記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/8/30 記事改定日: 2020/7/16
記事改定回数:1回
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
院内感染とは、病院など医療施設内で何らかの病原体に感染し、患者さんや医療従事者、訪問者が病気を発症してしまうことです。この記事では院内感染の原因や感染経路、対策や予防法、お見舞いのときの注意点などを解説していきます。
院内感染とは、病院内で細菌やウイルスなどの病原体に接触して感染することを指します。一般的には、入院して3日目(48時間以上が経過した)以降に発症した場合を「院内感染」と呼んでいます。一方、これ以前に感染した場合は入院前に病原体に接触したことが原因と考えられるため、「市中感染」と呼んでいます。
院内感染にかかりやすいのは、以下のような人です。
一般的に、市中感染を引き起こすような病原体は、非常に強いものです。なぜなら、市中で生活している人は健康な免疫力を持っているので、弱い細菌やウイルスは体内に入ったとしても、免疫機能によって活動を抑えられたり、駆除されたりして、病気の発症にまで至らないからです。
しかし、院内感染を引き起こす菌は、市中においては何の影響も及ぼさないような弱い菌であることが多いのです。たとえば、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)、緑膿菌、セラチアという細菌です。
特に、黄色ブドウ球菌などは皮膚や腸内にも存在している常在菌の一種であり、免疫機能が正常に働いている人にとっては悪さをする菌ではありません。しかし、消耗性疾患や免疫抑制剤などによって免疫力が低下している入院患者さんはこれらの菌に対する抵抗力が十分でなく、感染が起こりやすい状態になってしまっています。
入院するほどの症状でなくとも、お腹を壊したときや食欲が落ちて体力が低下したときなど、風邪を引きやすくなることはよく知られています。こういった場合を「免疫力が落ちている・低下している」と言います。
また、消耗性疾患や免疫抑制剤の服薬によって大きく抵抗力が落ちた状態は、細菌やウイルスに感染しやすい状態になっています。
院内感染のやっかいな点は、お医者さんや看護師さんなどの健康な免疫力を持つ人が気づかずに細菌を媒介してしまう危険性があることと、院内感染を引き起こす菌はしばしば薬剤耐性を持つ菌であることの2点です。
医師や看護師などの医療従事者は清潔が第一であり、健康管理や衛生には人一倍気をつけています。健康な免疫力を持っている人には悪さをしない病原体の場合、何の症状も示さないまま、ひっそり体内に潜んでしまっていることがあります。
その結果、本人が気づかないまま細菌を運んでしまい、抵抗力が落ちている人と接触し、感染を起こすことがあります。お見舞いに来た訪問者なども同じように、本人が気づかないまま菌を持ち運んでいる可能性があるのです。
院内感染を引き起こす細菌は、MRSAやVREのように、「メチシリン」「バンコマイシン」といった抗生物質に対して耐性を持つ菌であることが多いのが2つめの問題です。すると、これらの抗生物質を投与しても効きませんから、治療が難航することも多く、場合によっては生命に関わる結果になります。
院内感染の原因となる細菌は、主に以下の13種類があります。
代表的な院内感染を引き起こす上記の13の細菌のうち、結核菌、インフルエンザウイルス、麻疹ウイルスの3種類は、市中感染も引き起こす強力な細菌です。これらの細菌に対しては市中でも対策を取っていることが多いのですが、空気感染や飛沫感染を引き起こすため、衣服などに付着したまま院内に細菌を持ち込んでしまう可能性が否定できません。
基本的には、医療機関で行われている「標準予防対策」という感染対策を行います。標準予防対策では、主に以下のようなことに注意して医療行為を行います。
このように、まずは不用意に細菌が他の患者さんに接触しないように気をつけるとともに、医療従事者が細菌の媒介をしないような対策を行います。
標準予防対策を行った上で、感染性の病原体を持った患者さんに対しては、個別に「感染経路別予防策」を実施します。病原体の種類によって「接触感染対策」「飛沫感染対策」「空気感染対策」などが行われます。
具体的な対策と対象の感染症は、以下のようになっています。
手洗いや手袋などの使用を徹底し、患者さん本人と患者さんが触るものによって感染が広がるのを防ぎます。体温計などの医療器具も接触感染の原因となるため、個別に専用とします。
咳やくしゃみなどのしぶきが感染源となるため、処置時にはマスクや手袋を着用します。物理的な遮蔽、個室隔離なども有効です。
病原体が外部に漏れないよう、陰圧(室内の気圧を低くし、感染の原因菌を外に出さないように気圧管理すること)の個室に隔離します。入室するときは、N95マスクなどの防御具を着用します。
このように、医療機関では院内感染の予防のためにさまざまな対策が取られています。
お見舞いなどの際に消毒やマスクなどの対策を求められた場合、必ず指示に従って対策を行いましょう。
また、下記のような症状がみられた場合はお見舞いを控えることをおすすめします。
また、子供を同伴してのお見舞いや親族以外のお見舞いをお断りしている医療機関もあります。お見舞いに行くときは、これらの項目に該当しない場合でも、医療機関の規定に従うようにしましょう。
市中では悪さをしないような弱い病原体も、免疫力の低下した入院患者さんなどには重篤な疾患を引き起こすリスクがあり、院内感染が発生するおそれがあります。院内感染の予防には、標準予防対策に加え、接触・飛沫・空気感染対策が個別に取られています。お見舞いなどで病院を訪れる際は十分に注意しましょう。