記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/10/18
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
食事の後に血糖値が上がるのは、人間なら誰でも当たり前のことですが、その上がり方があまりにも急激で、また元に戻るのも急激だと、「血糖値スパイク」と呼ばれます。血糖値スパイクは糖尿病のリスクを上げるだけでなく、動脈硬化からの心筋梗塞や脳梗塞、がんや認知症の発症リスクも高める怖い症状だとされています。
血糖値スパイクを起こさないための食べ物や食べ方のコツを知り、将来の怖い疾患のリスクを下げましょう。
血糖値が上がりやすいのはカロリーが高いもの、と思っている人も多いのですが、カロリーの高い食べ物と、血糖値を上げやすい食べ物は必ずしも一致するとは限りません。つまり、血糖値スパイク(血糖値の急上昇・急降下のこと)を起こさないためには、カロリーの高い食品を避けるのではなく、血糖値を上げやすい食品を避ける必要があります。
三大栄養素と呼ばれる炭水化物(糖質)、タンパク質、脂質のうち、カロリーがもっとも高いのは脂質ですが、血糖値がもっとも急に上がりやすいのは炭水化物(糖質)です。炭水化物には糖質と食物繊維が含まれますが、食物繊維は血糖値の上がり方を穏やかにしてくれる作用がありますので、食物繊維の多い炭水化物は血糖値を上げにくく、食物繊維の少ない炭水化物は血糖値を上げやすいということになります。
糖質の次に血糖値を上げやすいのはタンパク質、最後に脂質です。これは、糖質はすぐに分解・吸収されてエネルギー(ブドウ糖)として血中に取り込まれますが、タンパク質はもう少し分解・吸収に時間がかかり、脂質はもっとずっと時間がかかるという理由からです。このため、食後血糖値が急激に上がる「血糖値スパイク」を防ぎやすいのは脂質、とも言えます。
炭水化物のうち、糖質が多いのは白米や食パン、パスタやそば・うどんなどの麺類、いも、砂糖などで、食物繊維が多いのは野菜、きのこ、海藻などです。タンパク質は肉類や魚介類のほか、卵や大豆製品、牛乳や乳製品などに多く含まれています。
主食によく食べられる白米や食パン(白いパン)には食物繊維がほとんど含まれないのですが、精製される前の米や小麦を使った玄米やライ麦パンなどは比較的食物繊維やビタミン・ミネラルなどが多く含まれます。ですから、白米や白いパンを分づき米や玄米、ライ麦パンや全粒粉パンなどに切り替えるだけでも血糖値の上昇を穏やかにすることができます。
このような血糖値の上げやすさ、上げにくさを表した値に「GI値」というものがあります。血糖値が上がりにくいものを「低GI値(低GI食品)」、血糖値が上がりやすいものを「高GI値(高GI食品)」と呼んでいます。例えば、同じ米であっても白米は高GI食品、玄米は低GI食品と分類することができます。
オーストラリアのシドニー大学の定義では、GI値が70以上のものを高GI食品、56~69のものを中GI食品、55以下のものを低GI食品と定義しています。血糖値スパイクを起こさないような食べ物を食べるなら、低GI食品の中から選ぶと良いでしょう。
とはいえ、糖質も人間にとって重要な栄養素のひとつです。糖質を全く摂らない食事は逆に栄養バランスが悪くなり、満足感が得られずにかえって高カロリーな脂質などを過剰に食べすぎてしまうことにもつながります。ですから、糖質を完全に食べないのではなく、低GI値の炭水化物によって穏やかに糖質を吸収することが大切なのです。
血糖値スパイクを防ぐ食べ方のポイントは、以下の2つです。
高GI食品を食べる場合でも、低GI食品から先に食べ始めることで、血糖値の急激な上昇を抑えることができます。これは健康な人だけでなく、糖尿病患者のようにインスリンの分泌が十分でない人でも研究されていて、やはり同じように野菜から最初に食べる「ベジ・ファースト」が血糖値の上昇を抑えるのに有効なことがわかっています。
さらに、野菜の次には魚・肉などのタンパク質を摂取し、最後に主食である米やパンなどを摂取すると、胃の運動がゆるやかになり、食物が胃から十二指腸へ移動する速度がゆっくりになります。すると、糖質を含めた栄養素を吸収する小腸へ食物が移動する速度もゆっくりになりますので、より食後血糖値の上昇を抑えられることも、やはり研究からわかっています。
また、よく噛んで少しずつ食べれば、同じように分解や吸収に時間をかけて急激な血糖値の上昇を抑えられるほか、胃や腸にかかる負担も減らすことができます。一説には、一口に30回、1回の食事に15分程度かけて食べると良いと言われています。会話を楽しんだり、一口ごとに一呼吸置いて食べるなど、ゆっくりめに時間をかけて食べることを心がけましょう。
血糖値スパイクを防ぐためには、運動も効果的です。運動によって血中のブドウ糖を消費すれば、血糖値の上昇を抑えられます。生活習慣病などの予防と同じように、ウォーキングなどの有酸素運動がもっとも効率的ですが、運動であればどんなものでも構いませんので、好きな運動を長く続けられるようにしましょう。
有酸素運動を初めとした運動をすると、筋肉の血流が良くなり、インスリンの効果が高まるため、血中のブドウ糖がどんどん細胞内に取り込まれ、血糖値が下がります。血糖値のコントロールを改善するためには、ウォーキングのような中強度の運動を1回20~60分、週3回程度行いましょう。できれば、毎日行うのが理想的です。
運動はいつ行っても構いませんが、食後に行うと食後の血糖値の急上昇が抑えられるため、体調に気をつけながら食後に階段の上り下り程度の運動を行うと良いでしょう。また、時間が許すのであれば、運動は小分けに1日を通して数分ずつ行うのがもっとも血糖値を抑えられることもわかっています。気づいたときに適度な運動を行うのが、血糖値スパイクを抑えるためにはもっとも効果的と言えるでしょう。
血糖値スパイク対策には、まず「低GI食品」を中心に炭水化物を食べることが大切です。「低GI食品」とは食物繊維の多い炭水化物など、血糖値を上げにくい食品のことで、白米より玄米、食パンよりライ麦パンなどがこれに当たります。
また、食事の順番を変えて野菜などの食物繊維を最初に食べる「ベジ・ファースト」、1日を通じた適度な運動なども、血糖値コントロールに有効です。ぜひ、できることから取り入れていきましょう。