記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/5/22
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
溶連菌に感染した場合、のどの痛みを始めとしてさまざまな症状が現れます。これらの症状が出たら病院に行って診断を受け、治療を始めることになりますが、治療にはどのようなものがあるのでしょうか。また、治療中にはどのようなことに気をつければ良いのでしょうか。
溶連菌に感染すると、以下のような症状が出てきます。
特に乳幼児の場合、急な発熱とのどの痛みがまず起こります。また、皮膚に赤い発疹が出たり、舌が赤くなってブツブツとした発疹が起こる「イチゴ舌」と呼ばれる状態になったりします。潜伏期間は2~5日で、のどの痛みや発熱があっても、風邪のように咳や鼻水が出ないのが特徴です。
これらの症状が重症化すると「膿痂疹(のうかしん:とびひのこと)」や「蜂窩織炎(ほうかしきえん:皮膚が炎症を起こして腫れる)」をはじめ、中耳炎や肺炎、化膿性関節炎、骨髄炎、髄膜炎などのさまざまな疾患を引き起こします。
また、溶連菌感染症から合併症を引き起こす場合もあります。合併症には急性腎炎やリウマチ熱からの心臓弁膜症など、心臓や腎臓などの疾患が考えられます。重症化しないためには、感染が発覚した段階で正しく抗生物質を服用し、確実に除菌を行っておくことが大切です。
一般的に溶連菌感染症の原因となる「A群溶血性連鎖球菌」は、「人食いバクテリア」などの呼び名で知られる「劇症型溶血性連鎖球菌感染症」を引き起こす細菌であることも知られています。「劇症型」は30歳以上の大人に多くみられ、四肢の痛みや腫れ・発熱、血圧低下などの初期症状から非常に急激に病状が進行し、体の各組織の壊死や臓器不全を引き起こしてショック状態から死に至ることもある怖い疾患です。
「劇症型」を発症する理由はよくわかっておらず、発症率も100万人に1人と高い割合ではありませんが、それでも毎年ある程度の人数がかかってしまう疾患です。「劇症型」を発症することのないよう、溶連菌に感染したら初期の段階でしっかりと治療することが大切です。
溶連菌に感染していることがわかったら、治療を行います。治療には抗生物質を使い、菌の増殖や活動を抑えて除菌します。抗生物質を服用し始めると1~2日で症状そのものは落ち着きますが、症状がおさまっても医師の指示通りに薬を飲み切って体内から細菌をしっかり追い出すことが大切です。
というのも、抗生物質によって症状が落ち着いても、すぐに菌が体内からいなくなるわけではないためです。抗生物質を途中で服用しなくなってしまうと、薬剤耐性菌という薬に対して耐性を持つ菌が繁殖して症状が再発してしまい、しかも薬に耐性を持っているため、同じ薬では治りにくくなることがあるのです。
さらにそれだけではなく、再発した場合、急性腎炎やリウマチ熱などの合併症を引き起こすリスクも高くなります。急性腎炎やリウマチ熱は、症状がいったん落ち着いたように見えても、溶連菌の発症から2週間~1カ月程度経ったころに発症するため、溶連菌感染症の症状が落ち着いても油断はできません。薬を飲むときには、必ず指示された分を確実に飲みきりましょう。
溶連菌感染症の治療には、以下のような抗生物質が使われます。
溶連菌感染症の治療に使われる抗生物質は、まずペニシリン系の抗生物質です。ペニシリンにアレルギーを持っている人は、マクロライド系の抗生物質を使うこともあります。これらはいずれも10~14日程度の内服が原則とされていますが、これらで除菌しきれなかった場合に用いられることがあるセフェム系の薬剤は5日間程度の服用期間が多いです。
いずれの場合も服用は医師の指示に従い、自己判断で薬を止めないように気をつけましょう。
溶連菌は接触感染と飛沫感染の両方が考えられますので、両面から感染を防ぐ必要があります。具体的には、以下のようなことに気をつけましょう。
溶連菌はそれほど感染力の強い細菌ではなく、感染対策をしていない兄弟姉妹の発症率は5%程度とされています。しかし、感染の確率がゼロではありませんし、感染による咳やくしゃみは出ないものの、反射的な免疫反応によって咳やくしゃみが出た場合には菌も飛んでいきますので、近くにいると感染のリスクが高まることは変わりません。
そこで、溶連菌の治療中は念のため、家の中でもマスクをつけましょう。また、ドアノブや電気のスイッチなど、家族みんなが手で触れる場所はこまめにアルコール消毒すると良いでしょう。もちろん、感染者が口をつけた食器を使い回さないことや、フォークやスプーン・直箸(じかばし:お箸を直接大皿につけること)も絶対にいけません。
ただし、これらの対策は服用中の2週間ずっとし続けなくてはならないわけではありません。溶連菌は適切な抗生物質を飲めば約24時間で感染力をなくすと言われています。そこで、診断を受け、薬を飲み始めてから1~2日間の感染力がある間だけはしっかりと感染対策を行っておくことが大切です。
溶連菌感染症は、初期の段階ではのどの痛みや発熱など、風邪と間違えやすい疾患です。しかし、風邪と違って咳や鼻水が出ないこと、発疹やイチゴ舌など、溶連菌に特徴的な症状もよく見られます。溶連菌の疑いがある場合は、早めに病院に行きましょう。
また、処方された薬は確実に飲みきりましょう。薬剤耐性菌を生み出さないだけでなく、合併症を防ぐ目的もあります。症状が落ち着いても、指示通りに薬を飲みきることが大切です。
※抗菌薬のうち、細菌や真菌などの生物から作られるものを「抗生物質」といいます。 抗菌薬には純粋に化学的に作られるものも含まれていますが、一般的には抗菌薬と抗生物質はほぼ同義として使用されることが多いため、この記事では抗生物質と表記を統一しています。