記事監修医師
前田 裕斗 先生
2018/9/28
記事監修医師
前田 裕斗 先生
新しい家族を授かれば、夫婦ともに幸せな気分になることでしょう。しかし、この最も幸せだと思われる時期にこそ、夫婦間のパートナーシップが試されるということを、皆さんはご存知でしょうか? 子供が生まれる前に知っておきたい、産後の夫婦関係のあり方について、以下、詳しく解説していきます。
平成23年度に母子家庭を対象に厚生労働省が行った調査によると、死別を除いた全体の約3割が、「産後2年以内」に離婚を決意したという結果が出ています。これは、これからパパやママになる方にとって、少々、衝撃的な数字かもしれません。「まだ子供が小さいのになぜ?」と思われる人も多いかと思いますが、子供の小ささや可愛さと、夫婦関係は全くの別物なのです。最近では、このような夫婦関係の変化を、産後クライシスと呼ぶこともあります。
では、この産後クライシスの背景に、いったい何があるのでしょうか。実は、女性側の「気持ちの変化」が、最も大きく関係していると考えられています。つまり、男性がこれまでと同じような関係性を女性に望む一方で、産後の女性は「夫に触れられたくない」「夫というよりパパとして見てしまう」「なんとなく波長が合わず、夫婦関係を持ちたくない」というように、産前とは違う印象を男性に持ってしまうのです。
一見、不条理にも思えるような感情の変化ですが、ある側面から考えると、ごく自然な流れであることがわかります。なぜなら、産後の女性の体や心には、出産による体のダメージ、夜中の授乳などを含めた過酷な育児、急激なホルモンバランスの変化など、さまざまなことが一気に降りかかるからです。
特に、母乳育児をする方の場合はプロラクチンというホルモンが活発に分泌されますが、このホルモンには母乳を分泌させるとともに母性を強くする作用があるため、「子供のことで頭がいっぱい、夫のことまで気がまわらない」といったケースも多くみられるようになります。したがって、夫婦生活などまったく考えられない、ということも珍しいことではありません。
このような女性の気持ちの変化に、男性はついつい「妻が冷たい」と感じ、夫婦関係がギクシャクしてしまいがちです。では、産後の夫婦関係をこじらせないために、どのようなことが大切なのでしょうか。以下、順番に見ていきましょう。
何より大切なのは、事前の知識の共有です。ホルモンバランスの変化により、産後の女性の心と体に何が起こるのか、出産によるダメージが回復するまでどれくらいの期間を要するのか、育児はどれだけ大変なものなのか、夫婦で事前にさまざまな知識を共有しておきましょう。
夫婦間のすれ違いを予防し、また乗り越えていくためには、どんな小さなことであっても、放置してはいけません。ちょっとしたことでも気づいたときに話題にし、二人で気持ちを共有するための対話を心がけてください。この対話の積み重ねこそが、夫婦間のパートナーシップを強固なものにしていくのです。
沐浴やおむつ替え、寝かしつけなど、母親でなくても行うことができることは、なるべく夫に協力を促すようにしましょう。「毎日の沐浴」「休日のおむつ替え」「夜間のミルク」など、あらかじめ夫の役割をはっきりさせておくとスムーズです。
夫婦間のすれ違いのきっかけとして最も多いのが、妻が夫婦生活を拒否したことによるものです。産褥期間を終え医師の許可が出れば、物理的には夫婦生活を持つことができます。しかし、まだ母乳を与えていたり、腰に痛みが残る、あるいはそういう気持ちになれないなど、女性の状況はさまざまです。夫婦間で歩み寄り、あまり急がずベストな時期を探ってください。
いくらかわいい我が子といえども、24時間365日一緒であれば、女性も心身ともに疲れてしまいます。産後、いかに女性が一人になる時間を持つようにするか、どのようにリフレッシュしてもらうか、事前に夫婦でしっかりと話しておきましょう。
いうまでもなく、育児は女性一人で抱え込むものではありません。したがって、決して「やってあげるよ」などという恩着せがましい言葉ではなく、「大変だよね」「いつもありがとう」「一緒にやるよ」など、女性を心から慮った言葉をかけるようにしてください。
先述した知識の共有や育児の分担、相手を慮った声がけなどは、良好な夫婦関係を保つために、非常に大切なことです。ここでは、あらためて男性が知っておきたい、産後の女性の変化についてご紹介しましょう。これらを頭に入れておくことで、妻の理解しがたい変化も、きっと納得ができるようになるはずです。
2〜3時間おきの授乳でまとまった睡眠がとれず、体調を崩しやすいなかで神経をとがらせて、女性は育児に当たっています。もちろん、自分の見た目を気にするだけの余裕は残されていません。したがって、産前と比べて妻がおしゃれをしなくなった、どこかとげとげしいなど不満に感じることがあっても、決してそれを非難するのは控えましょう。
男性側は、そのような女性の心身の状況をしっかり把握した上で、女性の不安や悩みに寄り添うようにしてください。
一方で、女性側も「夫が理解しているのがあたりまえ」「言わなくても見ればわかるはず」などと思い込み、夫婦間のコミュニケーションをおろそかにしてはいけません。いくら男性が理解を示そうとしていても、細かい不満や不安は、きちんと口に出さなければ伝わらないのです。
体がつらいとき、助けてほしいときは、相手まかせにせず、自分から積極的に夫に伝えるようにしましょう。
産後は、夫婦間のすれ違いの多いときですが、きちんとお互いを理解し合う、絶好のチャンスでもあります。つらいこと、しんどいことも夫婦二人で乗り切って、これまで以上に強固なパートナーシップを築くようにしてくださいね。
この記事の続きはこちら