記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2017/6/14 記事改定日: 2018/4/5
記事改定回数:1回
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MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
てんかんの治療は薬物療法が主流ですが、発作を無くし、生活の質を上げるためにてんかん手術が実施されることがあります。ただ、怖いのが後遺症のリスクです。今回の記事ではてんかんの手術で起こりうる後遺症やその発生率、さまざまな手術の方法などについてご紹介します。
てんかんの手術には、硬膜下電極留置や切除術などいくつかの方法がありますが、いずれも後遺症が残らない可能性はゼロではありません。例えば硬膜下電極留置術の場合、頭蓋外に電極の導線を何本も出すことがあるので、髄液漏(頭蓋内からの水漏れ)のリスクが高まり、髄液漏が続くと髄膜炎などの感染症に発展する恐れがあります。髄膜炎を起こす確率は3%前後とされ、重度の髄膜炎の場合には片麻痺や言語麻痺などが後遺症で残る可能性があります。
一方切除術の場合は、髄液漏以外に頭蓋内出血や術後けいれん、脳梗塞などの合併症のリスクが3%前後あります。そのほかにも機能的合併症として片麻痺や言語麻痺、記憶障害、視野障害などが起こることもあり、重度の場合はこれらが後遺症として残る恐れはあります。
なお、合併症や後遺症のほか、麻酔に対するアレルギー反応が起こることがあります。
てんかん薬による薬物治療は、ほとんどのてんかん患者の発作が抑えられるといわれていますが、すべての人に効果があるわけではありません。また、薬を服用したうちの約30%が、副作用に耐えられなかったという報告もあります。そういった人に対しては、脳手術による治療が検討されることがあります。
てんかんの治療のための手術ができる条件は下記のとおりです。
・発作が始まる脳の領域(発作焦点と呼ばれる)を明確に特定できる
・除去する領域が言語、感覚、動作などの重要な機能にかかわっていない
この2つの基準を満たしていて、以下に該当している人に対して手術が検討されます。
・発作で体に障害が出ている
・薬では発作をコントロールできない
・薬の副作用が深刻で生活に影響している
(がんや心臓病など他の深刻な医療問題を抱えている人は、ふつう手術を行いません。)
脳の手術で発作をコントロールすることができれば、生活の質の大幅な改善が見込まれるでしょう。
てんかんの手術の内容には、以下の3つがあります。
・発作の原因となる脳領域の除去
・発作の電気信号が脳に流れるために必要な神経経路を遮断
・てんかん発作を抑える装置を埋め込む
発作の種類や脳のどこが発作の原因になっているかによって、手術の方法が変わります。
脳の大部分を占める大脳は、葉(よう)と呼ばれる4つの対になる部位(前頭葉、頭頂葉、後頭葉、側頭葉)に分かれています。
発作焦点が側頭葉内にある側頭葉てんかんは、10代と成人のてんかんで最も多いとされています。側頭葉切除は、発作焦点を取り除くために、問題となっている部分の脳組織を切り取ります。側頭葉外切除は、側頭葉の外側の領域の脳組織を取り除く手術です。
病巣切除術は、発作の原因となる脳の病変(腫瘍または奇形の血管のような障害されたまたは欠損された領域)を除去します。
手術が成功すると、通常発作は止まります。
脳梁は、2等分された脳の半分(半球と呼ばれる)を結ぶ神経線維のひも状の組織です。
脳梁離断術は分離脳手術とも呼ばれ、脳梁を切断することにより左右の大脳半球間での連絡を遮断し、片側の脳から反対側の脳へ発作が広がることを防ぐことを目的に行われます。この手術は、激しい転倒や深刻なケガの恐れがある強烈な発作といった、コントロールできない重度のてんかん発作が起こる人に効果があるとされています。
軟膜下皮質多切術(MST)は、言語、感覚、動作などの重要な機能があり、安全に取り除くことができない脳の部位から始まる発作をコントロールするための手術です。
医師は、脳の組織に横断面に沿った浅い切れ目を複数つけて発作の波が伝わるのを妨害します。この切れ目が正常な脳活動を妨害することはなく、脳の機能はそのまま維持されます。
発作症候や脳波所見など画像所見が一致しないときに実施される手術です。留置電極を使って、てんかんがどの部分で起こっているのか機能マッピングを行うためのもので、実施後に本来の手術に移行していきます。
手術後にまったく発作が起こらなくなる場合もあれば、発作はまだあるもののそれほど頻繁に起こらなくなる場合もあるなど、術後の症状の変化は人によって異なります。
医師が発作がコントロールできていることを確認したら、薬を減らしたり服用をやめることができますが、場合によっては、手術をした後でも、手術から1年以上抗てんかん薬を服用し続けることもあります。
手術直後に発作がある場合、医師は2回目の手術(再手術)をすすめる場合があります。これは手術がうまくいかなかったからではなく、何らかの原因で除去しきれなかった脳組織を除去するために行われます。
てんかん発作は、本人がコントロールできないのでいつ起こるかわかりません。薬でコントロールできると良いのですが、薬が効かない場合や副作用に体が耐えられない場合もあります。そのような状況では手術が検討されますが、ご紹介したように後遺症のリスクもゼロではありません。
てんかんの治療に向けて手術が提案された場合は、リスクとメリットについて医師から十分に説明を受け、納得したうえで手術を受けるようにしましょう。