記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/6/1 記事改定日: 2020/5/12
記事改定回数:1回
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
神経障害性疼痛とは、見た目上はどこも怪我や炎症が起こっていないのに、神経に何らかの障害を受けてしまい、痛みを生じてしまうという現象のことです。では、神経にその障害をもたらす原因となる疾患にはどのようなものがあるのでしょうか。また、疾患以外にも神経に障害をもたらす原因はあるのでしょうか?
神経障害性疼痛とは、何らかの原因で神経が圧迫されたり傷つけられたり(障害)して起こる痛みのことです。一般的に、痛みとは怪我や炎症などが起こった際、そこで生じた「痛みを引き起こす物質」が神経を通じ、脳に痛みの信号を伝えることで起こります。これを「侵害受容性疼痛」と言います。
しかし、神経障害性疼痛の場合、原因となる怪我や炎症などの外傷はなくても、神経そのものが障害されるため、痛みが生じます。また、衣服が擦れたり、冷風に当たったりという、通常は痛みを感じないような刺激で痛みを感じることもあり、神経そのものが傷ついていることによる感覚異常と考えられています。
神経が障害される原因の代表的なものとして、「帯状疱疹後神経痛」「坐骨神経痛」「糖尿病神経障害」「頚椎症」「交通事故の後遺症」の5つがあります。いずれも傷や炎症などが外部から見えないことが共通していて、帯状疱疹後や交通事故後などは特に、怪我や炎症が治った後でも痛みが残ることが特徴です。
このほか、三叉神経痛・手根管症候群・脳卒中後疼痛なども神経障害性疼痛に分類されます。患者さんは40代以上の人に多く、日本全体で約600万人以上が発症していると推定されています。
帯状疱疹後神経痛とは、文字通り帯状疱疹を発症した後に残る痛みのことで、水疱などの発疹が治癒した後も痛みだけが残っている状態です。帯状疱疹の合併症として最も頻度が高いもので、発疹消失後3カ月で約7~25%、6カ月で約5~13%の人が発症しているというデータもあります。
帯状疱疹後神経痛の症状は「焼けるような痛みが続く」「断続的に刺すような痛みを繰り返す」といったものが代表的です。そのほか、以下のような症状がよくみられます。
帯状疱疹とは、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)によって引き起こされる疾患で、子供の頃にかかった水ぼうそうのウイルスが体内(脊髄近くの神経節と呼ばれる部位)に残っていて、加齢による免疫力の低下に加え、疲れやストレスなどでさらに免疫力が低下したときに再び活性化することが原因で起こります。
神経を通って皮膚に水疱ができるため、身体の左側か右側どちらかに帯状にできることから「帯状」疱疹と呼ばれています。日本人では5~6人に1人が発症すると言われていて、ウイルスの増殖で神経が傷つけられ、神経が過剰に興奮する、痛みを抑える経路が障害されるといった原因によって痛覚が過敏になったり、触れるだけで痛みを感じるような状態になったりします。
帯状疱疹が発症したことで起こる痛みは、皮膚が炎症を起こしていることによる「侵害受容性疼痛」に分類されますので、発疹が出現する少し前(前駆痛)から、発疹がなくなるまで続き、発疹がなくなるとストンと落ち着くことが多いです。帯状疱疹後神経痛は「神経障害性疼痛」であり、炎症によって起こる痛みとは別の機序で発症するため、発疹出現後に起こり始め、発疹がなくなってもしばらく続きます。
帯状疱疹後神経痛になりやすいのは、以下のような方です。
免疫力がより弱まっている高齢者はもちろんのこと、女性も多く、3人に1人は発症すると言われています。女性が多い理由は明らかになっていませんが、排卵後から月経が始まるまでの「黄体期」や妊娠中に免疫力が低下することが関係しているのではないかと考えられています。これら発症しやすい人は、帯状疱疹を発症した初期から痛みの対策を行っておくのが良いでしょう。
坐骨神経痛とは、「坐骨神経」という、腰から足にかけて長く太く伸びている神経が何らかの原因で圧迫されたり刺激されたりして、痛みやしびれなどの症状が現れることです。多くの場合、腰痛から始まり、徐々にお尻や太ももの後ろ、すね、足先と症状の範囲が広がっていきます。
