記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/5/26 記事改定日: 2020/9/28
記事改定回数:1回
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MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
神経障害性疼痛とは、神経が何らかの原因で障害されて生じる痛みのことです。一時的なものから慢性的なものまであり、つらい痛みが続きます。こうした痛みは薬による治療も大切です。この記事では、神経障害性疼痛に対して使える市販薬・処方薬・漢方薬についてご紹介します。
神経障害性疼痛の痛みは、怪我や打撲などの外傷によって起こるものではありません。痛みを信号として脳に伝える神経の部分が、何らかの障害を受けてしまうことで起こります。つまり、外見上は何の問題もなさそうに見えるのですが、内部の神経が圧迫されたり傷ついたりしているため、感覚に異常が起こります。具体的には、以下のような症状です。
神経から来る症状なので、痛みは痛みでも、しびれるような感触や焼けるような感触、ちくちくとした刺激感を伴うことが多いです。
また、衣類が擦れたり冷風に当たるといった、通常は痛みにはつながらないような刺激で痛みを感じるなど、感覚に異常が起こるのも神経障害性疼痛の特徴です。さらに症状が進むと、痛んでいる部位の感覚が鈍くなったり、逆に過敏になったりすることもあります。
神経障害性疼痛では、痛みが出ていても外見上はほとんど問題なく見えるため、ついつい我慢してしまうことが多いのですが、痛みを我慢しても悪化するばかりで、放置していても治りません。そこで、まずは市販の鎮痛薬で痛みを軽減するところからスタートしてみると良いでしょう。
市販されている主な鎮痛薬はNSAIDs系・ピリン系・非ピリン系の3つに分類されます。
しかし、市販薬を使うときは注意してください。効果が出にくくても、取扱説明書に書かれている以上に勝手にどんどん増薬したり、「4時間以上空けて服用」などの間隔を無視して頻繁に服用したりすることは避けましょう。
できれば自分一人だけの判断ではなく、薬剤師など専門家に相談しながら、自分に合った適切な鎮痛薬を適切な量で服用し、痛みと上手に付き合っていくことが大切です。
NSAIDs系の市販鎮痛薬は、さらにサリチル酸系・プロピオン酸系・サリチル酸アミド系の3種類に分類され、それぞれの一般名や特徴・作用は以下のようになっています。
NSAIDsとは「非ステロイド性消炎鎮痛薬」のことです。頭痛薬で知られる「バファリン®︎(成分名:アスピリン)」や「ロキソニン®︎(成分名:ロキソプロフェン)」などもこの分類に入ります。
NSAIDsの多くは、痛みを生じさせる「プロスタグランジン」という物質の産生を阻害して鎮痛作用を現します。プロスタグランジンそのものが痛みに直接作用するわけではありませんが、炎症を強め、痛みを感じやすくするという役割を持っているのです。月経痛などもこのプロスタグランジンによって引き起こされます。
しかし、プロスタグランジンは痛みを引き起こすだけでなく、胃の内膜を再生する役割もあるため、NSAIDsを乱用すると胃粘膜障害を起こしやすくなります。また、NSAIDsはプロスタグランジンの産生を阻害するとともに、胃壁を守る作用のある物質(シクロオキシゲナーゼ1=COX-1)を阻害してしまうことからも、胃潰瘍や消化管出血のリスクを高めてしまいます。
このため、プロスタグランジンの産生のみを選択的に阻害できるような新しいNSAIDsが開発され、日本でも「セレコックス®︎(成分名:セレコキシブ)」という薬剤が認可され、実際に国内の臨床データで胃・十二指腸潰瘍の発現率がロキソプロフェンと比べて低かったこともわかっています。
しかし、アメリカで類似の成分「ロフェコキシブ」を使った薬剤で血栓ができやすくなり、心血管事故が増えたことから、セレコキシブについても血栓症のリスクが懸念されています。臨床試験では心血管系のリスクが高まるというデータと、特に変わらないとするデータがあり、専門家の間でも意見が分かれているため、他の疾患などで血栓症のリスクが高いと考えられる患者さんに処方する場合は注意が必要とされています。
また、これらの薬剤はいずれも15歳未満の小児が服用することは認められていません。唯一、エテンザミドのみが小児でも飲める消炎鎮痛薬として使われています。しかし、水ぼうそうやインフルエンザなどにかかっている間にエテンザミドを使用すると、ごくまれではありますが「ライ症候群」という生命に関わる疾患を引き起こす可能性があるため、この2つの疾患にかかっている小児に対しては原則として使用しません。
