脂肪酸代謝異常症ってどんな病気?症状や治療法を解説します

2019/8/13

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

代謝とは、体内で栄養素を分解し、体の組織の原料や生命活動に必要なエネルギーを取り出したりする働きのことです。この代謝の過程に何らかの異常があると、「代謝異常」という状態になります。

代謝異常のうち、脂質(脂肪)の代謝経路に何らかの異常がある状態を「脂肪酸代謝異常症」と呼びます。この記事では、脂肪酸代謝異常症に分類される病気、その症状や治療法を解説します。

冷凍宅配食の「ナッシュ」
冷凍宅配食の「ナッシュ」

脂肪酸代謝異常症とは

私たち人間は、食事から摂取する栄養素を体の原料にしたり、生命活動に必要なエネルギーに変換したりして生命を維持しています。そのため、食事をしばらく摂取していないときには、体内の糖質・タンパク質・脂肪などを分解してエネルギーを作り出そうとします

ところが、脂肪酸代謝異常症の患者さんでは脂肪からエネルギーを作り出す過程に何らかの障害があり、空腹時や運動時などにエネルギーが不足しやすくなってしまいます。これは、脂質は非常に効率の良いエネルギーであり、1gから4kcalを産生するタンパク質や炭水化物(糖質)に比べ、9kcalものエネルギーを産生できることによります。

主な脂肪酸代謝異常症には、以下の8つがあります。

  1. MCAD(中鎖アシル-CoA脱水素酵素)欠損症
  2. VLCAD(極長鎖アシル-CoA脱水素酵素)欠損症
  3. TFP(=三頭酵素、LCHAD=長鎖3-ヒドロキシアシルCoA脱水素酵素)欠損症
  4. CPT(カルニチンバルミトイルトランスフェラーゼ)1欠損症
  5. CPT2欠損症
  6. CACT(カルニチン/アシルカルニチントランスロカーゼ)欠損症
  7. 全身性カルニチン欠乏症
  8. グルタル酸血症2型

1~4までは、新生児タンデムマス・スクリーニング検査(先天性疾患の可能性を検査し、早期発見と治療開始をはかる)で一次対象疾患とされています。一次対象疾患とは、タンデムマス・スクリーニング検査で見逃す確率が低く、早期発見によって障害の予防や軽減の効果が期待できるものです。

5~8は、同じ検査で二次対象疾患とされています。二次対象疾患とは、この検査で見逃す可能性がある、治療の効果が十分に証明されていないといった理由から、現時点ではまだ検討の段階とされている疾患です。

脂肪酸代謝異常症になるとみられる症状は?

脂肪酸代謝異常症の多くでみられる症状として、以下の6つがあります。

意識障害、けいれん
新生児期発症型・乳幼児期発症型で見られる症状
急激に発症することから、急性脳症・ライ様症候群などと診断されることも
骨格筋症状
主に遅発型で見られ、横紋筋融解症・ミオパチー・筋痛・易疲労性などが生じる
感染・飢餓・運動・飲酒などを契機に発症し、症状が反復するのが特徴
一部では妊娠中に易疲労性が見られることも
心筋症状
新生児期発症型・乳幼児期発症型・遅発型のいずれも見られる
とくに新生児期発症型では、重度の心筋症とそれに伴う心不全、致死的な不整脈など
呼吸器症状
新生児期発症型を中心に、多呼吸・無呼吸・努力呼吸などの多彩な症状が現れる
消化器症状
とくに乳幼児期発症型で現れ、主な症状は嘔吐
肝腫大
新生児期発症型・乳幼児期発症型で多くみられる
病状が悪化しているときには著しい腫大が認められることもあるが、症状が現れていないときにはわかりにくいことも多い

このように、脂肪酸代謝異常症では、新生児期~乳幼児には脳・神経・心臓・呼吸器・消火器・肝臓と、臓器も症状も多岐にわたって病状が現れます。その後現れてくる「遅発型」の症状としては主に骨格筋に関するもので、脂質が本来主にエネルギー産生に使われることから、脂質の代わりに骨格筋を形成するタンパク質が使われてしまうことで現れる症状と考えられます。

その他、一部では新生児期発症型多嚢胞性腎(腎臓にたくさんの嚢胞ができる疾患)や特異顔貌などの奇形が生じることもあります。

脂肪酸代謝異常症はどうやって治療する?

脂肪酸代謝異常症では、エネルギー不足になったときに脂質をエネルギーとして代謝できないため、糖質はもちろんのこと、体の構成成分であるタンパク質などを分解してエネルギーを補給します。このため筋痛などの症状が起こりますが、しかしそれでもエネルギー不足に陥りやすく、低血糖やアシドーシス(血液が酸性に傾く)などの症状も現れやすいです。

このような状態に陥らないため、まずは長時間の空腹を避けましょう。年齢別の食事間隔の目安は以下の通りです。

新生児期
3時間以内
~6カ月
4時間以内
~1歳
6時間以内
~3歳
8時間以内
3歳以上
10時間以内

あくまでも目安ですので、これよりも短い間隔で食事をする分には構いませんが、目安の時間と比べて間隔が空きすぎないように注意しましょう。特に、熱や嘔吐・下痢などで十分な栄養分を摂取できないときは大きな問題です。発熱時や長時間の空腹時は通常よりも大きなエネルギーを必要とするため、脂肪酸代謝異常症の症状が出やすくなります。

そこで、エネルギー源として優秀な糖質を積極的に摂取するようにしましょう。例えば、果汁やブドウ糖の入ったイオン飲料、ゼリー状のエネルギー飲料などを経口摂取するのがおすすめです。口から摂取できない状態のときは、すぐに医療機関を受診し、ブドウ糖の点滴を受けましょう。普段から医療機関との連絡を密にしておくと、すぐに処置をしてもらいやすいです。

けいれんや意識障害などの急性期の症状が出てしまった場合、まずは入院し、十分なエネルギー補給が必要です。低血糖やCK(クレアチニンキナーゼ)高値の場合、改善するまで点滴治療を行います。けいれんが長時間続いたり、意識障害が改善しないなどの重い症状に陥っている場合は、脳障害を予防するために集中治療が必要です。

おわりに:脂肪酸代謝異常症は深刻なエネルギー不足になりやすい

脂質(脂肪)は、栄養素の中でも炭水化物やタンパク質と比べて効率の良いエネルギー源です。つまり、脂質の代謝ができないと体内のタンパク質や糖質をどんどん消費するのですが、どうしてもエネルギーが不足しやすくなります。

そこで、まずは長時間の空腹を避けましょう。とくに発熱時は大量のエネルギーが必要なため、積極的に糖質を摂取するのがおすすめです。また、急性症状が現れたらすぐに医療機関で点滴を受けましょう。

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