院内感染が起こる原因として考えられることは?予防法は?

2019/8/30

山本 康博 先生

記事監修医師

東京大学医学部卒 呼吸器内科医

山本 康博 先生

院内感染とは文字通り、病院内で何らかの病原体に感染し、病気を発症してしまうことを言います。文字の印象から、非常に強力で恐ろしい病原体に感染してしまうことなのではないかと思ってしまう人も多いのですが、院内感染を引き起こす病原体のほとんどは、健康な人に対しては悪さをしない病原体なのです。
では、院内感染が起こるのはなぜなのでしょうか?そして、その予防法とはどんな対策が取られるのでしょうか?

院内感染とは

院内感染とは、端的に言えば病院内で細菌やウイルスなどの病原体に接触して感染することを指します。一般的には、入院して3日目(48時間以上が経過した)以降に発症した場合を「院内感染」と呼んでいます。一方、これ以前に感染した場合は入院前に病原体に接触したことが原因と考えられるため、「市中感染」と呼んでいます。

院内感染を引き起こしやすいのは、以下のような人です。

  • 悪性腫瘍など、消耗性疾患の患者
  • 手術など、感染のリスクが高い処置を受けた患者
  • 化学療法中や、臓器移植後で免疫抑制剤の投与を受けたなど、感染を防御する力が低下している患者

一般的に、市中感染を引き起こすような病原体は、非常に強いものです。なぜなら、市中で一般的に生活している人は健康な免疫力を持っているので、弱い細菌やウイルスは体内に入ったとしても、免疫機能によって活動を抑えられたり、駆除されたりして、病気の発症にまで至らないからです。

しかし、院内感染を引き起こす菌は、市中においては何の影響も及ぼさないような弱い菌であることが多いのです。たとえば、以下のような細菌です。

  • MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)
  • VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)
  • 緑膿菌
  • セラチア

これらの細菌は、一般的な免疫力を持っている市中の人に対しては、取り立てて危険なものではありません。とくに、黄色ブドウ球菌などは皮膚や腸内にも存在している常在菌の一種であり、免疫機能が正常に働いている人にとっては悪さをする菌ではないのです。しかし、消耗性疾患や免疫抑制剤などによって免疫力が低下している入院患者さんはこれらの菌に対する抵抗力が十分でなく、感染が起こりやすい状態になってしまっています。

入院するほどの症状でなくとも、お腹を壊したときや食欲が落ちて体力が低下したときなど、風邪を引きやすくなることはよく知られています。免疫力が落ちるとはそういうことで、消耗性疾患や免疫抑制剤によって大きく抵抗力が落ちた状態は、一般的に「体力が落ちたな」と思うよりもさらに細菌やウイルスに感染しやすい状態になっているのです。

院内感染のやっかいな点は、お医者さんや看護師さんなどの健康な免疫力を持つ人が気づかずに細菌を媒介してしまう危険性があることと、院内感染を引き起こす菌はしばしば薬剤耐性を持つ菌であることの2点です。

お医者さんや看護師さんなど、医療従事者はもちろん清潔が第一であり、市中の人よりも健康管理や衛生には人一倍気をつけています。しかし、これらの病原体は健康な免疫力を持っている人には悪さをしないため、何の症状も示さないまま、ひっそり体内に潜んでしまっていることがあります。

その結果、本人が気づかないまま抵抗力が落ちている人と接触し、感染を起こしてしまうということが考えられます。もちろん、医療従事者でないお見舞いに来た人なども同じように、本人が気づかないまま菌を持ってしまっている可能性があるのです。これが問題の1つめです。

さらに、院内感染を引き起こす細菌は、MRSAやVREのように、「メチシリン」「バンコマイシン」といった抗生物質に対して耐性を持つ菌であることが多いのが2つめの問題です。すると、これらの抗生物質を投与しても効きませんから、治療が難航することも多く、場合によっては生命に関わる結果になってしまうこともあります。

医療技術や衛生環境の発達により、病院内は基本的には清潔な環境になっています。しかし、院内感染の危険性がゼロになったわけではないことをしっかり理解する必要があります。また、お見舞いなどに行く場合は、市中から細菌を持ち込んでしまうリスクがあることを考え、可能な限り清潔な状態で向かうよう気をつけましょう。

