記事監修医師
前田 裕斗 先生
2018/3/12 記事改定日: 2018/8/14
記事改定回数:1回
記事監修医師
前田 裕斗 先生
おりものからの悪臭や、陰部のかゆみなど辛い症状を伴う「腟炎」。そしてこの腟炎を改善させるためには、「乳酸菌の摂取」が効果的といわれていることをご存知ですか?詳しくは以降で解説していきます。
健康な女性の腟には、デーデルライン菌という乳酸菌が存在します。デーデルライン菌は腟内を弱酸性に保ってくれており、このおかげで、酸に弱いカンジダ菌や細菌などの感染予防ができています。
ただ、乳酸菌は非常に繊細で、抗生物質を飲んだだけでも壊されてしまいます。これにより腟内が中性から弱アルカリ性へと変化すると悪玉菌が増えやすい環境となり、腟炎になる可能性が高まってしまうのです。このメカニズムにより、細菌性腟炎などは約半数が再発する傾向にあります。細菌性腟炎の再発は、抗生物質によって善玉菌や悪玉菌がいなくなった後に、悪玉菌が先に復活・増殖することで起こります。しかしこれは裏を返せば、善玉菌が先に増えれば、再発を防げる可能性を示しています。
そこで活躍するのが、乳酸菌です。乳酸菌は腟内の環境を弱酸性に戻し、善玉菌が優位に立つようサポートをしてくれます。この乳酸菌を利用した腟炎の治療は、欧米の医療機関でも取り入れているところがあるほどです。なお、乳酸菌を食べ物だけで摂取するのは大変なので、サプリメントとして服用するのが基本になります。
乳酸菌を摂取しただけで腟炎に効果があるとは信じられないかもしれませんが、実際に幾つかの論文では効果が示されており、複数の論文をまとめたsystematic reviewという形式の論文では有意な効果が示されなかったものの、今後より大きな、質の高い研究が期待されています。腟内に直接乳酸菌製剤を挿入する方法も考えられています。
腟炎を改善するには、乳酸菌の摂取と同時に、栄養バランスのとれた食事にする、良質な睡眠を十分にとる、通気性の良い下着を身につける、過労やストレスなどが溜まるのを防止することも大切です。
栄養バランスのとれた食事は免疫力を上げるのに効果的ですし、良質な睡眠を十分にとることは体力低下を防止します。また、通気性の良い下着や服は悪玉菌が好む環境を作らないことにつながります。過労やストレスの蓄積も、自律神経を乱して免疫力を低下させる原因となりますので避けましょう。
腟炎にはいくつか種類がありますが、特に一般的なのが「カンジダ腟炎」「トリコモナス腟炎」「細菌性腟炎」です。
カンジダ腟炎(腟カンジダ)は、皮膚や粘膜に存在している常在菌・カンジダ菌が異常繁殖したことが原因で起こります。異常繁殖の主なきっかけは、生活習慣の乱れやストレス、疲労による免疫力の低下です。性器での激しいかゆみ、カッテージチーズ状の大量のおりものなどが特徴的な症状です。
膣カンジダを発症した場合には、カッテージチーズや湯葉状のおりものを腟内からしっかり洗い流して膣内を清潔に保ち、抗真菌薬が配合された膣錠や外用軟膏などを使用します。
これらの治療を数日~一週間続ければ自然とよくなることがほとんどです。
しかし、膣カンジダは些細なきっかけで再発を生じやすく、再発を繰り返す人では抗真菌薬の内服を続ける場合もあります。
トリコモナス腟炎は、主に性行為を通じて、トリコモナス原虫が腟に寄生したことが原因で起こります。代表的な症状は腟の激しいかゆみ、悪臭を放つ大量のおりもの(黄色っぽい)です。場合によっては不正出血が起こることもあります。
トリコモナス腟炎では、トリコモナス原虫を駆除する「5-ニトロイミダゾール系原虫薬」の腟錠や内服薬による治療が行われます。多くは7~10日の治療でトリコモナス原虫を駆除することができますが、パートナーも同時に内服治療が行われることが多いです。
また、治療後にも残存した微量の原虫が月経中に増殖することがありますので、治療後は初回月経後の再検査がすすめられています。
細菌性腟症は、腟内に存在する大腸菌の増殖が原因で、水っぽいさらさらとした灰色のおりものが出ます。性器のかゆみや不正出血を伴うことがあります。
細菌性腟症では、メトロニダゾールやクロラムフェニコールなどの抗生物質を含んだ腟錠や外用軟膏によって治療が行われます。通常は、婦人科で腟洗浄や消毒を行った後に薬が使用されます。
また、腟錠や外用軟膏でも症状が改善しない場合には、抗生物質の内服治療が行われる場合もあります。
すでに欧米では実施されている、乳酸菌による腟炎治療。繰り返す腟炎でお悩みの方は、専門のクリニックにて相談の上、この治療法を実践してみてはいかがでしょうか。
※抗菌薬のうち、細菌や真菌などの生物から作られるものを「抗生物質」といいます。 抗菌薬には純粋に化学的に作られるものも含まれていますが、一般的には抗菌薬と抗生物質はほぼ同義として使用されることが多いため、この記事では抗生物質と表記を統一しています。