記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/11/30
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
一般に高齢者と呼ばれるのは65歳以上の人ですが、このくらいの年齢になると若い頃と比べて運動量が大幅に減ってしまう人も少なくありません。しかし、生活習慣病の予防や身体能力の維持など、運動で得られるメリットはたくさんあります。
そこで、高齢者でも無理なく運動できるよう、おすすめの運動をご紹介します。何よりも毎日楽しく続けられることが大切ですから、運動する際は注意点も忘れないようにしましょう。
近年よく聞かれるようになってきた概念に「フレイル」というものがあります。「フレイル」とは介護が必要となる前段階の状態で、転倒のリスクや死亡率などが高まりやすいほか、移動能力や日常生活に必要な動作(ADL)が低下しやすくなっています。つまり、介護など人の助けを借りなくても十分に日常生活を送れる「健康寿命」が短くなりやすい状態ということです。
「フレイル」の定義は、「筋力の低下・活動量の低下・歩行速度の低下・易疲労性・体重減少」のうち3つ以上が当てはまること、となっています。いずれも高齢者で見られやすい症状ですが、そもそも高齢者にこのような症状が生じるのは、加齢によって筋肉量・筋力・身体能力の低下が見られる「サルコペニア(加齢性筋肉減弱症)」という現象があるからです。
サルコペニアのほか、骨・筋肉・関節(運動器)に何らかの障害が見られると、高齢者では容易に歩行能力やバランス能力、筋力の低下につながり、フレイルになりやすくなってしまいます。しかし、フレイルは介護を必要とする前段階の状態であり、適切な運動やリハビリテーション、食事療法・薬物療法などを行うことで、健康な状態へと回復することもできるのです。
ですから、高齢期こそ適切な運動を行い、筋肉量の増大や筋力の強化をはかり、サルコペニアに対抗することが重要です。それはすなわち歩行能力やADL、身体機能の維持や向上につながり、フレイルの段階に進むのを防ぎ、やがては高齢者自身の健康寿命を延ばすことにつながります。
また、呼吸器疾患・心血管疾患・抑うつ症状・運動器疾患はフレイルと合併しやすいこと、生活習慣病がサルコペニアやフレイルの危険因子となることもわかっています。そこで、適度な運動を習慣づければ、心肺機能が高まり、爽快感や達成感が得られ、骨が丈夫になり、生活習慣病の予防にもなります。つまり、フレイルの予防に運動は非常に効果的と言えるのです。
普段の身体活動量と全死亡、がん・心疾患・脳疾患における死亡との関連を調べた研究によると、身体活動量の多い人ほど死亡リスクが低くなることがわかりました。ここで言う「身体活動量」とは、運動強度指数(MET)に活動時間をかけた値「METS・時間」で換算したもので、身体活動量の最大群から最小群までを4つのグループに分けて調査したところ、男女ともに身体活動量が多い群ほど死亡リスクの低下が見られました。
身体活動量最小群と身体活動量最大群を比べると、全死亡リスクが男性では0.73倍、女性では0.61倍と大幅に低下しているのがわかります。他にも、がんによる死亡リスクは男性で0.8倍、女性で0.69倍とやはり明らかに低下しています。心疾患死亡リスクや脳血管疾患では他の群でも低下が見られ、明らかな結果ではないものの、低下の傾向にあると言えます。
このように、身体活動量が多いことが死亡リスクを低下させるのはなぜなのか、その理由はまだよくわかっていません。有力な説としては、インスリン抵抗性・脂質・血圧などの改善や、老化・炎症などに関係する酸化ストレスの軽減が図れること、達成感や爽快感が心理的に良い影響を及ぼすことなどが挙げられています。
死亡リスクの低下は身体活動の種類には関係なく、日頃からよく運動している、あるいは明確なスポーツでなくともよく身体を動かしていると死亡リスクが低下するとわかっています。ですから、激しい運動などを行わなくても、可能な範囲で少しずつ身体活動量を増やしていくことが大切です。
高齢者におすすめの運動には、以下のようなものがあります。
いずれの運動も、まずは無理のない範囲でスタートし、毎日続けやすい運動量で行っていくことが大切です。継続していくうちに筋力の維持はもちろん、バランス感覚を養え、認知症予防にもつながります。日常の中で、じっとしている時間があれば、できる範囲で身体を動かすようにし、習慣化していきましょう。
高齢者が運動をする場合、体の感覚もやはり若い世代と比べて低下しているため、自分が体調不良でも気づきにくいことがあります。しかも、若い頃にスポーツをしていたなど、自分の体力に自身がある高齢者は、自分の健康状態を過信してしまいやすい傾向にあります。ですから、高齢者本人のセルフチェックはもちろん、周囲の家族も体調を気にかけておきましょう。とくに重要なのは、以下の3つのポイントです。
また、運動開始前に体調が万全であると確認できても、運動を始めた後に体調を崩すこともあります。そこで、運動中は以下の3つのポイントに気をつけましょう。
水分補給は重要なポイントです。一度に飲むよりこまめに飲む方が効果的ですから、ペットボトルや水筒などで何度も水を飲めるようにしましょう。とくに夏場は、真水よりもスポーツドリンクの方が良いかもしれません。ただし、塩分の摂取制限を受けている人などは、飲んでも良い飲料の種類や量を医師と相談しておきましょう。
また、運動後のクールダウンも大切です。運動前に関節や筋肉を伸ばすストレッチを行うことも重要ですが、運動が終わった後もしっかりストレッチを行っておきましょう。クールダウンを適切に行うことで、翌日以降も無理なく運動を続けやすくなり、運動が習慣化しやすくなります。
「サルコペニア(加齢性筋肉減弱症)」は、誰しも年齢とともに避けられない問題です。ですから、フレイルを予防するためにも、健康寿命を伸ばすためにも、日頃から適切な運動でサルコペニアによる筋力や体力の低下を軽減・防止しておくことが大切です。
おすすめは有酸素運動やストレッチ・スクワットなど、ゆっくりとした動きで筋肉を鍛え、血流を良くするものです。体調不良には気をつけながら、運動を習慣化していきましょう。