脾腫で脾臓が腫れたときの症状と治療後の体の変化とは?

2017/12/6 記事改定日: 2020/9/21
記事改定回数:3回

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

「脾腫」とは脾臓が腫れて大きくなる病気です。脾臓は赤血球や白血球、リンパ球の量に関係しているため、進行すると様々な症状が現れます。この記事では、脾腫の治療法や脾腫の原因となる病気について解説しています。

脾臓の働きと脾腫について

脾腫とは脾臓が腫大していること(腫れて臓器全体が大きくなっている状態)を指します。脾臓は体内で、次のような重要な働きを担っています。

  • 古くなった赤血球を破壊をして取り除く
  • 白血球や血小板を貯蔵し、出血など身体に異常があったときに備える
  • 脾臓に全身のリンパ球も集め、免疫機能にも大きな影響がある

脾臓が巨大化して脾腫になると、脾臓が過剰に働く「脾機能亢進」が起こってしまい、赤血球の量が少なくなってしまったり、血液中の白血球や血小板の量が減ってしまい、以下のような状態に陥ることがあります。

脾機能亢進で起こる体の変化
  • 赤血球が不足して貧血が起こる
  • 白血球が不足して免疫が落ちる
  • 血小板が減少して出血しやすく、血が止まりにくくなる

脾腫で脾臓が腫れたときの症状は?

脾腫になると脾臓が腫れ、その分脾臓の面積が大きくなります。脾臓が腫れることで、左上腹部や背部に痛みがでることがあります。また脾臓が大きくなることで他の臓器を圧迫して腹部の膨満感を感じることもあるでしょう。

脾臓の腫れ方によっては、肺へ影響して呼吸困難が起こったり、消化器へ影響して便秘や吐き気が起こることがあります。

また、脾腫になり脾臓が大きくなると過剰に白血球や血小板を蓄えるようになってしまったり、赤血球も過剰に破壊してしまうようになります。

脾臓が腫れたときの症状
  • 左上腹部や背部の痛み
  • 膨満感
  • 呼吸困難
  • 便秘
  • 吐き気

溶血性貧血

脾臓には血球を破壊する作用がありますが、脾臓の機能が異常に亢進して脾腫が生じると、脾臓に多くの赤血球が補足され、通常よりも多く破壊されることによって貧血を引き起こすことがあります。

このような貧血を「溶血性貧血」と呼びますが、赤血球以外の白血球や血小板など他の血球成分も減少します。また、血球が減少することによって血球の元となる骨髄細胞が異常増殖したり、黄疸などの症状が現れることがあります。

脾臓を摘出することで貧血症状は大幅に改善しますが、術後は感染症にかかりやすくなるなどトラブルが生じやすいので慎重な経過観察が必要となります。

脾腫の原因になる病気って?感染症が脾臓にダメージを与える?

脾腫は何らかの元になる病気によって引き起こされます。脾腫の原因となる病気は非常に数が多いです。

脾腫の原因となる感染症

代表的なものとして、マラリアや梅毒、結核といった感染症が挙げられます。これは感染症にかかることで脾臓の免疫機能が酷使されて脾臓に大きなダメージが加わるからだと考えられています。

脾腫の原因となる心臓循環器系疾患

心臓循環器系による脾臓への血行不良や肝硬変による肝門脈うっ血も原因の一つです。脾腫が起こった場合には、このような原因となる病気を確認することが重要です。

その他の原因疾患

悪性リンパ腫や白血病といった白血球やリンパ球に異常をきたす病気です。白血球やリンパ球が過剰に生産されることで、脾臓は通常の量よりも多く白血球やリンパ球を破壊しなくてはならず、負担が大きくなり機能を補おうとして脾腫を引き起こします。

脾腫の治療方法は?ワクチン接種は必要なの?

脾腫を治すには、まず原因の病気を治療することが重要です。原因の病気が治癒すれば脾腫も治ることが多いですが、原因になる病気の治療が困難な場合には脾臓摘出という方法がとられることもあります。また、放射線療法で脾臓を小さくする治療もあります。

摘出後の注意点

手術で免疫機能をつかさどる脾臓を摘出すると、身体全体の免疫機能が弱まります。そのため脾臓摘出をした後は、いつも以上に免疫機能が落ちているということを自覚し生活していく必要が出てくるでしょう。

感染症にかかりやすくなっているので手洗いうがいなどをしっかりと行い、ワクチンを接種するなど、感染を事前に防ぐ対策が重要になります。

ワクチン接種について

脾臓は免疫機能を司る大切な臓器であるため、摘出した場合は感染症にかかりやすくなり、さらに重症化しやすいです。
このため、脾臓を摘出したときは重症な感染症を未然に予防するためにも次のようなワクチン接種が推奨されています。

  • 肺炎球菌
  • ヒブ(インフルエンザ桿菌B)
  • 髄膜炎菌

これらのワクチン接種は手術前に行う方法と手術後に行う方法があります。とくに肺炎球菌は、感染したことがある人も2つのタイプのワクチンを接種するのが一般的です。スケジュールの計画については担当する医師とよく相談して打ち忘れがないようにしましょう。
なお、ワクチン接種の一部はは保険適応となります。

上記以外では、インフルエンザワクチンを毎年忘れずに受けるようにしましょう。

脾腫を予防するためにできる対策はある?

脾腫には上述したように様々な原因があります。発症を予防する対策としては、感染症への予防策を徹底すること、循環器疾患を予防するために高血圧・糖尿病・脂質異常症・肥満など動脈硬化の原因となる生活習慣病を予防することなどが挙げられます。

一方、脾腫は溶血性貧血やリンパ腫など自己の努力のみでは予防できない病気が引き起こすことも少なくありません。腹満感・左上腹部の痛みなどが続くときは放置せずに早めに病院を受診するようにしましょう。

おわりに:脾腫で脾臓を摘出すると、免疫が著しく低下するので注意!

脾腫は、脾臓が腫大化して脾機能亢進が起こってしまう病気です。原因となる元の病気を治療すれば症状が治まることも多いですが、元の病気が治療できないときは摘出をしなければいけなくなる場合もあります。

脾臓を摘出すると免疫が低下して感染症にかかりやすくなるので、インフルエンザのワクチンは毎年接種するようにするなどの対策が必要です。

脾腫の原因になる病気は生活習慣の改善や感染症の予防で対策できるものもあるので、気になる場合は早めに対処するようにしてください。

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