SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)の特徴は?

2019/5/22

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

比較的新しい抗うつ薬として、SSRIとともに知られているのが「SNRI」です。他の抗うつ薬と同じように、脳内の神経伝達物質に働きかけて抑うつ状態を改善する作用がある薬剤です。

では、SNRIとはどんな作用で抑うつ状態に効果を発揮するのでしょうか?そして、代表的な薬の種類や副作用として考えられるのはどのようなものなのでしょうか?

冷凍宅配食の「ナッシュ」
冷凍宅配食の「ナッシュ」

SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)とは

SNRIとは「セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬」のことで、英語名の「Serotonin Noradrenaline Reuptake Inhibitor」の頭文字を取って「SNRI」と呼ばれています。似たような名称の薬剤に「SSRI」という抗うつ薬がありますが、その違いは「セロトニンのみ」に働くか、「セロトニンとノルアドレナリンの両方」に働くかという点です。

そもそも抑うつ状態とは、脳内の神経伝達物質が減ったことにより、不安やイライラなどのネガティブな気分に陥ったり、無気力になったりしているのだと考えられてきました。これら気分に関係していると考えられている神経伝達物質が主に「セロトニン」と「ノルアドレナリン」の2つで、SSRIやSNRIはこれらの物質を脳内に増やす作用によって抑うつ状態を改善するのです。

脳内で放出されたセロトニンやノルアドレナリンは、通常、細胞の中に回収(再取り込み)されます。しかし、SSRIやSNRIはこの「再取り込み」という過程を阻害します。すると、セロトニンやノルアドレナリンは放出されたまま回収されなくなり、次第に脳内に増えていきます。こうして脳内の神経伝達を改善し、ネガティブな気分を和らげるとともに、意欲を改善するのです。

SNRIはセロトニンとノルアドレナリンの両方に作用する薬ですから、比較的早めに効果が現れると言われています。また、他の薬剤との相互作用が少ないため副作用も少なく、比較的安全に使いやすい抗うつ薬と言えます。また、抑うつ状態の改善のほか、神経障害に伴う疼痛(神経障害性疼痛)などの症状改善に使われることもあります。

代表的なSNRIの薬は?

代表的なSNRIの薬として、以下のようなものがあります。

デュロキセチン(商品名:サインバルタ®︎)
セロトニンをメインに、ノルアドレナリンも増加させるという機序で働く
落ち込みの症状のみが強く出ている人に使われることが多い
糖尿病性神経障害、線維筋痛症、慢性腰痛症、変形性関節炎などの痛みに対して使うこともある
NaSSAと相性が良く、治療に良い効果が出やすいとされている
ジェネリック薬品がないため、まだ薬価が高い
ミルナシプラン(商品名:トレドミン®︎)
ノルアドレナリンをメインに、セロトニンに対しても作用するという機序で働く
空腹時に服用すると吐き気などが強く出ることがあるため、一般的に食後に服用する
前立腺肥大などを発症している患者には原則として使えない
抗うつ薬としての効果は穏やかなため、あまり使われなくなってきている
痛みを抑制する効果があるため、慢性疼痛の薬剤として使われることもある
ベンラファキシン(商品名:イフェクサー®︎)
サインバルタ®︎よりもさらに、セロトニンに対する比重が強い
低用量の間はセロトニン系に作用し、用量の増加とともにノルアドレナリン系への作用が強まる
サインバルタ®︎同様、NaSSAと相性が良い
ジェネリック薬品がないため、まだ薬価が高い

日本で最初に発売されたSNRIは、2000年のトレドミン®︎です。この頃は同時期に発売開始されたSSRIが先に広まったため、SNRIが本格的に日本で使われ始めたのは2010年にサインバルタ®︎が発売されてからです。イフェクサー®︎は最も新しいSNRIで、2015年に販売を開始しました。海外では、サインバルタ®︎が最も新しいSNRIとして使用されています。

サインバルタ®︎やイフェクサー®︎は、ともにセロトニンにより比重を置いて作用するSNRIですが、その傾向はイフェクサー®︎でより顕著です。イフェクサー®︎を低用量で使うとセロトニン系にしか効果がみられませんが、用量を増やしていくと徐々にノルアドレナリン系に対しての効果もみられるようになってきます

これに対し、トレドミン®︎は主にノルアドレナリン系に働きかけるSNRIです。しかし、サインバルタ®︎やイフェクサー®︎と比べて抗うつ薬としての効果が穏やかなため、比較的症状が軽めの人や、SSRIの効果の増強として補助的に使うこともあります。

SNRIで副作用が起こるとしたらどんな症状が出てくる?

SNRI服用中に起こりうる副作用には、以下のようなものがあります。

精神神経系症状
眠気・めまい・ふらつき・頭痛・不随意運動など
賦活症候群(躁転など)
消化器系症状
吐き気・嘔吐・便秘・口が渇く・腹部膨満感など
泌尿器症状
排尿障害・尿閉など

他の抗うつ薬と同じように、めまいやふらつき、吐き気や嘔吐などの症状が見られることがあります。しかし、これらの症状はやはり同じようにたいてい飲み始めに起こり、数週間程度で消えていくことが多いため、軽度の場合は少し様子をみても良いでしょう。しかし、重篤な症状の場合や、症状がつらいと感じるときは、すぐ医師に相談しましょう。

排尿障害・尿閉は、いずれも尿が出にくくなるという症状です。そのため、前立腺肥大の傾向にある男性や、健康診断などで排尿トラブルを指摘されたことがある方は、特に注意する必要があります。

また、SNRIは全体的にノルアドレナリンに対しても作用する薬剤であるため、頻度は少ないですが「賦活症候群」を発症することがあります。これはいわゆる双極性障害の「躁転」に似た現象で、気分を高揚させて躁状態のような活発な活動をしたり、不安や焦燥感が急激に増加したりします。このため、気分に波がある方や、思春期の若者に対しては特に慎重に使う必要があります。

飲み合わせに注意する薬は?

SNRIは、SSRIと同様にセロトニンを増やす作用がある薬剤です。そのため、SNRIを服用中にはセントジョーンズワートを含む健康食品を摂取してはいけません。セントジョーンズワートが持つとされる抗うつ作用と、SNRIの薬理作用により、相互作用でセロトニン症候群などを引き起こすリスクが高くなります。

おわりに:SNRIはセロトニンとノルアドレナリンの両方に働きかける抗うつ薬です

SNRIは、神経伝達物質「セロトニン」と「ノルアドレナリン」の両方に働きかける抗うつ薬です。本格的に使われ始めたのはサインバルタ®︎が発売されてからですが、サインバルタ®︎とイフェクサー®︎はまだ新しいため、ジェネリック医薬品がなく高価なのが難点です。

セロトニンを増やす薬剤のため、セントジョーンズワートとの併用は厳禁です。SSRI同様、副作用は起こりにくいですが、体調が悪くなった場合は医師に相談しましょう。

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