記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2018/5/22 記事改定日: 2019/2/8
記事改定回数:1回
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
「糖尿病の人は認知症になりやすい」という話を聞いたことはありませんか?今回の記事では、糖尿病だと認知症の発症リスクがどれくらい上がるのか、薬で治療できるのかといったことについて解説していきます。
国内の研究によれば、糖尿病患者のうち特に高齢者は、同年代の糖尿病ではない人と比べ、アルツハイマー病や脳血管性認知症の発症率が約2〜4倍になることが明らかになっています。
まずアルツハイマー病は脳の神経細胞が死んでいく病気ですが、アルツハイマー病患者の脳には「アミロイドβ」という物質が溜まった老人斑がたくさんあり、このアミロイドβの増殖が脳細胞を死なせる原因といわれています。
通常アミロイドβはインスリン分解酵素が分解してくれますが、糖尿病患者はインスリン分解酵素が少ないため、その分アルツハイマー病を発症しやすいと考えられているのです。
また、糖尿病による高血糖状態が続くと、脳の血流が悪くなって脳梗塞を起こしたり、脳血管が破れて脳出血を起こしたりします。すると脳の一部の神経細胞が死んでしまい、脳血管性認知症につながることがあるのです。
糖尿病の治療のためにインスリン注射やSU薬、グリニド薬などを使用している患者は、血糖値が下がりすぎて低血糖の状態に陥ることがありますが、重度の低血糖は脳細胞を傷つけ、認知症の発症リスクをおよそ2倍も上昇させると言われています。特に高齢の患者は腎機能の低下や食事を抜いたりすることで薬が効きやすい傾向があるので要注意です。
まず脳血管性認知症の場合、一度死んでしまった脳の細胞は戻ることはないので、脳血管障害の再発予防と認知症症状への対症療法が、基本の治療方針となります。
つまり脳血管障害が起こらないよう、血糖コントロールを徹底することが重要です。
なお、アルツハイマー病の場合は進行を遅らせる薬が存在し、根本治療のための薬も現在開発中です。
また、近年の研究で、アルツハイマー病にはインスリンが作れないことによる糖の取り込み不足も関連していると判明したため、海外ではインスリンを鼻から投与する治療法の研究が進んでいます。
これは鼻の粘膜を通じて脳細胞までインスリンを送り込み、神経細胞を活性化させようという治療法です。
海外の研究では、HbA1c値が1%上がると認知機能や前頭葉機能が顕著に下がることがわかっています。いまのところは、HbA1c6.5%未満を目標に血糖コントロールすることが、認知機能を良好に維持するために必要とされています。
血糖コントロールには、栄養バランスのとれた食事と定期的な運動、糖尿病治療薬の服薬が欠かせません。血糖値の上下動が大きいと認知症のリスクが高まるので、日々血糖値が正常範囲内におさまるよう心がけましょう。
高齢者は血糖値を調整するインスリンなどのホルモン分泌能が低下しているため、うまく血糖コントルーができないケースも少なくありません。
糖尿病で内服治療を続けている場合には、規則正しく食事を摂り、極端に食事量が多い・少ないなどのアンバランスな食生活を控えるようにし、ウォーキングやジョギングなどの適度な運動を行うことが大切です。
また、糖尿病の治療薬は毎日欠かさず飲むことも大切ですが、高齢者では一時的に薬の効果が強くなりすぎて低血糖状態を引き起こすこともあります。
服用後に手の震えや冷や汗、倦怠感などの低血糖症状が見られた場合には、速やかにブドウ糖を含んだ飴やジュースなどを口にして糖分を補給するようにしましょう。
糖尿病患者は認知症の発症リスクが高いです。脳血管性障害による認知症かアルツハイマー病による認知症かで治療法は少しずつ異なり、根本治療はまだ研究段階ですが、基本的には日々の血糖コントロールを続けることが大切です。HbA1c値6.5%を目標に根気よく続けていきましょう。