ピリン系の鎮痛薬とは、イソプロピルアンチピリンという成分を利用したもので、名前の似ているアスピリンとは何の関係もありません。しかし、同じようにプロスタグランジンの産生を阻害する働きがあり、しかもより中枢の部分で働くため、他の薬剤よりも解熱鎮痛作用が強いと考えられています。
ピリン系の薬剤は、副作用のアレルギー反応として「ピリン疹」という発疹を引き起こしやすいため、十分注意して使う必要があります。市販薬も多くありませんが、ごく一部にピリン系の薬剤がありますので、服用の際は医師や薬剤師に相談してから使うのが良いでしょう。
非ピリン系の鎮痛薬とは、NSAIDs系にもピリン系にも含まれない鎮痛薬です。詳しい作用機序は解明されていませんが、アスピリンと同等の解熱鎮痛作用を持ちながらも、プロスタグランジン合成を阻害する作用は弱く、中枢に働きかけて解熱・鎮痛作用をもたらすと考えられています。そのため、抗炎症作用はほとんどないとされています。
非ピリン系の薬剤は、NSAIDsと比べて消化管への負担が少ないことが特徴です。また、小児に関する大きな副作用もないため、7歳以上15歳未満に処方する解熱鎮痛薬として一般的です。ただし、まれに過剰投与で肝細胞が壊死する副作用が見られるため、アルコールを常用する人や多用する人では慎重に使う必要があります。
市販の鎮痛薬では効果が得られない場合、医療機関を受診して治療を受ける必要があります。投薬治療(内科的治療)のほか、心療内科的治療、レーザー照射療法、神経ブロック療法、刺激療法なども使われることがあります。
投薬治療には、適用を検討される順(第一選択薬~第三選択薬)に以下のような薬剤が使われます。
それぞれの薬剤について、もう少し詳しく見ていきましょう。
神経障害性疼痛にまず最初に検討される「第一選択薬」には、以下のようなものがあります。
第一選択薬の中でも、比較的副作用が少ないとして使われやすいのが「三環系抗うつ薬」「セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)」です。これらは日本国内では主にうつ病やうつ状態に対する適応から始まりましたが、エビデンスレベルの高い臨床試験データなどにより、神経障害性疼痛に対しても順次適応となってきました。
特に三環系抗うつ薬は古くから慢性疼痛に対して使われていて、うつ病に対する作用機序とは異なるメカニズムで鎮痛作用を現すと考えられているため、うつ状態がない人でも問題なく使用できます。また、抗コリン作用(口の渇き、胃部不快感などの副作用)が少ない「ノルトリプチリン」がよく使われています。しかし反面、頻脈や不整脈など、心疾患系のリスクが高まるという報告もありますので、心電図を確認してから使うのが望ましいとされています。
SNRIは、日本では2010年から販売されている「サインバルタ®︎(成分名:デュロキセチン)」が神経障害性疼痛にも適応となっています。うつ病・うつ状態のほか、主に糖尿病性神経障害・線維筋痛症・慢性腰痛症に伴う疼痛に対して適応があります。ベンラファキシンは2015年から「イフェクサー®︎」の名称で販売されていて、糖尿病性神経障害に対しても使われることもありますが、日本での適応はうつ病・うつ状態のみとされていますので、疼痛に対して使う場合は適応外治療となります。
SNRIはノルアドレナリンと同時にセロトニンの再取り込みも阻害するため、第二選択薬の「トラマドール」と併用するとセロトニン症候群になるリスクがありますので、注意して使わなくてはなりません。
カルシウムチャネルα2-δサブユニット結合薬は、日本国内ではプレガバリンが神経障害性疼痛の適応、ガバペンチンが抗てんかん薬の補助薬として適応が認められています。眠気やふらつき、認知機能障害などの副作用が見られることがあり、特に高齢者で顕著なため、高齢者が使用する場合は特に注意が必要です。
リドカインは注射薬として使用する場合は局所麻酔薬・抗不整脈薬として適応されますが、貼付薬など外用薬として使う場合は欧米諸国で帯状疱疹後神経痛に対する効果が報告されています。日本でもかゆみ止め・痛み止めとしての軟膏やクリームなどが市販薬として販売されています。ただし、これらはいずれも皮膚疾患のない部位に塗布する必要があります。
第二選択薬とは、いわゆる「オピオイド鎮痛薬」という分類の薬剤です。エビデンスが得られているのは短期間の使用においてであり、長期的な使用でも安全かどうかのデータは不十分なため、第一選択薬の漸増中に早急に鎮痛する必要がある場合など、あくまでも短期的な場合に限って使用することが望ましいです。
オピオイド鎮痛薬の代表的なものは「トラマドール」で、WHO方式がん疼痛治療法の第2段階でも使用される弱オピオイド鎮痛薬です。モルヒネの約10分の1の鎮痛作用を持ち、モルヒネよりも依存性が低いため比較的安全に使用できるとされていますが、過剰投与やアルコールとの併用で中毒を引き起こすことがあります。
