神経障害性疼痛ってどんな病気?

2019/5/25

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

「痛み」という感覚は、私たちにとって非常に嫌な感覚の1つです。しかし、そもそも痛みを感じるということはその部分に何らかの異常があるということ。痛みには、怪我や病気を知らせてくれる警告の役割があるのです。

痛みの中でも、神経障害性疼痛という痛みは一般的に長く続く痛みとして知られています。原因となる疾患はさまざまですが、いずれの場合もやはり痛みは原因となる疾患を早めに知らせてくれる役割を持っています。

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神経障害性疼痛とは

神経障害性疼痛(しんけいしょうがいせいとうつう)とは、何らかの原因で神経が障害されて起こる痛みのことです。帯状疱疹が治った後に痛みが長引いたり、糖尿病の合併症に伴って痛みが続いたり、坐骨神経痛や頚椎症などの痛みも神経が障害されるために起こる「神経障害性疼痛」です。

これらに共通する特徴は、「傷や炎症などが見えないけれど痛みがある」ということです。こういった場合、その場所に通っている神経が障害されて痛みが生じていることがあります。一般的に40代以上に多く見られ、日本では約600万人以上の患者さんがいると考えられています。

神経障害性疼痛の種類にはどんなものがあるの?

代表的な神経障害性疼痛は、「坐骨神経痛」「頚椎症に伴う神経障害性疼痛」「帯状疱疹後神経痛」「糖尿病神経障害に伴う痛み」の4つです。それぞれの特徴や症状について詳しく見ていきましょう。

坐骨神経痛ってどんな病気?

坐骨神経痛とは、腰から足にかけて長く伸びる「坐骨神経」が何らかの原因で圧迫されたり、刺激されたりして生じるしびれるような痛みのことを言います。たいてい腰痛から始まり、痛みがお尻や太ももの後ろ部分、すね、足先と広がっていきます。主な症状は以下の通りです。

  • しびれるような痛み、鋭い痛み
  • ふくらはぎの張り
  • 冷感・灼熱感・締めつけ感
  • 腰や体を動かすと、脚の痛みが激しくなる
  • 横になって安静にしているとき、お尻や脚が痛んで眠れないことがある
  • 脚だけでなく、腰にも痛みがある
  • 靴下を履くなど、体を屈める動作が痛くてできない
  • 立っていると脚に痛みが生じ、立っていられなくなる

これらの症状は足全体にずっと続くわけではなく、時によって脚の一部分だけに強く感じることも、足全体に感じることもあります。これは坐骨神経自体が腰からつま先まで伸びている非常に長く太い末梢神経であるためで、神経全体に影響が起こるときと一部にしか起こらないときがあるからです。

頚椎症に伴う神経障害性疼痛ってどんな病気?

首は、頚椎と呼ばれる7つの骨から成り立つ部分です。1つひとつの骨のことを椎骨と言い、椎骨と椎骨の間は椎間板という一種の軟骨と靭帯によってつながっています。椎間板や靭帯に多少の伸縮性があるので、首を自由に動かすことができるのです。この椎間板や靭帯が加齢によって弾力性がなくなり、潰れたり固くなって切れたりすると、脊髄や神経根を圧迫し、痛みが生じます

椎間板や靭帯が加齢によって変形したり固くなったりするのは普通の現象ですが、これによって脊髄や神経根を圧迫し、痛みで日常生活に支障が出るようだと、疾患と判断されます。首だけでなく肩甲骨のあたりや、腕や手にかけて痛みやしびれが生じることもあり、障害された部位によって「頚椎症性脊髄症」「頚椎症性神経根症」などと分けて呼ばれることもあります。

主な症状はそれぞれ以下のようになっています。

頚椎症性脊髄症
首の痛み:首の後ろの部分の痛み。首を後ろにそらしたり、重い荷物を持ったときに痛みが生じることがある
しびれ感・感覚異常:四肢にしびれるような感じや、異常な感覚が生じる
手足の知覚障害:刺激を正常に感じ取れない状態。何も触れていないのに痛い、など
細かい作業ができない:手が上手く動かなくなる。ボタン掛けや箸を持つ、字を書くなどが不自由になる
歩行障害:足を動かしにくい、早足で歩けない、歩行がぎこちなくなる、階段を下りにくくなる、など
膀胱直腸障害:脊髄の障害から、排泄機能に障害が現れることもある
頚椎症性神経根症
首の痛み:首の後ろの部分の痛み。首を後ろにそらしたり、重い荷物を持ったときに痛みが生じることがある
しびれ感・感覚異常:左右どちらかの腕から手にしびれるような感じや、異常な感覚が生じる
手・腕の知覚障害:刺激を正常に感じ取れない状態。何も触れていないのに痛い、など

「脊髄症」の方は神経が主に背骨を通じて下半身につながっているため、脚に関する症状が発症しやすいのに対し、「神経根症」は脊髄から分かれて腕や手の方へつながっている神経の根本が障害されるため、腕や手に関する症状が発症します。つまり、脊髄のみが障害されていても手の症状が出ることもありますが、神経根のみが障害されている場合、脚の症状は出ないのが一般的です。

帯状疱疹後神経痛ってどんな病気?

