記事監修医師
前田 裕斗 先生
2018/8/2
記事監修医師
前田 裕斗 先生
乳がんの手術を実施した後、起こる可能性がある後遺症にはどんなものがあるでしょうか?また、その後遺症を予防・治療していくにはどんな方法が有効なのでしょうか?以降で解説します。
乳がんの治療では、乳房だけではなく、わきの下のリンパ節を脂肪と一緒にかたまりとして切除することがあります。これを腋窩リンパ節郭清(えきかりんぱせつかくせい)といいます。乳房のがん細胞が最初に転移するリンパ節は、ほとんどが、わきの下のリンパ節です。リンパ節は脂肪の中に埋め込まれており、腋窩リンパ節郭清では、複数のリンパ節を周囲の脂肪と一緒に取り出します。
腋窩リンパ節郭清では、代表的な後遺症としてリンパ浮腫があります。リンパ浮腫は、リンパ節を除去したことでリンパ液の流れがわるくなって腕が腫れた状態です。また、その他の後遺症としては手術でできた傷の痛みやしびれといった症状や、運動障害が生じることもあります。
リンパ浮腫は一度起こると治すことが難しくなってしまうため、手術後の早い段階から予防をしていくことが大切になります。予防方法には、専門的な医療スタッフから肌の保湿ケアやマッサージを受けたり、弾性スリーブを付けたりなどの方法があります。弾性スリーブは特殊な伸縮性を持つサポーターのようなもので、主に二の腕から手首あたりまでの長さがある筒状のものがほとんどです。腕を外側から圧迫することで、リンパ液がたまることを予防します。
また、偏った食事や肥満といった生活習慣の乱れや、高血圧や糖尿病、心臓病や腎臓病といった他の内科疾患はリンパ浮腫のリスクになります。生活習慣の改善を行うと共に、必要な治療を受けていきましょう。さらに虫刺されや、何らかの細菌感染がリンパ浮腫を引き起こしたり、悪化させたりすることもあるため注意が必要です。
リンパ浮腫は予防が最も大切とされますが、もし起こってしまったときには、圧迫状態での運動療法や、弾性スリーブなどの着用、専門家によるマッサージなどを組み合わせていくことになります。
手術後の後遺症として、痛みへのケアも必要です。痛みや違和感、しびれといった症状のほかに、腕が上がりにくくなるなど運動障害があらわれることもあります。
一般的に痛みは時間の経過とともに落ち着いていきますが、数年以上経っても残存するときには乳房切除後疼痛症候群(にゅうぼうせつじょごとうつうしょうこうぐん:PMPS)の可能性があります。症状がひどいときは我慢しすぎず主治医に相談してみましょう。また、痛みの専門診療科であるペインクリニックの受診を検討するのもおすすめです。
乳がんの治療では、乳房の切除だけではなく、わきの下のリンパ節を切り取る腋窩リンパ節郭清を行うことがあります。しかし、リンパ節やその周囲を切除すると、後遺症としてリンパ浮腫と呼ばれる腕の腫れが生じることがあります。リンパ浮腫は一度生じると、治すことが難しいため早くからの予防対策が大切です。症状があらわれてしまったときも我慢しすぎず、主治医に相談して次にできる対策を考えていきましょう。