抗ヘルペスウイルス薬のアシクロビルとバラシクロビルの特徴は?

2019/11/7

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

私たちの体に悪さをする「病原体」には、細菌・真菌・ウイルスなどの種類があります。このうち、ウイルスはそれ単体で増殖することができず、他の生物の細胞に寄生してDNAなどの遺伝情報を複製し、増殖していきます。

そんなウイルスの一種、ヘルペスウイルスの増殖を妨害する抗ヘルペスウイルス薬に「アシクロビル」と「バラシクロビル」があります。それぞれ、どのような特徴があるのか見ていきましょう。

抗ヘルペスウイルス薬とは

抗ヘルペスウイルス薬とは、単純疱疹・水痘(水ぼうそう)・帯状疱疹などを引き起こす「ヘルペスウイルス」という一群のウイルスに対して効力を発揮する薬です。ヘルペスウイルスに感染すると水疱(水ぶくれ)ができたり、痛みや発熱などが生じたりします。とくに、帯状疱疹では痛みを伴う発疹が帯のように列をなして現れることから、このような名前がつきました。

ウイルスが増殖するためには、人間や動物と同様に、そのウイルスが持つ遺伝情報(DNA)を複製しなくてはなりません。ですから、ウイルスのDNA複製を阻害してやれば、ウイルスの増殖を抑えることができます。このDNA複製に必要な「DNAポリメラーゼ」の働きを阻害するのがアシクロビルやバラシクロビルなどの抗ヘルペスウイルス薬です。

抗ヘルペスウイルス薬には他にもアメナメビルという薬があり、こちらはウイルスのDNA複製に必要な酵素複合体の活性を阻害してDNA複製を抑えます。そのため、アシクロビル・バラシクロビルとは少し異なる作用で働くほか、代謝経路が異なることから、腎機能に対する影響などが少ないとして、患者さんの状態によってはこちらの薬が使われることもあります。

また、抗ヘルペスウイルス薬は片頭痛の治療薬として使われることもあります。これは、片頭痛にヘルペスウイルス(帯状疱疹ウイルス)が関わっている場合があり、とくに片頭痛の発作の際に目の周囲・頭皮・腕などに違和感を感じる「アロディニア(異痛症)」を伴う場合はその疑いが強いとされます。このような片頭痛の場合は、抗ヘルペスウイルス薬によって症状が改善する場合もあります。

アシクロビルとバラシクロビルの特徴は?

バラシクロビルはアシクロビルの「プロドラッグ」とされ、体内に吸収されたのち、肝臓でアシクロビルに分解されて効果を発揮します。つまり、基本的な抗ヘルペスウイルス作用としての効果はアシクロビルと同様と考えて構いませんが、体内への吸収率が高まっていることなど、相違点もいくつかあります。

共通点
  • 単純疱疹や帯状疱疹、性器ヘルペス、水痘などの治療に使われる
  • ウイルスの増殖を抑える薬なので、発症初期に使うとより効果的
  • 初期の治療により、症状の悪化が抑えられ、治癒が早まる
  • ウイルスに感染した細胞内で活性化し、ウイルスのDNA複製を阻害して増殖を抑える
  • 安全性が高く、比較的副作用が少ないとされている
相違点
  • バラシクロビルは体内でアシクロビルに変換されてから効果を発揮する
  • バラシクロビルはアシクロビル(1日5回服用)よりも吸収効率が良いため、1日1~3回の服用でOK
  • バラシクロビルは第2世代の抗ヘルペスウイルス薬とされている
  • アシクロビルは錠剤、顆粒、ゼリー、ドライシロップ、軟膏、注射、クリームなどの展開があるが、バラシクロビルは錠剤と顆粒のみ

バラシクロビルは、体内(肝臓)でアシクロビルに分解されてからでないと作用できないという点から、肝機能に障害がない、あるいは肝機能低下がごくわずかな状態であることが前提とされます。しかし、その代わりにアシクロビルよりも吸収効率がよく、服用回数を1日5回から1~3回に減らすことができます

飲み合わせに気をつけたほうがいい薬は?

