記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/5/29 記事改定日: 2020/8/18
記事改定回数:1回
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MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
大動脈とは、全身に血液を送り出す血管のことです。大動脈には、大動脈弁という弁があります。生まれつき大動脈弁に異常がみられる「大動脈弁二尖弁(にせんべん)」とはどのような状態なのでしょうか?大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症、大動脈瘤の発生に関わるといわれるのはなぜか説明します。
大動脈弁とは、心臓から全身に血液を送り出す「大動脈」の根本、心臓の左心室から血液が出る出口にある弁のことです。半月形の膜(弁尖:べんせん)が3枚あり、この弁尖が開いたり閉じたりすることで血液を送り出したり止めたりしています。弁があるおかげで、左心室から全身へ送られる血液が逆流することはありません。
しかし、まれに生まれつきこの「弁尖」が2枚になってしまっている人がいます。お母さんの体内で発育するときに3枚の弁尖のうち2枚がうまく分離できず、2枚のまま成長してしまう状態で、大動脈弁二尖弁(にせんべん)と呼ばれています。
大動脈弁二尖弁になる人の割合は100人に1~2人と決して少なくはありませんが、大半の人は特に治療をしなくても問題なく一生を送ることができます。
そのため、大動脈弁二尖弁そのものは疾患とは言えず、必ずしも治療が必要というわけではありません。
しかし、本来3枚である弁尖が2枚になってしまっていることで、弁の開閉にかかる力が3枚のときよりも強くなり、長時間が経つと3枚の弁よりも壊れやすいことがわかっています。すると、弁が開きにくくなって血液が流れにくくなってしまう「大動脈弁狭窄症」や、弁が閉まりにくくなって血液が逆流してしまう「大動脈弁閉鎖不全症」などの疾患を発症することがあります。壊れやすさには個人差があるため、必ずしも高齢になってから発症するとは限りません。
大動脈弁二尖弁になっている人は、大動脈の根元(大動脈基部)が壊れやすくなる傾向があります。上行大動脈や大動脈基部の壁が弱くなって拡張し、「大動脈瘤」という瘤状になってしまうことがあります。
次の章から、大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症、大動脈瘤について説明していきます。
大動脈弁二尖弁だけの状態であれば、特に早急な治療が必要とは限りません。しかし、大動脈弁狭窄症や大動脈弁閉鎖不全症を発症するとできるだけ早めの治療が必要となります。まずはそれぞれの疾患と症状についてみていきましょう。
大動脈弁狭窄症とは、左心室から全身へ血液を送り出すときに開くべき大動脈弁の「弁尖」がうまく開かなくなり、血液が十分に送り出せなくなってしまった状態のことをいいます。原因は、大動脈弁二尖弁、加齢や動脈硬化による加齢性大動脈弁狭窄症、リウマチ熱が原因となるリウマチ性大動脈弁狭窄症があります。
大動脈弁狭窄症は初期段階ではたいてい無症状で、健康診断の心電図や心臓以外の手術の術前検査などで発見されることが多いです。
病状が進むと弁が石灰化して互いにくっつき合ってしまうためどんどん狭くなり、血液が流れにくくなっていきます。すると、血液を送り出そうとする心臓の負担が大きくなります。心臓に大きな負担がかかったまま病状が進行し、心臓がだんだん弱ってくると、さまざまな症状が出てきます。代表的な症状は以下の通りです。
こうした症状が現れるほど進行している場合、その後の病状の進行も速く、数年以内に生命に危険が及ぶことも多くなります。そのため、迅速に治療を開始しながら慎重に経過観察をしていく必要があります。
また、無症状の時期であっても弁の状態によってはすぐの治療が必要なこともあります。
大動脈に押し出した血液が心臓に逆流しないように、通常は閉まるはずの大動脈弁の「弁尖」が閉じにくくなり、送り出された血液が再び心臓内に逆流してしまう状態のことをいいます。
原因は、大動脈弁二尖弁、加齢や動脈硬化、リウマチ熱や感染性心内膜炎などによって弁が壊れてしまうことなどです。
弁の障害のほか、大動脈自体の障害によって大動脈弁閉鎖不全症が引き起こされる場合もあります。マルファン症候群などの生まれつきの疾患や動脈硬化などで大動脈が拡張されてしまう、急性大動脈解離や解離性大動脈瘤のように大動脈が裂けて広がってしまう、大動脈に炎症が起こるなどが考えられます。
大動脈弁狭窄症と同様、血液を送り出そうとする心臓には大きな負担がかかります。しかし、心臓に負担がかかっても初期は順応してしまうため、自覚症状がなく、負担がかかり続けた結果、心臓が弱ってきてからさまざまな症状がみられます。
症状が現れる頃には全身に十分な血液を送り出せなくなっているため、息切れや呼吸が苦しくなるなどの心不全症状が出てきます。症状が進むと、安静時や睡眠中であっても症状を感じることがあります。不整脈や動悸が起こる人もいます。
