記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/10/21
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
消毒薬と言うと、一般的には飲食店や公共の施設、医療機関などに設置されているアルコールが有名です。手指にシュッと吹きつければ使えるアルコールは殺菌力や安定性が高いことから広く知られるようになりました。
滅菌除菌効果が期待できるものに次亜塩素酸水があり、そのなかのひとつに強酸性電解水というものがあります。言葉の印象から怖い劇薬のイメージがありますが、適切に使用するかぎりは人体に大きな影響はないと考えられています。今回は、強酸性電解水の特徴や作られ方についてご紹介します。
水(水溶液)は、大きく分けると酸性・中性・アルカリ性の3種類に分類されます。「強酸性電解水」とは、pH2.2〜pH2.7と強い酸性の性質を持っているほか、酸化還元電位が1100mv以上、溶存塩素が20ppm以上の水のことを言います。もともとは単に酸性が強い水という意味で「超酸化水」や「強酸性水」などと呼ばれていました。
その後、厚生労働省の機能水研究振興財団(現在は内閣府の所属)の指針によって「強酸性電解水」と命名され、さらに、食品添加物の殺菌料として使用する場合は殺菌成分の次亜塩素酸を含む水ということから「次亜塩素酸水」と定義されたため、「強酸性次亜塩素酸水」とも呼ばれるようになりました。
そのため、「強酸性水」「強酸性電解水」「強酸性次亜塩素酸水」はすべて次亜塩素酸水と考えて差し支えありません。なお、食品に対する殺菌剤として使われる「次亜塩素酸水」には、強酸性のほか、弱酸性・微酸性のものがあります。
強酸性電解水は、以下のような用途に使われます。
このように強酸性電解水は、感染力が高く人体に影響が大きい細菌・ウイルスなどの除菌にも使える強力な殺菌力を持っていますが、食品や調理器具・人体に対してもほとんど害がないとされているのです。
強酸性電解水には、次亜塩素酸ソーダ・消毒用アルコール・逆性石鹸などと同等以上の除菌効果と即効性があるとされています。活性化された次亜塩素酸(HClO)が含まれているため、MRSAなどの感染病原菌やサルモネラ菌、病原性大腸菌などの食中毒菌にも高い殺菌効果を発揮します。また、腐敗臭の元となる殺菌を即座に分解するため、優れた消臭効果も同時に発揮します。
強酸性電解水は名称から塩酸や硫酸などと同じような怖い薬品のイメージを持つ人もいますが、塩酸や硫酸と違って、適切な濃度での使用であれば人体への有毒性はありません。殺菌効果を発揮したあとは速やかに失効するため、一般的な殺菌消毒薬や農薬などの化学薬品のように、残留性を気にして使う必要もありません。
調理器具などの洗浄、農薬の代わりに病害予防などに使った際にも、洗剤や農薬を使ったときのように、残留した化学薬品を気にして洗い流さなくて良いのです。また、適切な使用をするぶんには人体に有害性がほとんどないとされることから、手荒れの心配もほぼありません。これにより、無駄なすすぎ水を節約することにつながり、地球環境や経費削減に役立ちます。
強酸性電解水は、微量な食塩(電解補助剤)を添加した水道水を電気分解することで作られます。電解槽内の2つの電極の間に隔膜を置き、所定の条件下で電気分解すると、陽極側にこの「強酸性電解水」、陰極側に「強アルカリ水」が生成されます。陽極側にできる強酸性電解水には塩素ガスが溶けていて、この塩素ガスから生成される次亜塩素酸(HClO)の働きによって細菌やウイルスを殺菌、強い洗浄・消毒作用を発揮することができます。
次亜塩素酸(HClO)の殺菌メカニズムは現在、さまざまな機関で研究されていますが、もっとも有力な説は「細菌の細胞膜に浸透し、細胞に欠かせない呼吸系酸素を破壊し、細胞の活動を停止させる」「細菌の細胞組織のタンパク質やアミノ酸に作用し、化学的な性質を変質させたり、分解したりする」というものです。
他の殺菌剤は、このように細胞膜に浸透して効果を発揮するものはなく、強酸性電解水はその点でも耐性菌を作りにくいとされています。実際に、使われ始めてから今まで、耐性菌が出現したことはありません。
前述のように、強酸性電解水は、強酸性と言っても塩酸や硫酸のように人体に有害な酸ではありません。酸性の強さは飲料のコーラ程度であり、通常使用の範囲内でごく少量を間違って飲み込んだり、適切な濃度の強酸性電解水で皮膚を洗ったとしても、健康被害や副作用を生じることはほぼないとされています。そのため、人にも環境にも優しい消毒薬として使われています。
強酸性電解水に含まれる塩素(次亜塩素酸)は、「次亜塩素酸ナトリウム」というよく似た漂白剤のイメージから有害な印象を持っている人もいますが、「次亜塩素酸水(強酸性電解水を含む)」と「次亜塩素酸ナトリウム」は全く違うものです。強酸性電解水に生じている塩素(次亜塩素酸)は電気分解によって一時的に生じているものであり、他の物質に触れたり、殺菌効果を生じるとすぐに普通の水に戻ってしまうのです。
このため、日持ちすることがなく、生成後は早めに使い切ってしまわなくてはなりません。逆にこの「日持ちがしない」ということが本物の強酸性電解水の安全性の証明とも言えるもので、次亜塩素酸ナトリウムなどを薄めて「次亜塩素酸水」とうたっている偽物は、日持ちはしますが安全性の点では薬剤の塩素が残留し、肌を痛めるリスクが非常に高いです。絶対に偽物を人体や食品に使わないようにしましょう。
このように、強酸性電解水は安全性の点で非常に優れていますが、日持ちしないことや、タンパク質と反応して殺菌力が弱まってしまうこと、油脂に弾かれて消毒効果を発揮できないことなどが弱点です。そのため、食品や人体・調理器具などに使う場合はタンパク質や油脂などをよく洗浄してから強酸性電解水を使うようにしましょう。
また、保存状態にもよりますが、10日を過ぎるとpHがどんどん下がっていき、普通の水に近づいていってしまいます。そのため、余った強酸性電解水はすぐに使い切るようにするほか、10日程度で新しい強酸性電解水と交換すると良いでしょう。
強酸性電解水は、消毒用アルコールや逆性石鹸などと同等の殺菌力と即効性を持つとされている消毒薬です。それだけの効果を持ちながら、人体に対してはほとんど害がないとされていることも非常に重宝されている理由といえるでしょう。
しかし、大きなデメリットとして、日持ちしないということが挙げられます。作ってからわずか10日程度で効果が失われてしまうため、逆に日持ちするとうたっているものの中には偽物もあります。よく注意して購入しましょう。