記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/9/6
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
私たちの周りには、空気中や水中・土中などさまざまな場所に、目に見えない細菌やウイルスが存在しています。とくに空気中に存在する細菌やウイルスは、誰しもあえて意識することなく呼吸で体内に取り込んでいます。
こうした菌の一つに「アスペルギルス」という真菌の一種がいます。この真菌に感染すると「アスペルギルス症」という感染症を発症しますが、肺以外の場所に発症することや、かかりやすさがあるのでしょうか?
アスペルギルス症とは、アスペルギルス属の真菌「アスペルギルス」によって引き起こされる感染症です。アスペルギルスは屋内外のどこにでも存在しているため、アスペルギルスを避けることはできません。とくに堆肥の山・通気口・空気中のホコリの中などに多く存在していますので、通常は空気中からアスペルギルスの胞子を吸い込むことで感染することが多く、したがって肺や副鼻腔内に起こりやすいです。
とはいえ、アスペルギルス症は「日和見感染症」と呼ばれる感染症の一種で、ほとんどの人では吸い込んでも感染症を発症することはありません。これは、ほとんどの人はアスペルギルスの胞子を吸い込んでも免疫機能で撃退できるためで、免疫機能が極端に低下している人はアスペルギルスの胞子が侵入してきたときに撃退できず、感染症を引き起こしてしまうです。
免疫機能が低下する原因としては、遺伝性疾患やがん、副腎皮質ステロイドなどの薬剤の長期使用、がんの化学療法、臓器移植後の拒絶反応予防のための免疫抑制剤などが挙げられます。逆に言えば、風邪などによる軽度の免疫力低下では起こりにくい疾患であると言えます。
確定診断には通常、X線検査やCT検査を行い、さらに可能であれば感染サンプルの培養検査を行います。
アスペルギルス症を発症すると、肺や副鼻腔内に菌糸・血液のかたまり・白血球が絡まった球状のかたまりができます。肺で急速に症状が広がった場合、咳に血が混じる、発熱や胸痛、呼吸困難などの症状が出る場合もあります。こうした自覚症状がある場合はとくに治療を早急に開始する必要があり、放置していると死に至る確率が高いです。
真菌が肺や副鼻腔だけでなく他の臓器にまで広がると、それらの臓器の機能が低下します。とくに、肝臓や腎臓にまで広がると肝不全や腎不全、それに伴う黄疸などの症状がみられることもあります。こうした場合も急速に生命を脅かす恐れがありますので、体調が悪くなった場合は早急に検査と治療が必要です。
そのほか、外耳道に感染した場合はかゆみや痛み、夜間に耳から液が滲み出すなどの症状が見られます。副鼻腔のみに感染すると、鼻が詰まって痛んだり、鼻水や鼻血が出ることもあります。人によっては症状がみられず、健康診断やその他の胸部X線検査で初めて発見されることもあります。
アスペルギルス症には、以下の3つのタイプがあります。
アスペルギルス症は、アスペルギルスが以前にかかった肺疾患で生じた肺の空洞など、体内の空洞部分に住み着くことで発症します。そのため、肺の空洞部分や外耳道、副鼻腔など、体内の空洞である部分に生じやすいのです。ところが、ごくまれに免疫機能が非常に大きく低下している人では疾患の勢いが強くなり、肺から血流に乗って脳・心臓・肝臓・腎臓などの主要臓器に感染することもあります。主要臓器にまで感染が広がった場合、早急に治療を行わなければ生命を脅かします。
初めにご紹介したように、アスペルギルス症を発症するのはそもそも免疫機能が低下している人ですが、中でもHIVウイルスによってAIDS(後天性免疫不全症候群)を発症した人、抗がん剤治療中の人など、免疫力が著しく低下した場合に発症しやすくなります。
こうした人が発症する場合「急性肺アスペルギルス症(侵襲性アスペルギルス症)」となる場合が多く、アスペルギルスが肺で急速に増殖し、肺組織が一気に線維化するため、すぐに呼吸不全に陥ります。こうなってしまうと治療が困難で、死亡率が約50%にも至ることが知られています。免疫力が低下しやすい糖尿病の人も、一般的な免疫機能を持つ人と比べて感染リスクが高いとされています。
急激な感染ではないものの、アスペルギルスが肺でじわじわと増殖し、呼吸を妨げる場合「慢性肺アスペルギルス症(肺アスペルギローマ)」となります。気管支拡張症・間質性肺炎・慢性閉塞性肺疾患(COPD)・結核など、過去に何らかの呼吸器系の疾患を発症した人がかかりやすい感染症です。とくに喫煙習慣や副流煙を吸い続けている場合、無自覚にCOPDを発症していることも多いため、禁煙によってリスクを減らすことができます。
さらに、アレルギー反応によるものが「アレルギー性気管支肺アスペルギルス症」です。早期発見・早期治療ができればステロイド薬と抗真菌薬の併用などで通常の喘息の症状程度にまで抑えることができますが、進行してしまうと気管支拡張症の悪化や肺の線維化に至ってしまい、組織が元に戻らず、酸素吸入しながら生活を送らなくてはならなくなることもあります。
アスペルギルス症の治療には、主に抗真菌薬を使う薬物療法が行われますが、場合によっては真菌を切除する手術が行われることもあります。侵襲性・外耳道・肺内の3つのパターンについて、使う薬剤を見ていきましょう。
アスペルギルス症による感染が副鼻腔や肺のごく一部など、一ヶ所にとどまっている状態であれば、治療は必要なものの、即座に危険な状態になるというわけではありません。しかし、侵襲性アスペルギルス症などのように感染が広範囲に及ぶ場合、症状が重篤な場合、免疫機能が著しく低下している場合には、ただちに治療を開始しないと生命に関わる危険性もあります。
また、アスペルギルス症を予防するためには、ハウスダストを減らすことが重要です。とくにホコリはアスペルギルスに限らずカビの温床となるため、高性能の空気清浄機を使う、エアコンの内部やフィルターの掃除をこまめに行うなど、カビが発生しないような環境づくりを心がけましょう。とくに、職場のエアコンは盲点となりがちなので、定期的なメンテナンスが必要です。
アスペルギルス症は真菌「アスペルギルス」が体内の空洞部分に住み着くことで発症する感染症ですが、免疫力の正常な人は発症しにくい「日和見感染症」の一種です。AIDSや抗がん剤治療中の人などは「侵襲性アスペルギルス症」という肺だけでなく脳や肝臓などにも広がる感染症を引き起こすこともあり、注意が必要です。
治療は抗真菌薬と手術で行います。また、カビが発生しないような環境づくりでリスクを減らすことができます。