また、SNRIの項目でも紹介したように、SNRIやSSRI(第三選択薬の選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と併用すると「セロトニン症候群」を引き起こしやすくなります。セロトニン症候群とは、オピオイドもSNRIと同じようにセロトニンやノルアドレナリンの再取り込みを阻害する作用があるため、併用するとセロトニンが過剰に増えてしまいやすいことによります。
第一選択薬・第二選択薬で効果が得られなかった場合、以下のような第三選択薬が使われます。ただし、第三選択薬はエビデンスが乏しく、副作用が問題となる薬剤が多いため、あくまでも第一・第二選択薬では効果がなかった場合にのみ投与を考慮されます。
セロトニン・ノルアドレナリンの再取り込みを阻害するSNRIが第一選択薬であるように、選択的にセロトニンのみの再取り込みを阻害するSSRIも疼痛に対して効果があるのではないかとされています。しかし、三環系抗うつ薬やSNRIに比べると有効な臨床試験データなどのエビデンスに乏しいため、これらの薬剤に抵抗性がある、効果が得られないという場合にのみ使用を考慮すべきです。
抗てんかん薬のカルバマゼピンは、日本ではてんかんのほか、双極性障害や三叉神経痛に対する適応が認められています。慢性疼痛に対するエビデンスは高くありませんが、NNT(1人治療を完成するために何人に治療を行う必要があるかという指数)を比較するとプレガバリンやガバペンチンよりも優位で、三環系抗うつ薬に匹敵するというデータもあります。
ケタミンはNMDA受容体に働き、これを阻害することで興奮性神経伝達をブロックします。通常は麻酔薬として使われ、乱用薬物として使われていたことから麻薬にも指定されています。しかし、全身麻酔用の量よりもはるかに少ない量で用いると、意識障害を起こさずに鎮痛効果が見られることから、適応外治療としてペインクリニックなどで使われることがあります。
その他の薬剤として、メキシレチンはリドカインと似た作用機序を持ちますが効果が安定していないため、あまり使われていません。カプサイシン軟膏は末梢神経から神経伝達物質を枯渇させるため、鎮痛作用があるとされますが、唐辛子に含まれる成分であり、投与初期には刺激性があってむしろ疼痛が強まるため、推奨度は低いです。
ここまで西洋医学系の薬剤をご紹介してきましたが、東洋医学系の漢方薬も痛みの緩和に有効なものがあります。そこで、神経痛に使われる漢方薬を2つご紹介します。痛みのタイプによって、2つの漢方薬のどちらを使用するかが異なります。
それぞれ、以下で詳しくご紹介していきます。
慢性的に痛みが続く場合、「疎経活血湯(そけいかっけつとう)」が効果的です。雨の日に痛い、夜になると痛みが強くなる、筋肉痛や腰痛がある、などの場合もこちらの漢方薬が良いでしょう。どちらか判断がつかない場合も、まずは疎経活血湯から試してみるのがおすすめです。
「疎経活血湯」は、冷えている部分を温め、湿っている部分の水分を取り除くことで関節痛をはじめとした痛み・しびれを改善します。また、「気」のめぐりを良くする生薬や「血」のめぐりを良くする生薬、「気」が動かずこもってしまった熱を冷ます生薬などによって、慢性的な痛みをじっくり治していく作用もあります。
「冷えると痛む」「寒い日や冷房が効いた部屋にいると痛みが強くなる」「お風呂に入るなどして体を温めると痛みも楽になる」というように、冷えが痛みの原因と考えられる場合は桂枝加苓朮附湯がおすすめです。特に、神経痛や関節痛に対して効果が期待できます。
漢方では、冷えが体の中に入ってくると、「気」や「血」のめぐりが滞って痛みが生じると考えます。そこで、「桂枝加苓朮附湯」で身体の内側から外側へ向かって「気」を放出し、「気」の流れをスムーズにするとともに、熱を生んで冷えを追い出して体を温め、神経痛・関節痛を改善します。
漢方薬の中には痛みを緩和させる作用があるものもあり、生薬などを主成分とするため比較的副作用は少ないとされています。
薬局やドラッグストアなどで自己判断で購入できるものもありますが、「甘草」という成分が含まれるものは「血圧を上昇させる作用」があります。自己判断で長期間に渡って服用を続けると高血圧になることがあるので注意しましょう。
普段から血圧が高めな人は、成分を必ずチェックしましょう。高血圧の治療中の人が漢方薬を服用するときは、必ず担当医に許可をもらってください。
また、漢方薬の効果は個人差が大きいです。服用を続けても痛みが十分に改善しない場合は、漫然と服用を続けず、できるだけ早く病院に相談しましょう。
神経障害性疼痛は、痛みを我慢していても症状がなくなるわけではありません。そこで、適切に薬を使用し、痛みに上手に対処することが必要です。市販薬を使用する場合も薬剤師など専門家に相談しながら使うと良いでしょう。市販薬で効果が得られない場合は、医師の診察を受けて処方薬を使用します。基本的には第一選択薬から順に投与し、効果があるものを使って治療していきますので、医師の指示に従ってください。