記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/2/8 記事改定日: 2020/5/26
記事改定回数:1回
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MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
肺MAC症とは、非結核性抗酸菌と呼ばれる最近が肺に感染したことで発症する病気です。この記事では、肺MAC症の症状の特徴や原因、治療の進めかたについて解説していきます。
肺MAC症とは、抗酸菌の中でも結核菌群と特殊栄養要求菌を除いた菌群である非結核性抗酸菌が肺に感染して起こる病気のことです。非結核抗酸菌症ともいいます。
非結核性抗酸菌とは、結核菌とライ菌(ハンセン病の原因菌)以外の「抗酸菌」のことです。抗酸菌は、酸をかけても脱色しない細菌類のことで、結核菌やライ菌も含めて現在日本では約100種類の抗酸菌が発見されています。
おもに自然界の土壌や水中に生息しており、感染力は弱いため人に感染して何らかの症状を引き起こすことは少なく、免疫力がかなり低下している人にしか感染することはありません。
MAC菌も非結核性抗酸菌の一種ですが、非結核性抗酸菌のなかでも人への感染力が強い種類のものです。感染すると慢性的な咳や痰などの症状を引き起こしますが、近年感染者が増えていることも指摘されています。自然界に存在する細菌であり、水道水に紛れ込んで浴室などで感染が生じるケースが多いとされています。
日本では30種類以上の非結核性抗酸菌による感染症が報告されていますが、MAC菌による感染が80%ほどで、次に多いカンサシ菌が10%ぐらいとされています。
このMAC菌が肺に感染したのが肺MAC症です。患者は女性にやや多く、年間約8,000人が発症しているとされ、東日本での感染者がとくに多いといわれています。
肺MAC症は、現在のところ人から人への感染は確認されていないため、感染者を隔離する必要はないとされています。
肺MAC症に感染しても、すぐに特徴的な症状がみられるわけではありません。検診での胸部レントゲンにて発見されることが多く、 数年~十数年かけて病変が徐々に進行するのが一般的です。
病気が進行したときにみられる症状として
などがあり、過労や手術後など「体の抵抗力が弱ったとき」に症状が出ることもあります。
肺MAC症の原因菌である非結核性抗酸菌は、上水道などの都市給水システム、土壌、動物の体内などに存在し、非結核性抗酸菌を取り込むことで発症します。
免疫不全患者のほうが感染しやすいですが健康な人も感染することがあり、最近では手術した部位から感染したとの報告もあります。
また、非結核性抗酸菌は42度の温度で繁殖しやすいという特徴もあるため、自宅にある浴槽のお湯の注ぎ口やシャワーヘッドのぬめり、湯あかなどをしぶきや蒸気を吸い込んで感染した、という例も多く見受けられます。
肺MAC症は菌量が少なく、進行がゆっくりなため、高齢の方や肝障害や腎障害などがある人、薬の副作用が起こる可能性がある人は、肺の陰影の変化をみながら経過観察することもあります。
しかし、肺の陰影が悪化したり、症状そのものが悪化している場合、薬を使って治療します。
肺MAC症はリファンピシン(RFP)、エタンブトール(EB)、クラリスロマイシン(CAM)の3薬剤による多剤併用療法が標準治療となっていますが、状況に応じてさらにストレプトマイシン(SM)またはカナマイシン(KM)も併用します。
治療は、少なくとも菌が体内からいなくなって陰性になった後も1年間は継続するべきとされていて、治療終了後の再燃・再感染は頻繁に起こっているため、どのくらい治療すべきかについては現在も課題となっています。
また、治療ではクラリスロマイシンが主に使われていますが、近年ではクラリスロマイシン耐性のMAC症も出てきており、これに対してはクラリスロマイシンの効果が期待できないため治療が困難であるともいわれています。
さらに、病変の形状、広がり、排菌状況などによっては患者の年齢、基礎疾患、全身状態、肺機能などを総合的に判断したうえで、肺MAC症に感染している病巣を切除するための外科的治療を行うこともあります。
肺MAC症はなかなか症状が現れないことが特徴で、数年あるいは数十年という長い経過を経て症状が出現する場合がほとんどです。そのため、症状が出現するころには病状がかなり進行しているといえます。
胸部レントゲンなどで発見することもできるため、定期的に胸部レントゲン検査をしておくのも良いでしょう。また、土壌や環境水だけでなく、最近は自宅のお風呂のシャワーヘッドや浴槽のぬめりなどからの感染報告もあります。このような場所はできる限り清潔を保っておくことが予防につながります。