大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症のいずれも、心臓に大きな負担がかかるため治療せずに放置しておくと生命に危険が及ぶ可能性があります。
そこで、弁そのものを修復する「弁形成術」や、手術によって弁を人工の「人工弁」に交換する必要があります。大動脈弁狭窄症の場合、症状が非常に軽いうちは薬や塩分・運動の制限などで対処する場合もあります。
大動脈弁狭窄症の手術では、硬くなった弁を修復するのは非常に難しく、また修復できたとしてもその後長持ちしにくいため、多くは人工弁によって弁を交換する手術が行われます。
人工弁には、機械弁と生体弁の2種類があります。
金属でできた弁のことで、100年の耐久性があるとされています。しかし、金属弁をつけている間はずっと「ワーファリン」という薬を飲み続ける必要があります。ワーファリンは血液を固まりにくくする薬剤で、血液が機械弁に触れることで固まって血栓になるのを防ぎます。
しかし、逆に血が止まりにくくなるため、小さな傷口でも大量に出血してしまうことがあります。怪我や歯磨き、カミソリなどによる出血に注意する必要があります。
また、ワーファリンを飲んでいる間は毎月血液検査を受け、適正に薬が効いているかどうかを確認する必要があります。それでも、年配の方では毎年1~2%が脳梗塞を引き起こしているという報告もあります。
ウシやブタの弁を加工したものが生体弁で、血液が触れても血栓になりにくいため、通常は手術後にワーファリンを飲む必要はありません。しかし、心房細動などの不整脈を発症している場合、ワーファリンを飲む必要があることもあります。
生体弁を用いた手術では毎月の検査や、薬剤を飲み続けなくてはならないわずらわしさはありませんが、生体弁は若者で10年程度、年配の人で10~20年程度で寿命となります。そこで、これらの年数が経過したのちに再度手術を行い、新しい生体弁に取り替える必要があります。
なお近年ではワーファリン以外の抗凝固薬を使用することもあります。
大動脈弁閉鎖不全症の場合、弁形成術と弁置換術のどちらを適用するかは年齢や弁の形によって異なります。
弁形成術と弁置換術のいずれの場合も弁のかみ合わせを修正し、しっかり閉じられるようにすることが目的の手術です。弁形成術は難易度が高いため、弁の形が弁形成術に向いていない場合は人工弁を用いた弁置換術を行います。しかし、どちらの手術も安全性は高く、大きな問題がなければ2週間程度で退院できます。
一部の施設では、皮膚の術創が比較的小さくなるよう、「MICS」という小さく開いて手術する低侵襲な術式を使っているところもあります。通常の手術では「胸骨正中切開」と言って胸骨の真ん中を縦に切り開く方法が取られますが、MICSではもっと狭い範囲を切開したり、場合によっては骨を切らずに行ったりします。
患者さんの苦痛を軽減したり、社会復帰が早まったりすることが期待できる手術ですが、反面、狭い視野で正確に手術の操作を行う必要があり、施術する医師に豊富な経験が必要です。そのため、まだ広くは普及しておらず、行える施設は限られています。
大動脈弁二尖弁そのものは、すぐに治療が必要な疾患ではありません。しかし、この状態になっている人は、弁尖だけでなく「上行大動脈」という左心室から出て上向きに血液を送り出す部分や、それよりもっと左心室に近い部分である大動脈の根元(大動脈基部)が壊れやすいことがわかってきてきます。
特によくあるのが、上行大動脈や大動脈基部の壁が弱くなって拡張し、いわゆる「大動脈瘤」という瘤状になってしまう状態です。
大動脈瘤そのものはほとんど無症状ですが、瘤が破裂したり、解離性動脈瘤という血管の3層のうち真ん中の層が破れて解離してしまったりすると突然の激痛が走ります。上行大動脈に解離性動脈瘤が起こると、生命を脅かすこともあります。
大動脈弁二尖弁が発覚したら、心臓エコーなどで心臓そのものの状態を確認すると同時に、CT検査などを利用して大動脈の状態を同時に調べることが必要です。
大動脈瘤がある程度以上に大きくなっていた場合、弁を手術するときに大動脈瘤も一緒に手術します。瘤の状態によって、人工血管に置き換える場合とカテーテルで覆って小さくする場合の2種類がありますが、何らかの処置をすることで大動脈瘤を破裂しにくくし、患者さんの生命を安全に保つのです。
大動脈弁二尖弁の人は、上述したように弁の石灰化などが起こりやすく大動脈瘤などの重篤な合併症を起こしやすくなります。
そのため、日常生活では合併症のリスクを最小限に抑えるために高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を予防していくことが大切です。
食生活や運動習慣に注意し、ストレスや疲れが溜まりにくい生活を心がけましょう。また、喫煙習慣も合併症のリスクを高めることになりますので、禁煙するのが望ましいと考えられます。
その他、動悸や息切れなど心機能の低下によって生じる症状が現れた場合はできるだけ早く病院を受診し、適切な治療を受けるようにしましょう。
大動脈弁二尖弁そのものは、すぐに治療が必要な疾患ではありません。しかし、本来3枚ある弁が2枚しかないため、2枚の弁にはその分の負担が余分にかかります。そのため、長期的には大動脈弁に関する疾患や、大動脈瘤を発症するリスクがあります。大動脈弁二尖弁が発見された場合はよく検査をし、その後の経過観察も気を抜かず行いましょう。