高齢者に多い慢性硬膜下血腫、認知症に似た症状との違いとは

2026/6/10

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

慢性硬膜下血腫とは

高齢者にもの忘れや歩きにくさが現れたとき、認知症や年齢による体力低下を考える人は少なくありません。しかし、頭を打ったあとしばらくしてから、認知症に似た症状やふらつきが出る病気のひとつに、慢性硬膜下血腫があります。

慢性硬膜下血腫とは、脳の表面と頭蓋骨の間にある硬膜という膜の下に、血液が少しずつたまる病気です。たまった血液によって脳が圧迫されることで、頭痛、手足の動かしにくさ、歩きにくさ、ぼんやりする、もの忘れが目立つなどの症状が出ることがあります。

多くは転倒や頭部打撲のあとに起こるとされています。ただし、強く頭を打った場合だけでなく、軽くぶつけた程度、しりもちをついた程度でも起こることがあります。高齢者では脳の萎縮などにより脳と頭蓋骨の間にすき間ができやすく、軽い衝撃でも血管に負担がかかることがあります。そのため、本人や家族が頭を打ったことを忘れているころに症状が現れる場合があります。

発症までの期間は、一般的に頭を打ってから数週間から数か月後とされています。すぐに症状が出ないことがあるため、転倒後の数日だけでなく、その後の生活の変化にも目を向けることが大切です。

慢性硬膜下血腫の症状の特徴

慢性硬膜下血腫の症状は、人によって現れ方が異なります。比較的多い症状として、頭痛、ふらつき、片側の手足の動かしにくさ、言葉の出にくさ、しびれ、けいれん、ぼんやりする、もの忘れがひどくなるなどがあります。

高齢者では、頭痛よりも歩行の変化や認知症に似た症状が目立つことがあります。たとえば、最近よく転ぶようになった、歩いていると片側に傾く、以前より反応が遅い、会話がかみ合いにくい、身の回りのことに時間がかかるといった変化です。尿失禁や意欲の低下のように、ほかの病気や加齢による変化と区別しにくい症状がみられることもあります。

認知症との違いとして大切なのは、症状の出方です。認知症では一般的に、もの忘れや判断力の低下がゆっくり進むことが多いとされています。一方、慢性硬膜下血腫では、数週間から数か月の間に歩きにくさやぼんやりした様子が目立つようになることがあります。もちろん、症状だけで判断することはできません。似た変化がある場合には、医療機関で確認することが必要です。

特に注意したいのは、急に片側の手足が動かしにくくなった、ろれつが回らない、意識がぼんやりしている、けいれんがある、強い頭痛があるといった場合です。このような症状があるときは、早めに救急受診を含めて医療機関に相談しましょう。

慢性硬膜下血腫と似た症状を示す疾患

慢性硬膜下血腫では、認知症や脳卒中、パーキンソン病などと似た症状が出ることがあります。そのため、家族や介護職が「年齢のせい」「認知症が進んだ」と考えてしまうと、受診の機会が遅れることがあります。

アルツハイマー型認知症では、もの忘れを中心に少しずつ生活への影響が広がることが多いとされています。慢性硬膜下血腫でももの忘れや意欲低下が出ることがありますが、転倒や頭部打撲のあとに比較的短い期間で変化が目立つ場合は、別の原因がないか確認することが大切です。

脳梗塞や脳出血などの脳卒中では、突然の麻痺、言葉の障害、顔のゆがみ、強い頭痛などがみられることがあります。慢性硬膜下血腫では症状がゆっくり進むことが多いとされていますが、状態によっては意識障害などが現れる場合もあります。急激な悪化があるときは、自己判断せず医療機関へ相談しましょう。

パーキンソン病では、動作が遅くなる、手が震える、歩幅が小さくなる、姿勢が前かがみになるなどの症状がみられます。慢性硬膜下血腫でも歩きにくさやふらつきが出ることがありますが、原因や治療法は異なります。歩行の変化だけで病名を決めることはできないため、画像検査を含めた診察が重要です。

慢性硬膜下血腫の検査と診断

慢性硬膜下血腫が疑われる場合は、脳神経外科や脳神経内科などで相談することが一般的です。受診時には、いつ転倒したか、頭を打ったか、しりもちをついたか、症状がいつごろから変化したかを伝えると、診断の助けになります。本人が覚えていない場合もあるため、家族や介護職が日々の変化を記録しておくことも役立ちます。

診断では、頭部CTやMRIなどの画像検査が行われます。慢性硬膜下血腫では、脳と頭蓋骨の間に三日月状の血液のたまりが見えることがあり、脳が圧迫されているかどうかを確認します。症状の原因が慢性硬膜下血腫か、ほかの病気かを見分けるためにも、画像検査は重要です。

また、血液をさらさらにする薬を飲んでいる人、アルコールを多く飲む人、転倒を繰り返している人、肝臓や腎臓の病気がある人では、発症や再発のリスクが高くなることがあるとされています。薬を自己判断で中止することは危険です。服薬状況は必ず医師に伝え、必要な調整は医療者の指示に従いましょう。

慢性硬膜下血腫の治療法

治療は、血腫の量、症状の程度、年齢、持病、服薬状況などを総合して判断されます。血液のたまりが少なく症状が軽い場合は、経過観察や薬による治療が選ばれることがあります。一方、血腫が大きく脳の圧迫が強い場合や、歩行障害、麻痺、意識の変化などがある場合は、手術が検討されます。

代表的な手術に、穿頭血腫ドレナージ術があります。これは、局所麻酔で頭蓋骨に小さな穴を開け、たまった血液を排出する方法です。脳そのものを大きく切る手術ではなく、比較的短時間で行われることが多いとされています。ただし、体の状態や血液をさらさらにする薬の使用状況によって、治療方針は異なります。

多くの場合、血腫による圧迫が取れることで症状の改善が期待されます。ただし、すべての人が同じように回復するわけではなく、個人差があります。また、慢性硬膜下血腫は再発することがあり、高齢者や抗血栓薬を使用している人では注意が必要とされています。再発を繰り返す場合には、カテーテルを用いた中硬膜動脈塞栓術が検討されることもあります。

治療後は、転倒予防、服薬管理、リハビリ、生活環境の見直しが大切です。足元の段差を減らす、夜間の照明を整える、杖や歩行器を適切に使うなど、介護の場面でもできる工夫があります。症状が改善したあとも、再びふらつきやもの忘れが強くなる、頭痛が続く、反応が鈍いといった変化があれば、早めに受診しましょう。

おわりに  転倒後の変化を焦らず見守ることが大切

慢性硬膜下血腫は、高齢者にとって身近な転倒や軽い頭部打撲のあとに起こることがある病気です。症状がすぐに出ないことがあり、数週間から数か月たってから、歩きにくさ、もの忘れ、ぼんやりした様子として現れる場合があります。

認知症や加齢による変化に見えることもありますが、慢性硬膜下血腫は検査で確認でき、状態によっては治療により症状の改善が期待できる疾患です。大切なのは、本人を責めたり、すぐに認知症と決めつけたりせず、変化の経過を落ち着いて見ることです。

転倒後にいつもと違う様子が続くとき、急に歩きにくくなったとき、意識の変化や麻痺が疑われるときは、医療機関への相談を検討しましょう。家族や介護職が日々の小さな変化に気づくことが、早めの受診と適切な治療につながります。

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