伝子異常があります。この異常によって、赤血球が健康な人と同じように変形できず、細い血管や組織の隙間、脾臓を通過するときにも折り畳まれません。すると、通過するときに血管や組織の壁と接触し、川の流れによって石が削られ同時に川岸も削られていくように、赤血球と組織の両方の細胞が削られて摩耗していきます。
細胞膜が減っても細胞の中身の量は変わらないため、赤血球は内容物の内圧に押されるように同じ表面積で最も多い体積を保持できる球形に近づいていきます。このため、球状赤血球症と呼ばれています。球状になるとますます細胞と摩擦し削られていくため、細胞膜がどんどん薄くなり、最終的には赤血球が壊れて溶血となります。つまり、健康な人よりも赤血球が壊れやすい病気といえます。
症状は主に溶血による黄疸と赤血球不足による貧血の2つがあります。黄疸は溶血した赤血球から流れ出すビリルビンという成分によるもので、通常このビリルビンは肝臓へ運ばれて処理されたあと排泄されますが、ビリルビンの量が非常に多い場合や、肝機能が低下している場合は処理が追いつかず黄疸が生じます。
新生児期に黄疸が見られた場合、この疾患によって血中ビリルビン濃度が増えている状態と考えられ、黄疸の程度によっては脳にビリルビンが沈着し、発達障害などを引き起こす可能性があるため、光線療法を行うこともあります。ただし、この疾患による新生児黄疸の場合、貧血の症状が深刻化していることは稀です。
胎児期にこの疾患が重症化していると、重篤な貧血が起こる場合があり、胎児水腫を引き起こすことがあります。胎児水腫とは、貧血によって胎児の胸部や腹部に水がたまり、全身にむくみ(浮腫)の症状が出ている状態のことです。胎児水腫の場合、胎内での有効な治療法はないため、出生後になんらかの治療を行います。
胎児期・新生児期を過ぎて症状が落ち着くと、皮膚の黄疸や浮腫はほとんど見られなくなります。しかし、パルボウイルス感染、葉酸・ビタミンB12不足など、赤血球を作る組織である骨髄の活動を抑制するような状態に陥ると急激に貧血が進行することがあります。これは、患者さんでは赤血球が壊れずに体内を循環できる期間が短いことから、生命活動を行うためには常に骨髄が活性化して赤血球をたくさん作り続けなくてはならないためです。
また、皮膚に黄疸が出るほどではなくとも溶血によって赤血球からビリルビンが漏れ出る量が健康な人よりも多いため、肝臓の処理能力を超えるとビリルビンが胆石を作り、そこから胆石疝痛発作につながるリスクが高くなることもあります。
血小板は、怪我などで血管が破れ血液が流れ出した際に血液を凝固させ、かさぶたを作って止血する働きがあります。血小板が減少すると出血しやすくなったり、出血してしまうと止まりにくくなったりします。
特発性血小板減少性紫斑病の場合、血小板の減少をきたす他の疾患や薬剤を服用していないにも関わらず、血小板の数が減少し、出血しやすくなります。原因は血小板に対し自己抗体ができ、自己免疫機能によって脾臓で血小板が破壊されてしまうことだと考えられていますが、なぜ血小板に対して自己抗体が産生されるのかはわかっていません。血小板の数が10万/μL未満にまで減少した場合に、この疾患を疑います。
特発性血小板減少性紫斑病において、疾患の発生から6ヶ月以内に血小板の数が正常値まで回復する「急性型」のものは小児に多く、小児の特発性血小板減少性紫斑病の約75〜80%が急性型です。ウイルス感染や予防接種に付随して一時的に起こる場合が多いです。
逆に、6ヶ月以上血小板の減少が続くと「慢性型」と診断され、成人に多く見られます。慢性型の場合原因の特定は難しく、遺伝子の異常によって発症する疾患でもないため、遺伝家系などの報告もありません。しかし、20〜40歳台の女性では男性の約3倍と発症率が非常に高くなっているため、該当年代の女性では注意が必要です。また、高齢者では男女差はなく、60〜80歳で多く見られます。
特発性血小板減少性紫斑病では、出血しやすくなること、出血後に血が止まりにくくなることが主な症状です。具体的に現れてくる自覚症状としては、以下のようなものがあります。
一般的に多く見られるのは、皮膚に点状や斑状の出血が出る場合です。この症状が出るとおかしいな、と気づく人が多いようです。しかし、いずれの症状もこの疾患に特異的なものではないため、これらの症状が出ているからといって必ずしも特発性血小板減少性紫斑病であるとは断言できません。血小板が減少しているかどうかの検査などを含め、きちんと医師の診察を受けましょう。
脾臓に針を刺したり切除したりという組織の採取を行うと、止血不可能な出血を引き起こす恐れがあります。そこで、検査では脾臓の組織を採取することはせず、画像診断や血液検査、骨髄検査から疾患を診断します。ただし、ある疾患や治療によって手術で脾臓を摘出した場合、摘出した脾臓に病理検査を行い、疾患を特定することはあります。
ほとんどの脾腫は診察によって診断が可能とされています。中には、腹部のX線検査を行った際にたまたま脾腫が見つかる例もあります。脾臓の大きさや、他の臓器を圧迫していないかどうかを検査するために、超音波・CT・MRIなどの検査を行う場合があり、MRIでは脾臓を通過する血流の様子を見ることもできるため、非常に有益な診断情報となります。
血液検査では、血球や血小板の減少を見ることはもちろん、顕微鏡下で赤血球の形を見ることが診断の手がかりとなることもあります。必要があれば血中タンパク質や肝機能検査を行い、脾腫を起こす他の疾患の有無を調べたり、肝臓にダメージが及んでいないかを調べたりすることもあります。
脾臓は赤血球と血小板という、血液の中でも非常に重要な成分の2つを司る器官です。ですから、脾臓が病気にかかると血流に影響を及ぼし、貧血や出血が止まらなくなるなど、全身に症状が発生することが考えられます。
ただの貧血や内出血などと侮らず、早めに病院で診察を受けるようにしましょう。
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