記事監修医師
広島大学病院皮膚科 教授
田中 暁生 先生
2022/12/15
記事監修医師
広島大学病院皮膚科 教授
田中 暁生 先生
HAEは、遺伝子の変異が原因で体のいたるところに持続する腫れやむくみ(血管性浮腫という)を繰り返す疾患です。非常に稀な疾患で発症率は5万人に1人といわれています。
個人差がありますが、10歳から20歳代に初めて発症することが多いことが知られています。
HAEの症状の多くは皮膚と消化管に起こります。皮膚(手足、顔面、腹部など)が腫れた場合は一見すると「じんま疹」に似ていることがありますが、かゆみを伴わないのが特徴です。頻度としては低いものの、咽頭浮腫は窒息死をもたらす危険性があるので注意が必要です。精神的ストレス、外傷や抜歯、過労などの肉体的ストレス、妊娠や生理、薬物などが発作の引き金となることが知られています。多くの場合、症状は通常24時間で最大となり数日で消失します。
HAEは、遺伝子の変異が原因で起こる疾患です。C1インヒビターの異常によるタイプ(Ⅰ型およびⅡ型)とC1インヒビターの遺伝子には異常を認めないタイプ(Ⅲ型)の3つに分類されます。ほとんどの患者さんはⅠ型またはⅡ型であり、Ⅲ型はごく少数と考えられています。
HAEの浮腫形成に直接的な役割を果たしているのはブラジキニンという炎症メディエーター(化学伝達物質)です。ブラジキニンは血管内皮細胞を収縮させ内皮細胞間の隙間を広げる役割を担っています。通常体内ではC1インヒビターによるブラジキニンの働きが抑制されていますが、C1インヒビターの機能異常によりブラジキニンの働きを抑制できなくなると、血管内の水分が血管外に漏れ出し浮腫を引き起こします。
HAEはその名の通り、家族性の単一遺伝子異常による疾患ですが、何らかの原因で遺伝子に新生変異(両親ともに正常だった遺伝子に新たに変異が起こる)が起こって発症することもあります(孤発例(こはつれい)と呼ばれます)。海外の報告では約75%が常染色体顕性遺伝形式注)をとり、残り約25%が家族歴のない孤発例とされています。
国内におけるHAE患者の調査では、家族歴ありが78%. 孤発例が22%と報告されており、欧米の結果と同様でした 。最近、C1インヒビターに異常がない、Ⅲ型のHAE患者さんが見つかっています。
常染色体顕性遺伝は、男性、女性ともに症状が現れます。片方の親が、もう片方の親の遺伝子の特性を押さえつけるような遺伝子をもつ場合、その遺伝子を顕性遺伝子といい、その遺伝形式を顕性遺伝といいます。
遺伝性血管性浮腫(HAE)は、問診、身体所見から得られた症候からHAEを疑い、検査を行って診断を確定します。
下記のような症状のある患者さんはHAEの疑いがあります。
HAEを疑う症候があった場合には、確定診断のために血液検査を行います。主な血液検査は、遺伝性血管性浮腫診療のためのWAOガイドラインで推奨されている補体C4濃度、C1インヒビター活性およびC1インヒビター定量となります(下記に記載)。これらの検査で異常に低値である場合は、再検査を行って診断が確定されます。
1) Bowen T, et al : Allergy Asthma Clin Immunol 6: 24 , 2010.
※C1インヒビター定量試験は保険適応がなく、特殊な状況でしか検査ができません。
現在、HAEを完全に治す治療法はありません。HAEの治療は発作(腫れ)が起きたときの治療と予防の2つに分けられます。
わが国では現在、「ブラジキニン受容体阻害薬」と「C1インヒビター製剤」による治療が保険適応となっています。
腫れや痛みの原因であるブラジキニンの働きを阻害して血管の拡張や血管透過性亢進を抑えることで、腫れを起こさないようにします。
現在、国内で使用できるブラジキニン受容体阻害薬は、皮下注射のお薬です。かかりつけの医療機関で指導を受けた上で、自己注射が可能です。
海外の「遺伝性血管性浮腫診療のためのWAO/EAACI ガイドライン」では、HAE患者さんは常に少なくとも発作2回分の治療に相当するお薬を常に携帯しておくことが推奨されています 2)。
2) Maurer, M. et al. The international WAO/EAACI guideline for the management of hereditary angioedema – the 2021 revision and update. Allergy, doi:10.1111/all.15214 (2022).
C1インヒビター製剤は、ヒトの血液を原料としてC1インヒビターを製剤化したお薬です。
HAE患者さんで不足しているC1インヒビターをお薬として補充して、腫れを緩和します。医療機関で静脈注射や点滴で投与します。
短期と長期の予防があります。短期の予防としては、手術、出産、歯科治療などの侵襲(からだを傷つける行為)を伴う処置を行う時に、急性発作の発症を抑えるためにC1インヒビター製剤を投与します 3) 。また、長期にわたる発作の予防には血漿カリクレイン阻害剤が投与されます。
腫れの原因であるブラジキニンを放出する血漿カリクレインの働きを阻害して、HAE患者さんにおける過剰なブラジキニン生成を抑えます。現在、国内で使用できる血漿カリクレイン阻害剤として、経口剤と皮下注製剤があります。
3) 一般社団法人日本補体学会HAE ガイドライン作成委員会:遺伝性血管性浮腫(HAE) ガイドライン改訂2019 年版.2020. (堀内孝彦 他 日本補体学会学会誌「補体」 57(1):3-22, 2020)
HAEは希少疾患であり、専門病院への受診が推奨されます。
専門病院の検索は下記のサイトにて病院検索が提供されています。
HAE-info >病院検索