アシクロビル・バラシクロビルとも、以下の4つの薬との飲み合わせには気をつけましょう。もし、これらの薬を既に服用している場合は、診察の際にあらかじめ医師に相談しましょう。

ベネシッド(一般名:プロベネシド)…痛風の薬
アシクロビルの代謝・排泄がうまくいかず、血中濃度が上がってしまうことがある
タガメット(一般名:シメチジン)…胃の薬
アシクロビルの代謝・排泄がうまくいかず、血中濃度が上がってしまうことがある
セルセプト(一般名:モフェチル)…免疫抑制剤
アシクロビル、モフェチル代謝物両方の血中濃度が上がってしまうことがある
テオドール(一般名:テオフィリン)…喘息の薬
併用により、テオフィリンの中毒症状が現れることがある

服用中に起こりうる副作用は?

アシクロビル・バラシクロビルともに有効成分としては同じ「アシクロビル」であるため、予想される副作用も同様です。基本的に副作用が少なく、安全性の高い薬だとされていますが、何らかの原因で血中濃度が必要以上に上昇した場合、精神神経症状が出やすくなることが指摘されています。とくに、腎臓病の持病がある人や、腎機能が低下している人、高齢の人などでは十分に注意が必要です。

軽い副作用としては、下痢・吐き気・腹痛などの胃腸症状、発疹・かゆみなどの皮膚症状、めまい・眠気・ふらつき・頭痛などの症状が考えられます。

重い副作用としては、以下のようなものが考えられます。頻繁に起こるわけではないものの、念のため、以下のような初期症状が見られたら注意しましょう。

急性腎不全
  • 尿が出ない・尿が少ない・むくみ・尿が濁る・血尿・だるさ・吐き気・頭痛
  • 喉が渇く・けいれん・血圧上昇
重篤な精神神経症状
  • 妄想・もうろうとする・混乱したり興奮したりする状態・けいれん・意識障害
アレルギー・アナフィラキシー
  • 気持ちが悪い・冷や汗・顔面蒼白・手足の冷えやしびれ・じんましん・全身発赤
  • 顔や喉の腫れ・ゼーゼーと息苦しい・めまい・血圧低下・目の前が暗くなり意識が薄れる
重篤な血液成分の異常
  • 発熱・喉の痛み・口内炎・だるさ・皮下出血(血豆や青あざ)・鼻血や歯肉出血などの出血傾向
重篤な皮膚や粘膜の障害
  • 発疹・発赤・水ぶくれ・膿・皮がむける・皮膚の熱感や痛み・かゆみ
  • 唇や口内のただれ・喉の痛み・目の充血・発熱・全身倦怠感
間質性肺炎
  • 空咳、息苦しさ、少し動くと息切れする、発熱
呼吸抑制
  • 呼吸が弱い・息苦しい
重篤な肝症状
  • だるさ・食欲不振・吐き気・発熱・発疹・かゆみ
  • 皮膚や白目が黄色くなる(黄疸)、尿が茶褐色
膵炎
  • 吐き気・嘔吐・上腹部から背中にかけての激しい痛み

軽い胃腸症状や眠気などで、日ごとに軽くなっていくような場合はそれほど心配はいりませんが、万が一意識障害などの重篤な副作用が見られた場合、すぐに主治医に連絡し、診察を受けましょう。

おわりに:バラシクロビルはアシクロビルのプロドラッグ。基本的に効果は同じ

バラシクロビルは、体内で吸収されてアシクロビルになってからウイルスに対する効果を発揮することから、抗ヘルペスウイルス作用としてはアシクロビルもバラシクロビルも同じです。主な違いとしては体内への吸収効率で、バラシクロビルの方が改良されていて、服用回数を少なくできます。

副作用は少ないですが、まれに重篤な精神神経症状が出ることがあります。意識障害などが見られたら、すぐに主治医に相談しましょう。

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