目に見えないトラウマ…養子の健康のために必要なこと

2017/1/26

保護施設に引き取られることになり、そして施設の元で育てられた子どもは、たとえ、生後すぐに引き取られたとしても、トラウマ(精神的外傷)や喪失感を経験します。

養子縁組が成立する条件として、子どもの身体的、精神的あるいは感情的な問題をクリアすることが必要になる場合もあります。

そんな何らかの問題を抱える子どもとのマッチングが提案され、面接審査が終了し、縁組成立が決定した時には、里親となる責任感とともに、強い不安感も芽生えてくるはずです。

子どもの精神面のケア、健康上の問題をできるかぎり理解できるよう、できるかぎり詳細な情報を入手するようにしましょう。子どもに合った育て方がより細かくイメージできることで、より良い養子縁組関係が構築できます。

冷凍宅配食の「ナッシュ」
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ネグレクトを受けた子どもの親になるということ

施設で保護されている子どものなかには、身体的または性的な虐待を受けていたというケースもありますが、たいていの場合は、ネグレクト(育児放棄)によって生育環境が劣悪だったがゆえに保護を受けるようになったというのがほとんどです。

必要な食事やケアなどが母親からあたえられないネグレクトの方が、虐待よりも子どもに強い影響を及ぼすという研究結果もあります。愛着障害と子どもの精神的健康に関する研究を行っているイギリスのピーター・フォナギー教授は、以下のように語ります。

「虐待もネグレクトも、大人を信用できなくなってしまう心理的なストレスを子どもに引き起こす恐れがありますが、性的、あるいは身体的な虐待より、長期にわたるネグレクトのほうが“劇的”な悪影響を及ぼします。

子どもは、自分にとって悪い経験をすると、強い警戒心を抱くようになり、人が信用できなくなり、結果、人が言うことを何も信じなくなります。自分以外を遮断してしまうのです。
その状態になった子どもは、言われることについて理解はしているものの、自分自身の世界に“真実”として受け入れるのを拒み、“自分は愛されていない”、あるいは“自分は悪い子だ”、という思い込みを修正することができなくなってしまいます。

このような理由で、養子は、単に里親から愛情と保護を受けるだけでは不十分となのです。この種の問題は克服するのに長い年月が必要となることもあります。」現在、フォナギー教授は、子どもやティーンのための心理セラピーを研究し、状況の改善に努めています。

養子に発育上の遅れが見られる場合

子どもは、施設の保護下に置かれるようになると、大きな発育の遅れが生じてしまう場合があります。発育の遅れは、身体的なもの、精神的なもの、あるいはその両方ともなこともあります。

年齢にそぐわない幼い振る舞いをしたり、あるいは同じ年齢の子どものほとんどが出来ることが、その子にはできなかったりします。

発育の遅れは、喋る能力など、特定の面に関連する場合もあります。
施設の保護下にある子どもに見られる発育上の遅れは、以下のような要素によって引き起こされます。
・妊娠中、母親がアルコールや薬物を乱用した。
この場合、生まれてきた子どもは、胎児アルコール症候群(FAS)、または胎児性アルコール・スペクトラム障害(FASD)と診断されることもあります。
・妊娠中の過度のストレス・不安。
この場合、胎児に脳の発育面で悪影響を与えてしまうことが判明しています。
・誕生後の生育環境虐待
ネグレクト(育児放棄)など、適切な保護を享受できない場合、子どもの脳の成長に影響し、感情面での発育に欠陥を生じさせる場合があり、「愛着障害」と呼ばれています。
・ダウン症など、遺伝子性の疾患

妊娠中の子宮内で、あるいは誕生後の虐待・ネグレクトによってもたらされたトラウマが引き起こす発育上の遅れに対する回復力の程度は、子どもによってさまざまです。
トラウマを克服し、発育的に「追いつく」ことができる能力についても、個人差が出ます。

発達上の遅れによる長期的な影響を予測するのは困難な部分があるため、里親になることを決めた場合、養子は将来、専門家によるサポートが必要となるかもしれない可能性が存在することを受け入れる必要があります。
養子がトラウマによる困難を乗り越えるのを支えることは、大変な辛抱と強い決心が里親に求められます。

養子の健康歴を把握する

子どもが施設の保護下に入る(「お世話」の対象となる)、あるいは養子縁組を計画している場合には、法律によりその子どもの健康状態に関する詳細な査定が求められます。

健康状態の報告には、以下の情報が含まれる必要があります。
・妊娠期間、誕生および初期発育について
・家系の病歴・治療歴について
・虐待及びネグレクト(育児放棄)の経験
・身体的健康状態について(視力、聴力、歯科医療などを含む)
・精神状態について(トラウマなど)・発達障害などの問題行動について

しかし、養子縁組に反対で、肉親が子供についての情報提供を拒んだり、また、実の父が誰であるかわからないような場合、すべての情報を得ることが困難になります。
健康状態に関する情報を完全に集めることができなければ、子どもの抱える問題点の把握、将来に起こり得る事態の予測ができなくなってしまいます。
したがって、施設の保護下にいる間に子どもに対して行う医学的査定が重要になります。養子として引き取られる頃までには、かなりの量の子どもの情報が蓄積されることになるからです。

おわりに ~養子の健康のために必要なこと~

十分な食事をあたえてもらえなかった子供は、養子縁組後、過食を引き起こすことがあります。必ず、次も食事ができると信じられないためです。何らかの問題を抱える子どもを養子として迎える里親は、子どもをきちんと育てることが出きることはもちろん、その子どもが必要とするケアができることが求められます。
さまざまな事情で生みの親と暮らすことができない子どもたちにとって、何より重要なのが、安心して生活できる家庭環境です。里親の元で、養子が、人を信頼する心、愛する心をあたたかい家庭でしっかり身につけ、幸福な生活を送れることを願ってやみません。

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