記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/5/23
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
水ぼうそうは、子供の頃にかかる病気として有名です。非常に感染力が高いため、学校や幼稚園で一人が発症すると一気に集団感染を引き起こしますが、そのほとんどが軽症で済むこともわかっています。
ところが、子供の頃に水ぼうそうにかかったことがないと、大人になってから発症することがあります。大人の水ぼうそうは重症化しやすいと言われていますが、本当なのでしょうか?また、予防するにはどうしたら良いのでしょうか?
水ぼうそうは一般的に1~4歳の子供がかかりやすく、90%以上の人では9歳までに感染・発症します。そして、一度快癒すると体内で免疫ができて2回目に発症することはほとんどないため、大人は水ぼうそうにかからないと思われがちです。しかし、子供の頃にかからなかった方や、子供の頃に作られていた免疫が弱くなってしまった方は、大人でも発症することがあります。
大人が水ぼうそうを発症すると、全身倦怠感(だるさ)・ニキビなどがまず初期症状として現れます。中には食欲の低下や軽い頭痛などを起こす方もいます。その後、発熱とともに水ぶくれの症状がみられます。子供の水ぼうそうと比べると熱が高く、また、水ぶくれはかゆみよりも痛みが強いのが大きな特徴です。
水ぼうそうウイルスは非常に感染力の強いウイルスですから、感染者と同じ部屋にいるだけで感染のリスクがあります。マスクや空気清浄機はこのウイルスの除去にほとんど効果がないことがわかっているほか、水ぶくれに直接触ることでも感染します。この強い感染力により、一人が感染・発症すると幼稚園や学校、家庭内で一斉に流行してしまうのです。
大人の場合、免疫を持っている人が圧倒的に多いため、職場で感染が広がることはあまりありません。しかし、家庭内の誰か、特に小児が学校や幼稚園で感染し、家庭内で感染が広がることがあります。子供の頃に水ぼうそうを発症していなかったり、ワクチンを受けていない方は十分に注意しましょう。
子供の水ぼうそうは、感染力は強いものの、ほとんど重症化することはなく、水ぶくれが治まれば快癒することが多いです。しかし、大人になってから水ぼうそうを発症すると重症化しやすく、発熱の際に高熱が出たり、水ぶくれの症状が酷くなって入院しなくてはならなくなることもあります。
また、水ぼうそうそのものの症状だけでなく、肺炎や肝炎、脳炎、髄膜炎などの重篤な合併症を引き起こすこともあります。特に、タバコを吸っている人では吸っていない人に比べて肺炎(水痘肺炎)を合併するリスクが高くなりますので、喫煙者の成人が水ぼうそうにかかった場合は十分注意が必要です。
妊婦さんが水ぼうそうにかかった場合、本人だけでなく赤ちゃんに対して重篤な影響や後遺症が残る可能性があるため、非常に危険です。妊娠初期~後期、周産期のそれぞれについて、起こりうるリスクは以下の通りです。
妊娠中期は、胎児の体が作られる時期です。そのため、この時期にお母さんが水ぼうそうに感染すると、母体の血液から胎盤へ、そして胎児へとウイルスが移行し、胎児に感染することがあります。確率は1~2%程度ですが、感染が起こると「先天性水痘症候群」という手足や眼球の異常、皮膚に痕が残る、精神遅滞などの重篤な後遺症が残る可能性があります。
妊娠後期には、子宮がかなり大きくなってくるため、呼吸器の機能がその分低下しています。そのため、この時期の妊婦さんが水ぼうそうを発症すると「水痘肺炎」という合併症を引き起こすリスクがあります。
周産期(出産前後)にお母さんが水ぼうそうを発症すると、17~30%という高い確率で新生児に産道感染します。すると、まだ十分な免疫を持たない新生児では水ぼうそうが重症化しやすく、約20~30%では死亡に至ります。
子供の水ぼうそうはほとんどが軽症なため、かゆみや発熱に対する対症療法だけで済ませることが多いのですが、大人の水ぼうそうは重症化しやすいため、抗ウイルス剤を使用します。主な水ぼうそうの抗ウイルス剤は「アシクロビル」「バラシクロビル」の2つがあり、いずれも発症から24時間以内に投与しないと効果が得られないため、注意が必要です。
基本的にはアシクロビルの錠剤を使用することが多いですが、免疫不全の人などは静脈注射の点滴を使うこともあります。また、重症化のリスクがある人や免疫が低下している人には、アシクロビルよりも腸管から吸収されやすいバラシクロビルの錠剤が使われることもあります。抗ウイルス剤によって水ぶくれの数やかゆみ、発熱を抑えることができます。
さらに、水ぶくれにかゆみが酷く、掻きむしって細菌感染症を引き起こす恐れがある場合は、軟膏を処方することもあります。
水ぼうそうは、前述の通りマスクや空気清浄機で予防することはできません。そこで、水ぼうそうに対する唯一の有効な予防手段としては「水痘ワクチン」が挙げられます。2014年10月からは乳幼児の定期接種の一つになっていて、生後12ヶ月を過ぎてまだ水痘にかかっていない子供は2回以上の接種が勧められます。その他、以下の接種がおすすめです。
ワクチンはかつて、1回だけの接種で生涯水ぼうそうにかからないとされていましたが、近年では1回だけでは免疫の持続が難しく、2回接種の方がより確実なことがわかってきています。そのため、水ぼうそうを一度も発症したことがない人は2回接種するのがおすすめです。
50歳以上の方の場合、加齢とともに子供の頃に作られた免疫がだんだんと失われ、体の中に潜伏しているウイルスが何らかの原因で勢力をぶり返し、帯状疱疹を引き起こす可能性があるため、水痘ワクチンを接種しておくと安心です。
また、暴露後接種という、既に感染している人と接触した後でワクチンを接種しても効果があることがわかっています。暴露後72時間以内にワクチンを接種すると約90%という高い確率で発症を阻止することができます。家族内や幼稚園・学校などで発症者が出た場合、ワクチンを打ったことがなければ速やかにワクチンを接種しましょう。
子供の頃に発症する水ぼうそうは比較的軽症で済むことがほとんどですが、子供の頃にかからず、大人になってから発症すると重症化したり、大きな合併症を引き起こしやすくなります。
また、水ぼうそうのウイルスは感染力が非常に高いため、マスクや空気清浄機などでは感染を防ぐことができません。水ぼうそうにかかったことがない人は、早めにワクチンを摂取しておくのがおすすめです。