記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/11/18
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
寝つけない、眠りが浅いなどの睡眠障害は、さまざまな体調不良につながりますので、長く続けば続くだけつらいものです。睡眠障害を改善する方法はさまざまですが、ひとまず不眠の症状を改善したい場合は投薬治療が行われることもあります。
ベルソムラ®︎はそうした睡眠薬の一種で、睡眠障害の治療に使われます。詳しい作用や特徴、副作用や服用中の注意点について見ていきましょう。
ベルソムラ®︎は、眠りやすくする、寝つきを良くするタイプの睡眠薬で、「オレキシン受容体拮抗薬」という不眠症治療薬です。今までの睡眠薬とは一線を画した作用機序を持っていて、夜間の眠りを維持する作用もあります。そのため、入眠障害はもちろん、夜間に何度も目が覚めてしまう熟眠障害を解消するのにも向いています。
このような特徴は、ベルソムラ®︎が鎮静作用ではなく、脳の「起きている」という状態(覚醒状態)を抑える作用で自然な眠りを助けることによります。覚醒状態は脳内の「オレキシン」という神経伝達物質の働きで維持されますが、ベルソムラ®︎はこのオレキシンの受容体に結合し、その働きを阻害して脳の覚醒状態を抑えます。
そのため、結果として寝つきが良くなる入眠作用にくわえ、眠りが深くなる睡眠維持・熟眠作用がもたらされるのです。間接的な効果として、睡眠障害がある軽度の糖尿病患者さんに対し、一定の血糖改善効果が期待できるとされていますが、こちらの効果についてはきちんとした臨床試験が行われていないことから、糖尿病の治療に対して用いる場合は、保険の適応が認められていません。
個人差はありますが、睡眠潜時(寝つくまでの時間)は10〜20分程度短縮され、総睡眠時間は40〜50分程度増加すると期待できます。必ずしも強力な効果が見られる薬ではありませんが、よく睡眠薬として使われるベンゾジアゼピン系の薬に見られるふらつきや記憶障害などの副作用が少ないほか、服用中止後に不眠症状が悪化することも、離脱症状を起こす可能性も低い、安全性の高い薬です。禁断症状を引き起こすような依存性もほとんどありません。
このような多くのメリットから、睡眠障害に対する新たな治療薬として期待されています。一方、まだ新しい薬であることから、使用実績が少なく、長期的に服用したときの有効性や安全性については今後の研究や報告が待たれます。
ベルソムラ®︎は記憶障害などの副作用は少ないですが、人によっては翌日になっても「眠気・めまい・ふらつき・疲労感・頭痛」などが残る場合があります。眠気がなくても、注意力や集中力、反射的な運動能力は低下していることがありますので、車の運転や危険を伴う機械の操作は行ってはいけません。
重い副作用が起こることはまずありませんが、特殊な事例として「日中の過剰な眠気・脱力・金縛りのような入眠時幻覚・睡眠時麻痺」などが報告されています。もし、悩まされるほどの日中の眠気や脱力感など、気になる症状があれば、早めに医師に相談しましょう。なお、決められた用量を正しく服用している限りは、依存性のある薬ではありません。
ナルコレプシーやカタプレキシーなど、日中に過剰な眠気や脱力を起こす疾患を持っている人、重い肝機能障害や脳機能障害がある人には慎重に使います。また、高齢者では薬の代謝が遅れがちなことから、一般的な量よりも少ない量を使います。入眠だけでなく睡眠の維持にも作用することから、仮眠の前や睡眠後に一時的に起きて作業をする場合には使用を控えましょう。
持病やアレルギーのある人、妊娠中やその可能性がある人、服用中の薬がある人、夜中に起きて仕事をすることがあるという人は、診察時に医師に必ず伝えましょう。妊娠中の服用はできるだけ避けるのが望ましいですが、禁忌ではありませんので、医師とよく相談の上で使用します。授乳中もできるだけ控え、服用する場合には授乳をいったん中止します。
また、さまざまな薬と相互作用を引き起こす可能性がありますので、十分に注意が必要です。まずは、ベルソムラ®︎の代謝が遅れ、副作用が強まるリスクから、併用が禁止されているのが以下のような薬です。
また、禁止ではないものの、同じようにベルソムラ®︎の副作用が強まるリスクから、併用に注意が必要なのが以下のような薬です。併用するときは、ベルソムラ®︎の減量を考慮するとともに、副作用の発現に十分注意しましょう。
逆に、ベルソムラ®︎の血中濃度を低下させ、作用を弱める薬として、以下のような薬があります。
併用薬の血中濃度を上げてしまう飲み合わせには、強心薬のジゴシン®(一般名:ジゴキシン)があります。これも禁止ではありませんが、併用するときはジゴキシンの血中濃度に注意が必要です。
また、安定薬や抗うつ薬など、精神・神経系に作用する薬と一緒に飲むと、お互いに作用を強め合ってしまい、副作用が出やすくなることもあります。同様にアルコールもリスクがありますので、ベルソムラ®︎の服用中は飲酒を避けましょう。
ベルソムラ®︎には速効性があり、服用から30分程度で眠気が訪れますから、飲むタイミングは入眠の直前です。飲む前にやるべきことを済ませ、後は寝るだけという状態にしておきましょう。また、効果の発現が遅れることがありますので、食事中や食事直後の服用は避けます。
お茶に含まれるカフェインは、ベルソムラ®︎の効果を弱める可能性がありますので、寝る前に日本茶やコーヒー、紅茶などを飲むのはやめておきましょう。また、日常生活の中で起こりうる一時的な不眠に対しては安易に使うのを避け、できるだけ薬よりも生活習慣の見直しで改善して行くのが良いでしょう。
ベルソムラ®︎は、これまでの睡眠薬のように鎮静作用から眠気を誘うものではなく、覚醒状態を抑えることで自然な入眠を導くタイプの睡眠薬です。そのため、副作用が少なく依存性はほとんどなく、安全性が高いですが、長期間服用したときの有効性や安全性については今後の研究や報告が待たれます。
また、多くの薬と相互作用を引き起こすリスクがありますので、服用中の薬がある場合は必ず医師に伝えておきましょう。
※抗菌薬のうち、細菌や真菌などの生物から作られるものを「抗生物質」といいます。 抗菌薬には純粋に化学的に作られるものも含まれていますが、一般的には抗菌薬と抗生物質はほぼ同義として使用されることが多いため、この記事では抗生物質と表記を統一しています。