記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/2/15 記事改定日: 2020/1/20
記事改定回数:1回
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MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
後縦靭帯骨化症という疾患名を耳にしたことはありますか?何らかの原因で後縦靭帯という部分が骨のように硬く厚く変化してしまうことにより、さまざまな症状が現れる疾患です。
後縦靭帯骨化症で現れる症状にはどんなものがあるのでしょうか?
また、後縦靭帯骨化症はリハビリテーションによって改善することができるのでしょうか?
後縦靭帯骨化症(こうじゅうじんたいこっかしょう)とは、背骨(椎骨)の中に通っている脊柱管という空間のうち、後ろ側にある後縦靭帯という部分が何らかの原因で骨のように硬く分厚くなってしまった状態を指します。
後縦靭帯は椎骨をつないでいる靭帯であり、後ろに脊髄神経が走っている部分です。この後縦靭帯が硬くなり、骨のように分厚くなると脊髄神経を圧迫するため、さまざまな自覚症状が現れます。
自覚症状が現れた状態を「後縦靭帯骨化症」と呼んでいて、レントゲン写真で後縦靭帯の骨化が認められただけでは疾患にはあたりません。
また、背骨のどの部分に当たる後縦靭帯なのかによって、頚椎後縦靭帯骨化症・胸椎後縦靭帯骨化症・腰椎後縦靭帯骨化症と名前が分かれていて、発症頻度が最も高いのは頚椎後縦靭帯骨化症であり、胸椎・腰椎の順に少ないとされています。
後縦靭帯骨化症は、1960年に日本で初めて報告された疾患です。そのため、当初は日本人にしか発症しない疾患であると考えられていましたが、現在では世界各地で発症していることが確認されています。レントゲン写真上で後縦靭帯骨化症が確認できた割合は、人口当たりの発症率で日本が1.5〜3.2%、台湾が0.2〜0.4%、中国が1.74%、イタリアが1.53%、シンガポールが0.83%であることがわかっています。
また、性差も関係していて、日本での調査結果によると男性は女性の約2倍の発症率でした。このように男性が多い傾向は世界各国で見られるため、日本に限らずこの疾患に特有の傾向であると考えられます。年齡では50歳以降の中高年に発症することが多く、若いときにレントゲン写真で骨化が指摘されていても、自覚症状にまで至ることはまれだといわれています。
さらに糖尿病や肥満などの人は、これらの症状を持っていない人に比べて発症頻度が高いこともわかっています。
後縦靭帯骨化症で見られる症状は、部位別に大きく4つに分けられます。
比較的初期に見られる自覚症状は、首や肩の周り、手や指などのしびれや痛みなどです。また、胸椎の後縦靭帯骨化症の場合は足の脱力感やしびれなど、下半身の症状が先行して現れます。
腰椎の後縦靭帯骨化症の場合は、歩行時の足の痛みやしびれ・脱力感などの症状が先に現れます。初期の状態では、症状の現れる範囲が比較的狭く限られています。脊髄の圧迫が進むにつれ、しびれや痛みの範囲が少しずつ広がっていきます。
首や肩の症状は、コリや痛み・首の動かしにくさなどですが、これは後縦靭帯が骨化することで脊髄が硬くなり、動きにくくなることによります。
しかし、これらの症状は後縦靭帯骨化症に特異的なものではなく、日常生活でもその他の頸椎の疾患でも見られる症状ですので、これらの症状だけで後縦靭帯骨化症と診断することはできません。
手や腕の症状のうち、巧緻運動障害の具体例には「箸がうまく使えなくなった、手で掴んだものを落とすようになった」「字がうまく書けなくなった」「ボタンがうまくかけられなくなった」などがあります。
いずれも手指の細かい動作や、感覚が必要な動作であり、以前は普通にできていたものができなくなってしまうというのが後縦靭帯骨化症の特徴です。
症状が進行してくると、初期の症状に加えて足のしびれや知覚鈍麻、筋力の低下などが出現してきます。
徐々にしびれや痛みの範囲が広がり、末期になると歩行障害を始めとして四肢を動かすことができなくなっていきます。
