記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/6/28 記事改定日: 2020/5/19
記事改定回数:1回
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MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
私たちの体には、細菌やウイルスなどの異物を体外に排除する「免疫」という機能が備わっています。しかし免疫機能に生まれつき何らかの異常があり、感染症にかかりやすい人がいます。そういった患者さんが細菌やウイルスとたたかうために、「免疫グロブリン製剤」を使用した治療を行うことがあります。この記事では免疫グロブリン製剤の種類と働き、副作用などについて説明します。
人の血液や体液の中には、免疫グロブリンと呼ばれるタンパク質成分が存在し、抗体として働いています。
しかし、何らかの原因で免疫グロブリンの生成量が少ない人がいます。免疫グロブリンが少ない人に対しては、定期的に免疫グロブリン製剤を投与し、外部から免疫グロブリンを補充します。
免疫グロブリン製剤とは、国内の健康な献血者の血液から免疫グロブリンを分離・精製して製品化した薬です。
免疫グロブリンは「IgG・IgA・IgM・IgD・IgE」の5つのクラスに分かれていますが、その働きはそれぞれ異なります。5つのクラスのうち、「IgG」「IgA」「IgE」の3種類について紹介します。
血中に最も多く存在し、体内のグロブリンの80%を占めます。体内に侵入してきた病原体やウイルスに結合して白血球の働きを助けるとともに、ウイルスや細菌が出す毒素と結合して無毒化する作用を持ちます。
粘膜に多く存在しています。特定のウイルスや細菌だけでなく、幅広い病原体に反応して体内への侵入を防ぎます。
体内のIgA量が少なくなると、感染症にかかりやすくなったり、疲労感が強くなったりすることがわかっています。母乳に多く含まれるのもIgAで、乳幼児を感染から守る働きがあると考えられています。
体内に病原体が入り込んだときに真っ先に働くのがIgMです。
さまざまな病原体に対して反応する性質があり、体内への侵入が感知されると最初に産生される抗体です。免疫を立ち上げるための重要な働きを担い、IgM自体が病原体を攻撃する働きもありますが、免疫反応に必要な「補体」と呼ばれる物質の働きを活性化させる働きもあることが分かっています。
そして、IgMは一つの病原体に対して特別に作用するようになり、さらにIgGなどの抗体に変化していくとされています。
体内のグロブリンの約1%占めます。抗体を産生する「B細胞」の働きを促す作用があるとの説もありますが、現在のところ明確な作用メカニズムなどは解明されていません。
体内で最も量が少ない免疫グロブリンです。花粉症などのアレルギー反応を引き起こします。IgEはもともと、主に寄生虫に対して働く作用を持っていました。現代は衛生状態が向上して寄生虫がほとんど存在しなくなったため、花粉などでアレルギー反応を引き起こしているのではないかと考えられています。
上記のように、免疫グロブリンは細菌やウイルスなどの異物の侵入を防ぎ、感染病などから体を守る免疫機能を持ちます。
低ガンマグロブリン血症と無ガンマグロブリン血症の患者さんは、体内の免疫グロブリンが少なく、生後6か月くらいから感染症にかかりやすくなると考えられています。これは、生後6か月を目安に、胎盤や母乳を通じてお母さんからもらったグロブリンが少なくなるためです。
上記の感染症の治療では、通常は抗生物質の投与を行います。しかし、白血病やがんで治療を受けている場合、または大きな手術を受けた直後などの場合には、免疫力が通常よりも低下しています。健康な状態であればそれほど重くならない感染症でも、免疫力低下のため重症化しやすくなっています。
こうした場合、抗生物質と一緒に免疫グロブリン製剤を投与します。実際の臨床試験によっても抗生物質と免疫グロブリン製剤を併用した方が治療の効果が高いことがわかっています。
自己免疫疾患という免疫機能が正常に働かない、免疫によって正常な細胞や体内の必要な成分を破壊してしまう疾患にも、免疫グロブリン製剤が使われます。
川崎病の原因はまだはっきりとはわかっていませんが、免疫グロブリン製剤を大量投与することで炎症を防ぎ、冠動脈の発生を抑制できることがわかっています。現在の川崎病の治療には、ほとんどの場合で免疫グロブリン製剤が使われています。
