記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/10/21
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
アミノ酸は、タンパク質のもととなる成分であり、我々の体に欠かせない栄養素の1つです。しかし、アミノ酸が体内で分解されずに蓄積していくと、逆に体にとって有害となる場合もあります。そのようにアミノ酸や代謝産物が異常に蓄積してしまう疾患を「アミノ酸代謝異常」と呼びます。では、具体的にどんな疾患なのか、どんな症状や治療を行うのか見ていきましょう。
「アミノ酸代謝異常」とは、アミノ酸の代謝に関わる酵素に何らかの異常が生じ、代謝の過程で毒性物質が蓄積したり、必要なアミノ酸が欠乏したりしてさまざまな臓器障害を引き起こす疾患の総称です。とくに脳・肝臓・腎臓という主要な臓器に支障をきたすことが多いため、新生児マススクリーニング(先天性代謝異常等検査)の対象疾患のひとつです。
新生児マススクリーニングとは、新生児の先天性代謝異常などの疾患をできるだけ早期に発見し、発病する前に治療を行えるようにする検査のことです。新生児マススクリーニングに含まれるアミノ酸代謝異常は「フェニルケトン尿症」「メープルシロップ尿症」「ホモシスチン尿症」「高チロシン血症1型」の4つがあります。
また、アミノ酸代謝異常には3つの病型があり、以下のように急性・慢性・無症状に分類できます。
急性症状としては、フェニルケトン尿症で嗜眠が出る場合、メープルシロップ尿症で重症な場合にけいれん発作や昏睡などを生じる場合があります。その他のアミノ酸代謝異常で見られる症状の多くは慢性症状であり、生後数年以内に精神発達遅滞や皮膚や毛髪の色の脱色傾向、骨粗鬆症、肝機能・腎機能障害などが起こります。
では、それぞれの疾患について詳しい症状を見ていきましょう。
アミノ酸代謝異常の中でももっとも良く知られているのがフェニルケトン尿症です。これは、アミノ酸の一種である「フェニルアラニン」を変換できない疾患です。体内に「フェニルアラニン」が溜まり続け、やがて脳に有害なレベルまで蓄積し、知的障害を引き起こします。基本的に新生児のときに症状は現れませんが、時折眠りがちで母乳をあまり飲まない傾向があります。
フェニルケトン尿症はどの人種にも見られ、家族歴がある場合はDNAから胎児がこの疾患を持っているかどうか診断できます。両親がどちらも疾患の遺伝子の保因者である場合、その子どもは25%の確率でこの疾患を発症することがわかっています。治療を受けないままだと、体臭や尿がネズミ臭くなることが特徴です。
メープルシロップ尿症の場合、一部のアミノ酸を代謝できず、代謝副産物が体内に蓄積していきます。これらの代謝副産物が尿や汗のメープルシロップ臭を生みます。蓄積した代謝副産物は神経系に障害を引き起こし、けいれん発作や知的障害などにつながっていきます。生後1週間以内にけいれん発作や昏睡などが起こる場合は非常に死亡率が高く、助かっても後遺症が残ることが少なくありません。
アミノ酸の一種である「ホモシスチン」を代謝できない場合、ホモシスチンと有害な代謝産物が蓄積し、さまざまな症状を引き起こします。原因となる酵素の欠損によって症状が異なるため、軽症から重症までさまざまです。多くは出生時には正常ですが、3歳を過ぎる頃から、眼の水晶体の位置がずれるなどして視力が大きく低下する症状が現れます。
さらに、ほとんどの小児で骨粗鬆症などの骨格異常が出るため、痩せて背が高く、背骨が曲がり、胸の骨格が変形し、手足が長くクモのような長い手足を持つ、というような独特の体形になります。これが「マルファン様」と称される外見です。早期に発見して治療を行わない場合、精神障害や行動障害、知的障害も発症します。また、血液が自然に凝固しやすくなるため、成人期に血栓などの血管障害を引き起こしやすくなります。
高チロシン血症1型は、フランス系カナダ人やスカンジナビア系の小児で多く見られるアミノ酸代謝異常で、多くは急性症状として生後1年以内に肝機能・腎機能・神経などに障害が起こります。さらに、くる病や肝不全を発症すると生命を落とすこともあります。
アミノ酸代謝異常症にはさまざまな症状がありますが、いずれも治療における基本的な考え方は共通しており、「十分に代謝できないアミノ酸の摂取量を制限する」というものです。
乳児期には、タンパク質を除去したのち、制限の対象となるアミノ酸以外の混合物を加えた各種の「治療用ミルク」を用いて生育します。とは言っても、制限の対象となるアミノ酸はいずれも必須アミノ酸(体内で合成できないアミノ酸)であるため、全く摂取しないというわけにもいきません。そこで、体内の代謝機能に応じて、母乳や通常の粉ミルクを併用していきます。
離乳期からは、ミルクと違ってあらかじめ制限対象のアミノ酸を除去しておくことができませんので、食品や食材中に含まれる制限対象のアミノ酸量を測定した資料をもとに、摂取量を計算しながら献立を作ります。とはいえ、こうした献立は結果的にタンパク質やエネルギー不足となる場合も多く、そのような場合は幼児期以降も「治療用ミルク」で不足分のタンパク質やエネルギーを補います。
また、一部の患者さんでは、特定のビタミンを服用すれば食事制限を緩和できる場合があります。例えば、ホモシスチン尿症の小児の一部は、ビタミンB6やB12を投与することで症状の改善を図れたり、メープルシロップ尿症の軽症の小児には、ビタミンB1を投与することが有効である場合もあります。
もちろんこれらのビタミンによる症状改善は全ての患者さんで有効とは限りませんので、投与前後の症状や検査値などを総合的に判断し、有効と診断された場合にのみビタミン投与を行います。
アミノ酸代謝異常で発症する症状に多いのは、脳神経系の症状です。すなわち、精神発達遅滞やけいれん発作、発達遅滞、神経障害などです。これらに加え、骨格の異常、嗜眠、近視、肝機能・腎機能障害などの症状が現れることもあります。
治療は、代謝できないアミノ酸の摂取量を制限することです。粉ミルクからタンパク質を除去したのち、該当のアミノ酸以外を加えた「治療用ミルク」でタンパク質やエネルギーを補充します。