この頃には膀胱直腸障害と呼ばれる排尿・排便の障害が現れ始め、最終的には寝たきりの状態に進行してしまいます。骨化が頸椎の上部にまで進行すると、呼吸機能にまで障害が起こる場合もあります。
これらの症状が進行している速度には個人差があり、後縦靭帯に骨化があっても一生自覚症状が起こらない人もいます。また、ゆっくりと年単位で自覚症状が進む場合もあります。いずれの場合も、思いもかけないところで転倒したり転落したりして、怪我によって急速に症状が進行してしまうことがありますので気をつけましょう。
後縦靭帯骨化症を治療する場合、大きく分けて体にメスを入れる手術療法と、体にメスを入れない保存療法の2つがあります。
どちらの治療を選択するかに一定の基準はなく、患者さん個々の症状の進行状況やレントゲン写真、CT検査などの所見から考慮します。ただし、一般的にはまず保存療法で症状の進行を食い止め、軽減し、保存療法で効果が得られず症状が進行してしまう場合には手術療法を用いることが多いです。
保存療法には薬物療法や運動療法が用いられます。いずれも後縦靭帯の骨化をなくすものではありませんが、症状を軽減し、進行を抑える目的で治療が行われます。
手術療法は、保存療法で効果が得られなかった場合のほか、手足のしびれ感や足が動きにくくつまずきやすいなどの明らかな脊髄症状がある場合に検討されます。
首の前を切開する「前方除圧固定術」と首の後ろを切開する「椎弓切除術」「脊柱管拡大術」などの方法があり、いずれも骨化した靭帯を削るか、脊椎の骨を削って脊柱管を広げることで、神経の圧迫をなくすことが目的です。これらのどの方法が用いられるかは脊椎や靭帯の形、体型などの要素によって決まります。
どの手術方法においても、自覚症状の約40~60%が改善される見込みがあります。ただし、合併症として麻痺の悪化・髄液漏(脊髄を包む膜が破れて中が漏れる)・血腫(血の塊ができ、神経を圧迫する)・創傷治癒遅延(傷の治りが遅い)・創部感染(傷口から感染症が起こる)などが数%~10数%の確率で起こることがわかっています。
前章でご紹介したとおり、後縦靭帯骨化症の保存療法で運動療法を行う場合、症状の進行を食い止め、症状を軽減する目的で行われます。
動きにくくなった筋肉や関節を動かして筋肉量や血液の流れを保つための治療ですが、無理に行うとかえって症状が悪化してしまいますので、医師や理学療法士の指導のもと、安全に行うことが大切です。
日常生活の中でできるリハビリテーションには、歩行やストレッチなどの軽い体操、水泳などがあります。
ただし、首や背中を後ろに反らすなど、症状を悪化させる動作を不意に行ってしまうのを防ぐため、リハビリを行う際には医師や理学療法士の指導を受ける必要があります。適切な運動を行えば首や肩の周囲の血流が改善し、しびれや痛みが良くなる可能性があります。
薬物療法と運動療法を併用して行うこともあり、症状の経過を見ながら悪化しないように指導を受けながらケアをしていくことが大切です。
後縦靭帯骨化症の場合、首を後方に大きく反らすと脊髄が圧迫され、上で述べたような神経症状の急激な発症や悪化を引き起こすことがあります。
神経症状がなく、病状が落ち着いている方はマッサージや整体を受けても大きな問題にはなりませんが施術前には必ず施術者に病気のことを伝え、首の動きに注意するよう伝えてください。
また、すでに神経症状が出ている方はマッサージや整体を受けることで首に余計な刺激が加わり、症状を悪化させる可能性もありますので控えた方がよいと考えられます。
いずれにせよ、マッサージや整体を受けられるか否かは症状の程度などによって異なりますので、医師の許可を取ってから受けるようにしましょう。
後縦靭帯骨化症は、骨化した後縦靭帯が神経を圧迫することで、首や肩・手足などに痛みやしびれが発生する疾患です。症状の進行速度や程度は個人差が大きく、寝たきりになってしまう人もいれば一生自覚症状が現れないままの人もいます。
治療において、一度出現した症状を完全に消すことは極めて困難ですが、リハビリ(運動療法)を始めとした治療によってある程度症状を軽減し、それ以上の進行を食い止めることが可能です。