記事監修医師
前田 裕斗 先生
2018/5/29
記事監修医師
前田 裕斗 先生
子宮内膜症の手術は、お腹を大きく切開する開腹手術と腹腔鏡手術があります。内膜症の範囲や妊娠を望むか望まないかによって手術方法や入院の有無が変わってきます。
この記事では、子宮内膜症の手術について説明しています。特に、妊娠の予定の有無や症状の度合いなどによる手術方法の違いについて説明していくので、予備知識として理解しておきましょう。
子宮内膜症の治療には、主に薬物療法と手術療法の2種類があり、基本的には鎮痛剤や漢方薬で様子をみたり、つらい症状があればホルモン治療などの薬物療法が行われます。それでも改善しない場合やすぐに妊娠を希望している場合には、手術で病巣をとることになります。
手術には「開腹手術」と「腹腔鏡(ふくくうきょう)手術」がありますが、妊娠・出産を望むのであれば、子宮と卵巣を残す保存的手術として「腹腔鏡(ふくくうきょう)手術」が選ばれます。
腹腔鏡手術では、全身麻酔でおへそのあたりに数カ所小さな穴をあけ、そこから腹腔鏡とよばれる内視鏡を挿入して、モニターで確認しながら検査を行い、同時に癒着した部分をはがしたり病巣を切除するなどして病巣部を取り除いていきます。スコープで拡大しながら行うので細かい病変も取り除くことが可能で、傷が小さく手術後の回復も早いのが特徴です。
一方、妊娠を望まない場合や、病巣が大きく組織の一部だけでなく子宮をすべて切除する必要性があるときには、腹部を切開して肉眼で確認しながら行う、開腹手術をすすめられることがあります。
基本的に、開腹手術で行う手術のほとんどが腹腔鏡手術でも可能ですが、病変の広がりや癒着の程度、患者の年齢や体力、合併症の有無などを考慮し、適している方法が選ばれます。
開腹手術では
などがあります。妊娠を望まない場合、卵巣がチョコレート嚢腫(後述)と呼ばれる腫瘍を形成している場合は、将来癌化する可能性を考え卵巣ごと全摘出することが勧められます。また、子宮腺筋症(子宮内膜症が子宮の筋肉内に進展した状態)などのため子宮摘出した場合は、妊娠が望めなくなります。
卵巣のなかに発生する子宮内膜症が「卵巣チョコレート嚢胞(のうほう)」です。卵巣にできた子宮内膜が月経時に出血するたびに卵巣にたまり、血液が変色してチョコレートのように見えることからこのようによばれています。
治療法は大きさによって異なり、卵巣は通常2~3cm程度ですが、一般に4cm以下であれば薬物療法がとられます。嚢胞が小さくとも、症状があり明らかに正常でない嚢胞がある場合には、治療や定期的なチェックが必要です。薬物治療には、偽閉経療法、偽妊娠療法、黄体ホルモン療法などがあります。嚢胞が5cm以上になり、黄体ホルモン療法を進めてもさらに肥大化するようであれば、破裂したりがん化する可能性が高くなり、手術が必要になります。
妊娠希望の有無と卵巣の予備能力によっては、嚢胞を摘出せずに内部の血液だけを抜いてアルコール固定する場合もあります。
薬物療法は、定期的な通院が必要となり、治療期間は長いものとなります。
手術は、日帰りか入院かは内容によって異なります。腹腔鏡手術の場合は海外では日帰りも可能とされ、日本では入院がほとんどですが、入院しても3~6日ですむ場合が大半です。
子宮内膜症の手術でもっとも多い卵巣チョコレート嚢胞の手術では、手術前日に入院し、術後4日程度で退院、術後1週間程度で社会復帰できることが多いとされています。
開腹手術の場合は、身体への負担が大きく日帰りはできません。2~3週間の入院が必要となり、退院後には術後の経過を観察します。
なお、子宮内膜症は、たとえ手術で病巣を取り除いたとしても閉経するまでは再発の可能性がある、長期の治療や定期的なチェックが必要な病気です。
子宮内膜症の治療では、基本的に薬物療法が行われますが、それでも改善しない場合やすぐに妊娠を希望している場合には、手術で病巣をとることになります。妊娠・出産を望むなら、医師と相談してやむを得ない場合を除いて子宮や卵巣の全摘手術は避け、子宮と卵巣を残す保存的手術を選びましょう。