院内感染の原因となる菌の種類

院内感染の原因となる細菌は、主に以下の13種類があります。

黄色ブドウ球菌(MRSA、VRSAなどの耐性菌を含む)
薬剤に高度な耐性を持つ菌が多く、免疫細胞の中でも顆粒球が少ない患者さんで肺炎や兆円などを引き起こす
緑膿菌
尿路感染症・肺炎・敗血症などの日和見感染症を引き起こす
湿潤な環境で生育・生存しやすいため、梅雨から夏にかけてとくに注意が必要
空調による除湿などが有効。多くの薬剤に対して耐性を持つ菌が多い
バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)
腸や外性器などに常在している「腸球菌」のうち、バンコマイシンなど多くの抗生剤に対して耐性を持っているもの
基礎疾患を持っている人に悪さをすることが多く、敗血症や腹膜炎などを引き起こす
セラチア
高齢で寝たきりの患者さんなどで、敗血症の原因となる
レジオネラ
空調や水系に常在して感染源となり、肺炎や敗血症を引き起こす
カンジダ・アルビカンス
常在菌の一種だが、抵抗力が落ちると勢力を増大し、食道炎や肺炎を引き起こす
ニューモシスチス・カリニ
HIV感染や抗がん剤によって顆粒球が減少している患者さんに日和見肺炎を引き起こす
サイトメガロウイルス
HIV感染や抗がん剤によって顆粒球が減少している患者さんに日和見間質性肺炎・網膜炎・輸血後症候群などを引き起こす
水痘帯状ヘルペスウイルス
白血病や悪性腫瘍などによる顆粒球減少が起こっている小児の患者さんに感染すると、重度の肺炎などを引き起こす
パルボウイルスB19株
急性白血病・AIDS・骨髄移植・溶血性貧血・先天性免疫不全など、免疫力が極端に低い患者さんに対し、骨髄無形成発作を起こす
結核菌
市中感染も引き起こす強力な細菌で、入院患者さんや医療従事者が感染していた場合、空気感染することがある
インフルエンザウイルス
市中感染も引き起こす強力な細菌で、高齢の入院患者さんに感染が広まることがある
肺炎を合併すると、予後が悪化する
麻疹ウイルス
細胞性免疫不完全の患者さんに初感染した場合、麻疹を発症した数ヶ月後に巨細胞性肺炎や亜急性型麻疹脳炎を発症し、致命的となる

代表的な院内感染を引き起こす上記の13の細菌のうち、3種類は市中感染も引き起こす強力な細菌です。これらの細菌に対しては市中でも対策を取っていることが多いのですが、やっかいなことに空気感染や飛沫感染を引き起こすため、それと知らずに衣服などに付着したまま持ち込んでしまう可能性が否定できません。

また、他の10種類に関しては、初めにご紹介したように健康な免疫力を持つ人には悪さをしない細菌なため、免疫力が正常な人はこれらの細菌に気づかず、保菌している可能性を意識する必要があります

院内感染を防ぐには?

基本的には、医療機関で行われている「標準予防対策」という感染対策を行います。標準予防対策では、主に以下のようなことに注意して医療行為を行います。

  • すべての患者さんの血液や体液、分泌液、排泄物、傷のある皮膚や粘膜は感染性のあるものとみなし、手袋やガウンなどを使用して直接接触しないように取り扱う
  • 採血検査を行う際も手袋を着用し、さらに一人一人処置後には必ず手洗いを行う

このように、まずは不用意に細菌が他の患者さんに接触しないように気をつけるとともに、医療従事者が細菌の媒介をしないような対策を行います。この「標準予防対策」を行った上で、感染性の病原体を持った患者さんに対しては、個別に「感染経路別予防策」を実施します。病原体の種類によって「接触感染対策」「飛沫感染対策」「空気感染対策」などが取られます。

具体的な対策と対象の感染症は、以下のようになっています。

接触感染対策
手洗いや手袋などの使用を徹底し、患者さん本人と患者さんが触るものによって感染が広がるのを防ぐ
体温計などの医療器具も接触感染の原因となるため、個別に専用とする
対象の感染症:MRSA、緑膿菌などの耐性菌による感染症、疥癬(かいせん)、帯状疱疹、O-157感染症、急性ウイルス性結膜炎、クロストリジウム・ディフィシル腸炎、ノロウイルス感染症など
飛沫感染対策
咳やくしゃみなどのしぶきが感染源となるため、処置時にはマスクや手袋を着用する
物理的な遮蔽、個室隔離なども有効
対象の感染症:インフルエンザ、流行性耳下腺炎、風疹などのウイルス感染症、髄膜炎菌感染症、ジフテリア、マイコプラズマ肺炎、百日咳、A群溶連菌感染症、SARSなど
空気感染対策
病原体が外部に漏れないよう、陰圧の個室に隔離する
入室するときは、N95マスクなどの防御具を着用する
対象の感染症:麻疹、(播種性または免疫不全状態での帯状疱疹を含む)水痘、結核

このように、医療機関では院内感染の予防のためにさまざまな対策が取られています。もし、お見舞いなどの際に消毒やマスクなどの対策を求められた場合、必ず指示に従って対策を行いましょう

おわりに:院内感染は免疫力が極度に低下した人に起こりやすいです

医療技術や衛生環境の発達によって、市中で感染を引き起こすような強力な病原体の多くは院内に持ち込まれづらくなっています。しかし、やっかいなのは市中では悪さをしないような弱い病原体も、免疫力の低下した入院患者さんなどには重篤な疾患を引き起こすリスクがあるということです。

院内感染の予防には、標準予防対策に加え、接触・飛沫・空気感染対策が個別に取られます。お見舞いなどに行く際は、十分に注意しましょう。

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