高齢期の貧血と食事 鉄を摂るときに知っておきたいこと

2026/9/15

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

貧血は単なる立ちくらみとは異なる

貧血とは、血液中で酸素を運ぶ赤血球やヘモグロビンが不足した状態です。疲れやすい、息切れがする、動悸がする、顔色が悪いなどの症状がみられることがありますが、症状だけでは判断できません。
立ち上がったときに一時的にふらつく状態を貧血と表現することもありますが、これは起立性低血圧などによる立ちくらみの場合があります。国立長寿医療研究センターも、立ちくらみと医学的な貧血は同じものではないと説明しています。
高齢者の貧血には、鉄不足だけでなく、慢性腎臓病、炎症を伴う病気、血液疾患、ビタミン不足などさまざまな原因があります。そのため、疲れやすいからと自己判断で鉄のサプリメントだけを飲むのではなく、まず原因を確認することが重要です。

鉄は赤血球を作るために必要な栄養素

鉄はヘモグロビンを構成する成分であり、身体の組織へ酸素を運ぶ働きに関係します。「日本人の食事摂取基準 2025年版」では、65歳から74歳の推奨量は男性7.0mg、女性6.0mg、75歳以上では男性6.5mg、女性5.5mgとされています。
鉄を含む食品には、赤身の肉、魚介類、レバー、大豆製品、一部の野菜などがあります。食品中の鉄は種類によって吸収されやすさが異なりますが、一つの食品だけで補う必要はありません。
高齢者では、肉が硬くて食べにくいことがあります。その場合は、薄切り肉やひき肉を使う、魚や卵、大豆製品と組み合わせるなど、食べられる食品から取り入れます。
レバーには鉄が多く含まれますが、鉄以外の栄養素も多く含むため、大量に食べ続ける必要はありません。特定の食品に偏らないことが基本です。

鉄を含む食品だけで食事を考えない

鉄を意識すると、鉄の量だけに目が向きやすくなります。しかし、血液を作る過程には鉄以外にもたんぱく質、ビタミンB12、葉酸など複数の栄養素が関係しています。
朝はパンだけ、昼は麺だけ、夕食はおかゆだけといった食事が続いている場合、鉄だけを補っても食生活全体の不足は解消できません。魚、肉、卵、大豆製品などの主菜と野菜類を組み合わせることが大切です。
食欲が少ない場合は、一度に多く食べる必要はありません。卵料理や豆腐、魚の缶詰など調理しやすい食品を利用したり、昼食に主菜を一品追加したりすると負担を抑えられます。
また、お茶やコーヒーなどに含まれる成分は鉄の吸収に影響することがありますが、健康な人が細かな食べ合わせを過度に気にする必要はありません。貧血の治療を受けている人は、鉄剤の飲み方を医師や薬剤師に確認します。

高齢者の鉄欠乏では出血にも注意する

高齢者で鉄欠乏が確認された場合は、食事量の不足だけが原因とは限りません。国立長寿医療研究センターでは、高齢者の鉄欠乏性貧血では慢性的な消化管出血なども重要な原因として挙げています。
胃や腸などから少量ずつ出血している場合、本人が出血に気づかないこともあります。鎮痛薬などの薬が関係する場合もあるため、服薬内容を医療者へ伝えることも重要です。
便が黒くなった、血便が出た、以前と比べて体重が減っている、腹痛が続くといった場合は、食事で鉄を増やして様子を見るのではなく医療機関へ相談します。
食事を十分に摂っているにもかかわらず血液検査で貧血が続いている場合も、原因を調べる必要があります。

鉄サプリメントの自己判断での長期使用は避ける

鉄が不足している場合には医師の判断で鉄剤を使用することがあります。しかし、貧血だからといってすべての人に鉄剤が必要になるわけではありません。
体内の鉄が十分にある人が鉄を大量に摂り続けても、貧血の改善にはつながりません。原因によって必要な治療は異なるため、血液検査などで状態を確認したうえで対応します。
市販のサプリメントを使用している場合は、製品名や摂取量を医師、薬剤師へ伝えます。複数のサプリメントを併用すると、同じ成分を重複して摂取している場合があります。
処方された鉄剤で吐き気や便秘などがあり飲み続けにくい場合も、自己判断で中止する前に医療機関へ相談してください。製剤や服用方法を調整できる場合があります。

息切れや動悸が続く場合は検査を受ける

貧血はゆっくり進行すると症状に慣れてしまい、本人が変化を自覚しにくいことがあります。以前より歩くと息切れする、疲れて横になる時間が増えた、動悸がする、顔色が悪いと家族から言われるなどの変化が続く場合は、血液検査を含めた評価を受けることが望まれます。
胸の痛みや強い呼吸困難、意識を失うなどの症状を伴う場合は、通常の栄養相談として様子を見る状態ではありません。速やかな医療対応が必要です。
高齢期の貧血対策では、鉄を含む食品を取り入れることと、貧血の原因を確認することを分けずに考えることが大切です。食生活を整えながら、検査で異常を指摘された場合は適切な診療につなげましょう。

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