帯状疱疹後神経痛とは、文字通り「帯状疱疹」という体の左右どちらかの神経に沿って帯状に赤い発疹が出現する疾患です。皮膚と神経の両方でウイルスが増殖して炎症を引き起こしているため、神経部分で強い痛みが生じます。一般的に発疹が消えればウイルスの増殖自体は止まっていると考えられますが、ウイルスの増殖によって障害された神経に傷が残り、痛みだけがずっと続くことがあります。

目に見える発疹部分が治っても痛みが続いている場合、「帯状疱疹後神経痛」と診断されます。帯状疱疹の合併症として最も頻度が高いもので、3カ月後に7~25%、6カ月後でも5~13%の人が発症しているという報告もあります。主な症状は以下のようなものです。

  • 焼けるような痛みが持続する
  • 一定の感覚で刺すようなズキン、ズキンとした痛みを繰り返す
  • ひりひり、チカチカした感覚がある
  • 締めつけられる、電気が走るような感覚がある
  • 感覚が鈍くなる、触れるだけで痛みを感じる

最も多いのは、焼けるような痛み(灼熱痛)がずっと続くというものです。また、断続的に針で刺すような痛み、ズキンズキンとした痛みを感じることもあります。痛みの症状が多いですが、他にも締めつけられるような感じがしたり、感覚が鈍くなるような感じがすることもあります。いずれも神経が傷つけられることで生じた感覚異常です。

糖尿病神経障害に伴う痛みってどんな病気?

糖尿病とは、何らかの原因で血中の糖分濃度が高くなり、動脈硬化などを初めとしてさまざまな合併症を引き起こす疾患のことです。1型と2型の2種類があり、1型は生まれつきのもの、2型は生活習慣によるものです。患者さんの数は圧倒的に2型の方が多いですが、いずれの場合も神経障害が最も多く、最も初期から起こる合併症です。

糖尿病と診断された人が手足にしびれるような感覚や痛みを感じる場合、糖尿病神経障害に伴う痛みである可能性が高いため、注意しましょう。血糖値が高い状態が続くと、末梢神経の代謝が上手く行かず不要物が溜まったり、神経に栄養が行き渡らず、ダメージを受けてしまうのです。自覚症状が現れる人は糖尿病全体の約15%と言われていますが、自覚症状がないまま神経にダメージを受けている人は約30~40%とされています。

症状は、自覚症状があるかないかの状態から徐々に進行していきます。初期には主に脚の指や裏にピリピリ、ジンジンとした痛みやしびれが生じますが、手指にはあまり症状がみられません。だんだんと症状が進行していくに従って、手指にも同様の症状が出るようになります。ちょうど手袋や靴下で隠れる範囲の症状、と言われています。

さらに症状が進行すると、神経の働き自体が失われていくため、痛みやしびれといった感覚もなくなっていきます。感覚が鈍くなったり感じなくなっていくと、腕や脚に怪我を負っても気づきにくくなり、傷口から細菌に感染して壊死してしまい、最終的に切断しなくてはならなくなるというケースもあります。そこまで進行する前に、痛みやしびれの状態で早めに発見・治療しておくことが大切です。

また、治療中に痛みが生じる場合もあります。「治療後有痛性神経障害」という症状で、高血糖が長く続いていた後、治療で急激に血糖値を下げると痛みが生じる現象です。治療を開始して数週間~数カ月後に痛みが生じ、数ヶ月にわたって続くこともありますが、血糖値を正常の範囲に保っていればやがて痛みはやわらいでいきますので、心配はいりません

痛みをガマンし続けるとどうなる?

上記の神経痛の特徴でもわかるように、帯状疱疹後神経痛以外は、いずれも痛みが悪化していくことはあっても、放置していて治ることはありません。痛みが長く続いていると次第に慣れてしまい、放置してしまいやすくなりますが、痛みに慣れるということは決して痛みの原因が治ったということではありません。

痛みは、発症後1カ月以内でおさまる場合は「急性の痛み」、3~6カ月と続く場合は「慢性の痛み」と言われます。「急性の痛み」は、痛みの原因である怪我や疾患の治療が終われば消えていきますが、このとき適切な治療をせず痛いまま放置してしまうと、「慢性の痛み」に変化していくこともあります。

痛みが起こると、交感神経を緊張させ、運動神経を興奮させるため、血管が収縮し、筋肉が緊張します。すると、血行が悪くなり、痛みを引き起こす物質が発生する、という悪循環が起こります。通常は原因の怪我や疾患が治療されると痛みがおさまるので、悪循環はすぐに断ち切られますが、痛みが長引くとこの悪循環がずっと続いてしまうのです。

このため、痛みが慢性化すると、痛みの原因の怪我や疾患が治療できても痛みそのものがなかなかなくならなくなってしまうのです。さらに、痛みのせいで眠れなくなったり、不安や恐怖から抑うつ状態になったり、という二次的な症状につながってしまう可能性もあります。

痛みに対処するためにも、早めに病院へ行こう

そこで、痛みが現れたら、痛みを慢性化させないことが大切です。そのためには、まず原因となる疾患を正しく把握し、できるだけ早く適切な治療を受けなくてはなりません。痛みは我慢せず、近くの整形外科やペインクリニック、かかりつけ医などに相談しましょう。

神経障害性疼痛を治療する場合、薬物療法や神経ブロック療法などによってまず痛みを軽減します。その後、外科療法や理学療法によって身体機能やQOLを維持するような治療が行われます。

おわりに:神経障害性疼痛は原因疾患のシグナル!痛みがあったら早めの治療を

神経障害性疼痛は、何らかの原因疾患によって生じていることがほとんどです。痛みは我慢して放置していても悪化するだけで治ることはありませんので、早めに原因となる疾患を発見して治療することが大切です。

また、痛みが慢性化すると、原因となる疾患が治っても痛みだけ残ってしまうこともあります。手足に痛みやしびれが生じたら、症状が軽くても放置せず、早めに病院で診察を受けましょう。

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