記事監修医師
川崎たにぐち皮膚科、院長
多汗症とは、それほど暑くないのに汗を大量にかく状態であり、手の多汗症では大量の手汗が止まらなくなり、ハンカチが手放せなくなってしまうこともあります。この記事では、手の多汗症の原因や治療法について解説していきます。
多汗症(たかんしょう)とは、その名のとおり、大量の汗をかいてしまう病気です。その中でも「手のひら」に多く汗をかいてしまう状態を「手掌(しゅしょう)多汗症」といいます。人間の発汗を活発にしているのは、自立神経のひとつである交感神経系です。この交感神経の作用が過剰になることで汗の量が多くなってしまうと考えられています。
薬の影響や内臓の病気など、明らかな原因がない原発性局所多汗症は、家族に多汗症の人がいるとなりやすいなど遺伝が疑われており、現在も研究が行われています。また、もともとの体質に加えて、ストレスや、緊張や不安、生活習慣の乱れなどが交感神経を刺激しているとも考えられています。
原発性局所多汗症の診断基準として、明らかな原因が無いまま局所的に過剰な発汗が6ヶ月以上続いていて、以下の6項目中2項目以上を満たすことという基準が提唱されています。
手の多汗症では、常にハンカチが手放せないという人もいますし、運転中のハンドルが汗ですべれば大きな事故につながる恐れもあります。また、仕事上でも扱っている商品に汗が入ったり、汗ですべって壊したりといったことでトラブルになることもあるでしょう。手の多汗症の人はこういったトラブルが怖くなり、人と接することが不安になってしまうこともあります。
手の多汗症では、塩化アルミニウム液などの外用薬やボツリヌス毒素局所注射、イオントフォレーシス、抗コリン薬などの内服薬を使った治療が行われる場合があります。ボツリヌス毒素局所注射はA型ボツリヌス毒素と呼ばれるボツリヌス菌からつくった製剤を注射することで交感神経の作用をおだやかにします。イオントフォレーシスは、弱い電流を流した水に患部を入れることで汗を抑えることを目指す治療です。また、不安や緊張をやわらげるための心理療法を併用することもあります。しかし、いずれの方法でも完治するということではありません。また、多汗症では、内視鏡を用いて交感神経を手術する「ETS(胸腔鏡下交感神経節遮断術)」が行われる場合もあります。
ETSを行うと、胸部や腹部、太ももといった部分の汗が多くなる代償性発汗が起こる可能性があります。また、人間は汗をかくことで体温を調節していますが、発汗のバランスが手術前と変わることで、首や顔が熱くなったり、汗が少なくなった手のひらがカサカサになったりすることもあります。このような副作用には個人差があり、症状の有無や程度を手術前に予測することは難しいです。手術にはメリットとデメリットがあることも理解した上で検討することが大切です。
手の多汗症は、仕事や生活、人間関係に影響することもあります。治療は、外用薬やイオントフォレーシス、ボツリヌス毒素局所注射や心理療法、ETSも用いられています。治療の前にはしっかりと説明を聞き、副作用などのデメリットについても理解をした上で受けるかどうかを検討しましょう。