妊娠中や出産後は血栓症のリスクが高いって本当? 有効な対策は?

2019/4/4

前田 裕斗 先生

記事監修医師

前田 裕斗 先生

妊娠中や出産後は、血液が固まって詰まってしまう血栓症のリスクが高くなるといわれています。これはなぜなのでしょうか?また、血栓症にならないためには、どのようなことに気をつければ良いのでしょうか?

妊娠中は血栓症になりやすい

血栓症とは、血管の中で血液が固まり、血のかたまり(血栓)となって血管に詰まってしまった状態です。足の静脈に血栓ができる「深部静脈血栓症」のうち、血栓が血管内を移動して肺動脈を塞いでしまう「肺塞栓症」は、「エコノミークラス症候群(ロングフライト症候群)」の名前でよく知られています。

飛行機のエコノミークラスは座席に余裕がなく、長時間じっと座ったままの同じ姿勢でいる必要があります。このとき水分をあまり摂らずにいると、下肢の静脈に血液のかたまり(血栓)ができてしまいます。すると、飛行機から下りて歩き出したとき、血栓を含んだ血液が下肢から心臓へ戻り、肺へ送り出されます。このとき、血栓が肺動脈に詰まって呼吸困難や胸の痛みが起こります。最悪の場合、心肺停止に至ることもある疾患です。

血栓症は、かつて日本では比較的稀な疾患でした。しかし、生活習慣が欧米化してきたことなどから、近年は急速に増加しています。産婦人科の領域でも非常に問題となっていて、妊産婦の死亡原因の約8%が血栓症です。妊娠している人はそうでない人に比べて、血栓症のリスクが5倍に上がると言われています。

低用量ピルによる血栓症リスクも指摘されていますが、これは妊娠・出産に関連する血栓症リスクと比較するとほんのわずかです。海外の疫学調査によれば、低用量ピルを服用していない女性が静脈血栓症を発症するリスクは年間で1万人あたり1~5人であるのに対し、低用量ピルを服用している女性では3〜9人となっています。

一方、妊娠中および産後12週間の女性が静脈血栓症を発症するリスクは、年間1万人あたり妊娠中の女性で5~20人、出産後の女性で40~65人と報告されています。低用量ピルを服用するよりも、妊娠・出産による血栓症の発症リスクの方がはるかに高いのです。ですから、低用量ピルを服用したときだけでなく、妊娠・出産後は特に血栓症に気をつける必要があります。

妊娠・出産で血栓症になりやすくなるのはどうして?

妊娠・出産時に血栓症になりやすい理由としては以下のものが挙げられます。

  • 血液の流れが滞る

子宮が大きくなることで妊娠中でも動きにくくなり、さらに体の背中側にある血管がつぶされて血液が心臓に戻りにくくなります。また、分娩・帝王切開後に安静にする期間が長くなることで血液の巡りが悪くなり、血栓が生じやすくなります。

  • 出産で血管が傷つく

胎盤や子宮には大量の血管が入っています。これらの血管がお産の時に傷つくと、普通の怪我と同じようにかさぶたを作ろうとする機能が強く身体で働きます。結果として血栓が生じやすくなります。

  • 妊娠後期になるにつれ、血液を固める成分が増える

出産の際、母体からは約500ccもの出血があります。このため、出血してもできるだけ早く血が流れ出すのを止められるよう、妊娠後期になると血液の凝固作用が高まるのです。

これらの要因の一つまたは複数が影響しあい、血栓症が起こりやすくなると考えられています。

出産後も血栓症になりやすいって本当?

前述したように、産後12週の女性が血栓症を発症するリスクは年間1万人あたり40~65人と、妊娠していないときと比べてかなり高くなります。また、肺塞栓症を発症した女性のうち、約75%は帝王切開手術後に発症しています。帝王切開による分娩は、経腟分娩と比べて7~10倍の発症リスクがあるのです。

これは、帝王切開による分娩では骨盤内の操作が多いことに加え、手術後になかなかベッドから起き上がれないことが関係しています。ベッドに同じ姿勢で横になったままだと、やはり血液のかたまりができやすく、血栓症になりやすくなります。

妊娠中、出産後の血栓症を防ぐには?

まず、日頃からできる血栓症対策として、以下のようなものが挙げられます。

  • 長時間同じ姿勢でいるときは、足の指を動かしたりかかとの上げ下げをする
  • 足を下から上へこぶしで叩く
  • デスクワークのときなど、1時間おきにその場で足の体操をする
  • 水分補給をこまめに行う

長時間同じ姿勢を取るときは、できるだけ1時間おきに足の体操をしましょう。といっても大げさな動きをする必要はなく、足の指を動かしたり、かかとの上げ下げをするなどの小さな動きで構いません。血液の巡りを良くすることが目的なので、足を拳で叩くなども有効です。また、水分補給をこまめに行い、血液がドロドロにならないようにすることも重要です。

妊娠中や出産後は、さらに以下のようなことに気をつけると良いでしょう。

  • 弾性ストッキングを利用して足をしめつけ、血流を滞りにくくする
  • ベッド上で膝を屈伸する、足を伸ばすなどの下肢の運動をする
  • 出産後、できるだけ24時間以内に離床し歩いたり体操するなど体を動かす

妊娠中や出産後は、どうしても体の痛みや疲れでベッドに横たわる時間が長くなりがちです。しかし、特に帝王切開後はずっと同じ姿勢で寝ていると血栓症のリスクを高めてしまいます。そこで、寝ていても膝の曲げ伸ばしをしたり足の体操をする、弾性ストッキングをはくなどの工夫をするとよいでしょう。また、主治医から起きてもよいと言われたらできるだけ早く離床し、体操したり、歩いたりして、全身の血流を良くしましょう。

おわりに:妊娠中や出産後でもできるだけ体を動かそう

妊娠中や出産後は、安静にする期間が長いことや、血管が傷つくこと、血液を固める成分が増えることによって、血液が固まりやすい状態になっています。これは本来、出産による出血から体を守るための機能ですが、そのために血栓もできやすくなってしまうのです。

そこで、妊娠中や出産後は、特に意識して体を動かすようにしましょう。また、弾性ストッキングを利用したり、無理のない範囲で足の体操をしたりして、血液が滞らないような工夫をするのもおすすめです。

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