母娘介護で抱え込みを防ぐために大切にしたい距離感と支援のポイント

2026/9/12

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

母と娘でも介護への考え方は同じとは限らない

母親の介護を娘が担う家庭では、これまでの親子関係の延長として介護が始まることがあります。買い物を手伝う、病院へ付き添うといった支援から始まり、少しずつ服薬管理や排泄、入浴の介助まで増えていく場合もあります。

親子だから希望を分かっていると考えやすい一方で、介護される母親と介護する娘の希望が一致するとは限りません。母親はできるだけ自宅で暮らしたいと考え、娘は安全面から施設利用を考えることもあります。反対に、娘は自宅介護を続けたいと思っていても、母親自身が家族に負担をかけたくないと感じている場合もあります。

大切なのは、どちらかの考えを家族だからという理由で当然のものにしないことです。本人が何を自分で続けたいか、娘はどこまでなら無理なく支援できるかを分けて確認しましょう。

介護は親孝行の程度を測るものではありません。母娘という関係だけで役割を決めず、家族や専門職を含めて支える仕組みをつくることが重要です。

できることまで娘が代わりにしない

親が失敗する姿を見ると、時間がかかることを避けるために娘がすべて代わってしまう場合があります。しかし、本人ができる動作まで周囲が行うと、生活の中で体を動かしたり判断したりする機会が減ることがあります。

着替えの一部分は自分でできる、簡単な調理なら続けられる、薬は声をかければ自分で確認できるなど、残っている力は一人ひとり異なります。安全を確保しながら本人ができることを残すことは、自立した生活を支える介護につながります。

一方、以前できていたことが難しくなった場合に、本人を責めたり、何度もできるよう求めたりすることは避けましょう。認知症や身体機能の低下が関係していることもあります。

厚生労働省が公表している認知症の家族介護者支援資料では、認知症の本人と家族の双方の生活を支える視点が示されています。本人だけを支援対象とするのではなく、家族のこころと身体の健康、生活上の負担についても確認することが重要です。

昔の親子関係が介護中の感情に影響する場合もある

介護中に母親から何度も同じことを言われ、強く言い返してしまうことがあります。また、これまでの親子関係で感じていた不満や遠慮が、介護をきっかけに強く意識される場合もあります。

こうした感情があることだけで、介護者として不適切だと考える必要はありません。家族だからこそ距離が近く、専門職より感情的になりやすい場面もあります。重要なのは、怒りや疲れが強くなったときに、その状態のまま一人で介護を続けないことです。

本人の言動が認知症によるものなのか、もともとの性格や親子関係の問題なのかを完全に分けることは難しい場合があります。対応に困っているときは、具体的な出来事をケアマネジャーなどに伝えましょう。

介護者同士が話す家族会や認知症カフェなどで、似た経験を持つ人と話すことが負担の整理につながる人もいます。厚生労働省も、認知症の家族支援として介護者教育や認知症カフェなどの取り組みを紹介しています。

姉妹や兄弟には作業を具体的に分ける

きょうだいがいる家庭でも、近くに住む娘や連絡を取りやすい娘に介護が集中することがあります。ほかの家族からは、何かあれば言ってほしいと言われても、介護する側が一つずつ依頼すること自体を負担に感じる場合があります。

介護の分担を考えるときは、介護を手伝うという大きな表現だけでなく、月一回の通院を担当する、日用品を注文する、ケアマネジャーとの連絡を担当するなど、作業単位で決めると共有しやすくなります。遠方に住んでいる人でも、電話連絡や行政手続き、費用面の分担などを担当できることがあります。

家族だけで調整すると意見がまとまらない場合には、ケアマネジャーを交えて話すことも方法の一つです。厚生労働省は、介護休業を利用する期間についても、介護サービスの手配や家族内の役割分担を整えるために活用する考え方を示しています。

誰が一番介護しているかを競うのではなく、介護を継続できる分担になっているかを定期的に確認しましょう。

親子だけで解決できない段階を見極める

介護される母親がサービス利用を強く拒否する、娘がほとんど眠れていない、仕事を頻繁に休むようになった、介護のために自分の通院をやめているといった状態では、親子だけで介護を続けることが難しくなっている可能性があります。

また、介護中に怒鳴ることが増えた、手を出してしまいそうになる、母親と同じ家にいること自体がつらいと感じる場合は、早めに距離を確保する必要があります。一時的にショートステイなどを利用し、介護から離れる時間をつくることも検討しましょう。

地域包括支援センターでは、介護される本人だけではなく家族介護者も含めた支援が進められています。家族の関係が悪化してから相談する場所ではなく、介護の始まりや負担を感じ始めた段階から利用できる相談先です。

母娘介護では、親子としての関係を守るためにも、介護を二人だけの関係にしないことが大切です。介護サービスやほかの家族、専門職を間に入れ、親子として過ごせる時間を残すことも支援の一つです。

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