坐骨神経痛の原因となる疾患は、「腰部脊柱管狭窄症」「腰椎椎間板ヘルニア」の2つが多いです。年齢が若い患者さんでは「腰椎椎間板ヘルニア」が多く、高齢になるに従って「腰部脊柱管狭窄症」の割合が増えていきます。いずれも腰椎(背骨の腰の部分)に何らかの異常が起こって神経根が圧迫・障害されるため、下半身にしびれや痛みを引き起こします。
それぞれの詳細と特徴は以下のようになっています。
腰部脊柱管狭窄症は、脊柱管が老化などで狭くなることが主な原因です。神経根や馬尾と呼ばれる脊髄の末端の部分などが圧迫されるため、下半身の痛みやしびれはもちろんのこと、麻痺や間欠跛行(かんけつはこう:疼痛やしびれを感じ、休み休みでないと歩行できない)などの歩行障害が生じることもあります。
また、これら2つ以外には、「梨状筋症候群」という、お尻を横切るようについている「梨状筋」の中の坐骨神経が外傷やスポーツなどで圧迫・障害されて起こる痛みや、脊髄・脊椎のがん、骨盤内のがんなども坐骨神経痛の原因となることがあります。
糖尿病の「3大合併症」と呼ばれるものの1つに、「糖尿病神経障害」というものがあります。これは糖尿病の合併症としては最も頻度が高く、最も早期から起こるもので、手足の先に痛みやしびれを感じるところから始まります。さらに症状が進むと、感覚がなくなり痛みが消えることもありますが、放置していた場合、症状が治ったのではなく悪化したと考えられます。
糖尿病神経障害が起こる機序は、一説として、高血糖の状態が続くとブドウ糖が「ソルビトール」という物質に変換され、このソルビトールが神経細胞に蓄積し、障害を引き起こすのではないかと言われています。また、別の説では高血糖によって毛細血管の血流が悪くなり、神経細胞に必要な酸素や栄養が不足した結果、神経が障害されるのだと考えられています。
しかし、このほかにもたくさんの説があり、どれもまだ有力な決定打となるデータがないため、はっきりとした原因はわかっていません。
頚椎とは首にある7つの骨のことで、この部分に何らかの異常が起こり、該当部位の脊髄が圧迫されて首や肩甲骨付近、または肩から腕や手にかけて痛みやしびれが生じることを「頚椎症」と呼んでいます。頚椎症には障害される部位によって「頚椎症性脊髄症」「頚椎症性神経根症」の2つがあり、それぞれ以下のような特徴があります。
脊髄症と神経根症の大きな違いは、脊髄は頭から腰まで背骨の中を大きく通っている神経であるため、手足の全体に症状が現れますが、神経根は首から肩を通って腕までの神経の流れの根元部分であるため、基本的に片側の腕と手にしか症状が現れないことです。
椎間板の変性は20歳を過ぎた頃から加齢によって徐々に生じていくもので、これ自体は疾患ではありませんが、脊髄や神経が圧迫されて痛みやしびれが生じ、日常生活に支障をきたすと疾患と判断されます。
交通事故の後遺症で神経障害性疼痛と判断される場合、「末梢神経障害」という怪我による症状が主な原因です。末梢神経とは、中枢神経である脳や脊髄と皮膚や感覚器官、筋肉などをつないでいる神経のことで、この神経を損傷すると皮膚の感覚障害や運動麻痺、慢性的な疼痛となって後遺症が残ります。いわゆる「むち打ち損傷」である「頚椎捻挫」も末梢神経障害の一種です。
神経のうち、損傷を受けた部分が一部であった場合はその部分の器官にのみ障害が現れますが、例えば皮膚に関する神経が完全に断裂した場合、皮膚の感覚がなくなる、といった感覚異常が起こります。損傷が比較的軽度な場合は、感覚や痛覚が鈍くなる「感覚鈍麻」「痛覚鈍麻」という症状になる場合もあります。
神経障害性疼痛のストレスなどで、心因性疼痛を併発することも少なくありません。
心因性疼痛とは、明らかな身体的異常がないにも関わらず精神的なストレスなどによって引き起こされる痛みのことです。明確な発症メカニズムは現時点では解明されていませんが、ストレスによって脳や神経に検査上では明らかにならないような何らかの変化が生じているとする説、「痛み」を感じる機序がストレスによって異常を来しているとする説などがあります。
神経障害性疼痛も患者にとっては精神的に大きな負担となり、さらに怪我などが原因で発症している場合には心的なトラウマなどから心因性疼痛が生じてしまうこともあるようです。
神経障害性疼痛の原因は、「帯状疱疹後神経痛」「坐骨神経痛」「糖尿病神経障害」「頚椎症」の4つの疾患と、「交通事故の後遺症」という1つの怪我がほとんどです。帯状疱疹は発症中からも痛みがありますが、発症中の痛みと発疹消失後の痛みは別の機序で発症すると考えられています。
また、疾患以外にも交通事故の後遺症として、怪我が原因で神経障害性疼痛が起こることもあります。これらの症状が出たら、適切な治療を行いましょう。