免疫グロブリン製剤は、効果によって「免疫グロブリン製剤」と「特殊免疫グロブリン製剤」の2つに分けられます。
特殊免疫グロブリン製剤は、特定の病原体や異物に対する抗体を多く含みます。免疫グロブリン製剤は抗体の種類がたくさん入っており、幅広い病原体をカバーします。
免疫グロブリン製剤は、「筋注(=筋肉に注射する)」「静注(=静脈に注射する)」「皮下注(=皮下組織に注射する)」の3種類に分けられ、次のような特徴を持ちます。
筋肉注射用の免疫グロブリン製剤は、アルブミン製剤と同様、血液から分離して作る製剤の中では最も古くから使われてきました。エタノールを使って取り出した免疫グロブリン(IgG)をほぼそのまま使用して製剤化しています。
筋肉注射という性質上、注射した部位に疼痛が起こるため大量に投与できないこと、さらに速効性に欠けることなどの特徴のため、現在では「麻疹」や「A型肝炎」の予防に限って使われています。
静脈注射用の免疫グロブリン製剤は、現在最も多く使われています。筋注用の製剤でみられた「凝集体」や凝集体によるタンパクの異常活性化を抑える加工処理によって、静脈に注射できるようにされました。500mg製剤(10mL)~10,000mg製剤(200mL)までさまざまな量が販売されていることもあり、非常に使いやすい製剤です。
静脈に直接注射することから速効性が期待できること、筋肉注射よりも痛みが少なく大量投与が可能なことなどから、「無・低ガンマグロブリン血症」「重症感染症」「特発性血小板減少性紫斑病」「川崎病」「天疱瘡」「ギラン・バレー症候群」など多くの病気に使用されています。
比較的新しく、シリンジポンプなどの注入器具を使うことで、在宅で自己注射できる画期的な製剤です。皮下に注射することで徐々に成分が吸収されることから、長時間安定して血中グロブリン値を維持できます。そのため、急激なタンパク濃度上昇によって引き起こされる全身性の副作用が少なくなると期待されています。
低ガンマグロブリン血症と無ガンマグロブリン血症の患者さんに対してのみ使われます。
特定の抗体を多く含み、特定の病原体または異物に関して効果を発揮する製剤です。医療用に使われる3種類の特殊免疫グロブリン製剤とその効果を紹介します。
血液型が「RH−(マイナス)」のお母さんが「Rh+(プラス)」の赤ちゃんを妊娠することを「Rh血液型不適合妊娠」と呼びます。
赤ちゃんのRh+の赤血球がお母さんの血液に入ると、お母さんの体の中で赤ちゃんの赤血球が異物と認識されます。すると母体では「抗D抗体」がつくられ、赤ちゃんの赤血球を攻撃してしまいます。
一般的に、血液型はRh+の人が圧倒的に多く、Rh-の人は多くありません。Rh-のお母さんは次回の妊娠もRh+の赤ちゃんを妊娠する確率が非常に高いです。
抗D抗体はそのときの妊娠中には赤ちゃんを攻撃しませんが、次回以降の妊娠で同じようにRh血液型不適合妊娠をすると、赤ちゃんの赤血球が母体の抗D抗体によって破壊されてしまいます。出産後に赤ちゃんに貧血や黄疸を引き起こすことがあります。
Rh血液型不適合妊娠が発覚したら、妊娠中や出産後に「抗D抗体ヒト免疫グロブリン製剤」を注射することが推奨されています。
免疫グロブリン製剤は、人の血液から抽出したものです。そのため、一部の人では次のようなアナフィラキシーショックが起こることがあります。そのほか副作用が発生する可能性も理解しましょう。
重症の可能性が高いです。特に、黄疸があらわれた場合はすぐに医師に相談しましょう。
細菌や真菌などが原因ではなく、ほとんどがウイルス性の髄膜炎です。まれに医薬品による刺激で発症することもあります。
免疫グロブリン製剤は細菌やウイルスから体を守る免疫機能をサポートする薬です。生まれつき免疫機能に何らかの異常がある人のほか、川崎病や重篤な感染症の治療にも使われます。免疫グロブリン製剤は輸血された血液から分離して作られるため、人によってはアレルギー反応が出ることもあります。また薬のため副作用のおそれがあることを理解し、異変があらわれた場合はすぐに医師に相談しましょう。
※抗菌薬のうち、細菌や真菌などの生物から作られるものを「抗生物質」といいます。 抗菌薬には純粋に化学的に作られるものも含まれていますが、一般的には抗菌薬と抗生物質はほぼ同義として使用されることが多いため、この記事では抗生物質と表記を統一しています。