全身性エリテマトーデスによる腎障害、ループス腎炎とは

2019/8/18

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

全身性エリテマトーデスとはいわゆる「膠原病」、皮膚や筋、関節に炎症や変性が起こる慢性疾患のひとつです。代表的な膠原病に関節リウマチがありますが、これも全身性エリテマトーデスと同じように「自己免疫疾患」のひとつです。

自己免疫疾患とは、本来自分の体を守るはずの免疫が自分自身を攻撃してしまう疾患です。全身性エリテマトーデスの場合、合併症として腎障害を引き起こすことがあり、これをループス腎炎と呼んでいます。以下、ループス腎炎について解説します。

ループス腎炎とは

ループス腎炎とは、全身性エリテマトーデスという免疫系の異常から起こる自己免疫疾患によって引き起こされる腎炎・腎障害のすべてを指します。全身性エリテマトーデスは腎臓や血管の組織を病態に変化させるのが特徴なため、腎障害を引き起こしやすく、また、腎障害は患者さんの生命予後を決める因子の一つとなる重要な合併症です。尿潜血や尿蛋白が陽性の場合、全身性エリテマトーデスの診断や病状の評価のため、腎生検を行うこともあります。

ループス腎炎は全身性エリテマトーデスを発症した患者さんの約50%に、診断から1年以内に発症することが多いことがわかっています。ただし、1年を超えて発症する人などを含め、最終的な総発生数は全患者数の90%(一説ではほぼ100%)を超えると考えられています。これは、臨床的な症状のない人でも腎生検を行うとループス腎炎の「免疫複合体型糸球体腎炎」を発症した状態の病変が観察されるためです。

全身性エリテマトーデスって?

全身性エリテマトーデスは、免疫複合体(抗原と抗体がくっついたもの)が各種臓器に沈着することで組織障害を引き起こす「自己免疫疾患」のひとつです。免疫系が間違って自分自身を攻撃してしまう「自己抗体」の種類が非常に多彩で、症例によって組織障害の発症場所もさまざまです。男女比は1:10で、20~40歳代の比較的若い世代に多い疾患です。

とはいえ、発症者自体がそれほど多い疾患ではなく、人口10万人に対して10~100人程度と、0.01~0.1%程度の割合です。近親者の発症率は有病者の発症率よりも高く、一卵性双生児では約30%と非常に高くなることから、遺伝が何らかの形で関係していることはわかっていますが、決定的な因子は見つかっていません

ループス腎炎の症状は?

ループス腎炎では腎臓に炎症が起こり、通常腎臓で処理されるはずの老廃物が処理できなくなってしまいます。そのため、臨床症状としては血尿、ネフローゼのような蛋白尿が見られ、さらに進行すると高窒素血症がみられます。症状の程度は、ごく軽いものから、放置すると人工透析を受けなくてはならなくなってしまう重篤なものまでさまざまです。

診断は、まず尿検査によって血尿や蛋白尿が見られるかどうかを確認した後、腎生検によって確定診断を行います。つまり、腎臓の組織を組織学的に検討・分類し、病状やその進行状況を判断し、治療の方向性を決定します。Ⅰ~Ⅵ型の6種類に分類され、病態によって巣状・びまん性・膜性・進行性硬化性などと呼ばれます。

ループス腎炎の治療法は?

ループス腎炎を治療する場合、ループス腎炎だけではなく、全身性エリテマトーデスに対しての治療を行うことになります。通常はコルチコステロイドと細胞傷害性薬剤、またはその他の免疫抑制剤などを使用します。免疫抑制剤には「副腎皮質ステロイド薬」「シクロフォスファミド」などが使われます。

いずれも副作用の強い薬剤ですから、処方には医師の経験が重要となります。また、ステロイド薬は40~60mgからスタートしてできるだけ減薬し、その代わりにさまざまな種類の免疫抑制剤を併用することで、必要最低限の薬剤で最大の効果を引き出せるよう治療を行っていく必要があります。ステロイド薬は10~15mg程度を維持することが多いようです。

また、まだ治療法として一般的ではありませんが、「血漿交換療法」という治療法が行われる場合もあります。これは自己抗体や免疫複合体の値が高い場合に行われますが、その効果については賛否両論が分かれています。その他、症状や病態に応じて「抗血小板療法」「抗凝固療法」などの治療法が用いられることもあります。

おわりに:ループス腎炎は全身性エリテマトーデスの約90%が発症する合併症

ループス腎炎は、自己免疫疾患のひとつである全身性エリテマトーデスを発症した人のうち、約90%に病変が見られる合併症です。血尿やネフローゼのような尿蛋白など、臨床的な症状が見られるのは約50%程度と言われています。

治療にはステロイド薬や免疫抑制剤を使いますが、自己抗体や免疫複合体の値が高い場合には血漿交換療法という治療法が使われることもあります。

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