お酒の飲みすぎが招く病気ってどんなものがあるの?

2019/12/5

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

昔から、「酒は百薬の長」などと言われ、適度な飲酒は体にも良いとされてきました。しかしその一方で、大量にお酒を飲み続けると、短期的には二日酔いを、長期的には肝機能の障害を引き起こすこともわかっています。

しかし、お酒の飲みすぎがもたらすデメリットは、肝機能障だけではありません。飲みすぎが招くさまざまな病気を知り、この機会にほどよいお酒の飲み方について考えてみましょう。

冷凍宅配食の「ナッシュ」
冷凍宅配食の「ナッシュ」

お酒を飲むメリットは?

ほどよくお酒を飲むことには、以下のようなメリットがあります。

食欲を増進する
  • お酒を飲むと、胃液の分泌が盛んになる
  • 盛んに分泌された胃液が消化を助けるため、食欲が増す
ストレスを緩和してくれる
  • ほろ酔い程度の飲酒は、精神的な緊張をほぐすことができる
  • 精神的な緊張がほぐれると、ストレスを緩和することができる
血行を促進する
  • アルコールには、血行を促進する働きがある
人間関係を円滑にする
  • 美味しい食事やお酒を飲みながらのコミュニケーションは、人間関係を円滑にする
  • 冠婚葬祭・歓迎会・送別会などの特別な場で有効に活用するのが良い

お酒を飲むと胃酸の分泌が増進されるため、消化に役立ち、それに伴って食欲も促されます。「お酒を飲むと食事が進む」と感じたことがある人も多いのではないでしょうか。食事時にビールやチューハイなどを飲むのは、消化を助けるというメリットもあるのです。

また、ほろ酔い程度にアルコールを飲むと、脳内のドーパミンという神経伝達物質の分泌が促進され、良い気分になれます。これによって精神的な緊張がほぐれますので、ストレスの緩和になるとともに、冠婚葬祭や歓迎会・送別会などの緊張しがちな場においても、円滑なコミュニケーションを取りやすくなります。

さらに、アルコールを飲むと体がぽかぽかしてきます。これは、アルコールによって血管が広がり、血行が促進されるためで、人によっては筋肉の緊張をほぐし、肩こりや冷え性を緩和するのにも役立つことがあります。

飲みすぎると怖い、お酒のデメリットとは

さて、上記のようにお酒にはメリットもありますが、飲みすぎると逆にデメリットのリスクが高くなります。アルコールがないといられなくなるアルコール依存症はもちろん、肝障害やがん(肝臓がんだけではない)、中枢神経系の障害などが現れることがあります。それぞれについて、詳しく見ていきましょう。

アルコール依存症って?

以下のように、お酒を飲む量や場所、時間などを自分でコントロールできなくなってしまう状態です。

  • 休日には、いつも朝からお酒を飲む
  • 二日酔いになっても、翌朝には迎え酒で飲んでしまう
  • 1日中、延々とお酒を飲み続けてしまう
  • お酒を飲んでいないと、禁断症状として頭痛や手の震えなどが出る
  • お酒のことで、友人や家族との関係がうまくいかなくなった

アルコール依存症は、決して大酒飲みだけが発症するわけではありません。楽しくお酒を飲むのではなく、ストレスから逃げるためにお酒を飲み続けたり、孤独感やコンプレックスを紛らわすためにお酒を飲んだり、精神的な安定を求めてお酒を飲んだり、といった状態が続くと、アルコール依存症になる可能性が高くなります。

また、このような人たちは、最初はビール1杯程度で済んでいても、飲み続けるうちに耐性ができてしまうため、酔うためにもっともっとと強いアルコールを求めるようになります。すると、さらに体はアルコールに慣れていき、どんどん飲みすぎの状態になっていってしまうのです。

お酒で肝臓が悪くなるのはなぜ?

お酒の主成分はアルコールで、アルコールが体内に入ると、無毒化するためにまずは肝臓で代謝・分解されます。1段階目は有毒なアセトアルデヒドになり、2段階目で酢酸になります。酢酸は血液に混じって筋肉や心臓に移動してさらに分解され、最終的に二酸化炭素と水になります。

お酒を大量に飲むと二日酔いが起こるのは、大量にアルコールが入ってきたせいで2段階目の代謝が追いつかず、1段階目のアセトアルデヒドの状態で止まってしまうことが原因の1つだと考えられています。当然、このとき肝臓は必死で1段階目の代謝も2段階目の代謝も行っているのですが、追いつかない状態なのです。

このような過剰な飲酒を続けていると、当然、いつも肝臓が働きすぎの状態になります。すると、負担がかかりすぎた肝臓は徐々に壊れていきます。しかし、肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれるように、なかなか自覚症状が現れません。

これは、肝臓には一部の細胞が壊れても他の細胞がその代わりをできる(代償作用)という特殊な性質があるからですが、少ない細胞で今までと同じ働きをしようとすればさらに負荷がかかりますので、肝臓の細胞はどんどん壊れていきます。しかし、自覚症状がないので、肝臓が危険な状態になってもなかなか気づかないのです。

肝臓の細胞が壊れると、細胞の中に入っている「AST・ALT」や、「γ-GTP」などの酵素が血中に流れ出します。とくに、アルコールの飲みすぎを測る指標として使われるのが「γ-GTP」で、正常値が50IU/L以下なのに対し、100IU/Lを超えると肝機能障害を起こしている可能性が高くなります

アルコールの飲みすぎで肝臓に障害が起こる場合、最初にわかるのは「アルコール性脂肪肝」です。近年では食べ過ぎによる肥満・糖尿病などが原因の脂肪肝もありますが、アルコール性の脂肪肝はそれとは異なり、アルコールをやめればすぐに治ります。前述のようにこの段階ではほとんど症状がありませんので、血液検査や腹部超音波検査などで見つかることが多いです。

しかし、アルコール性脂肪肝の状態でもさらに過剰な飲酒を続けると、次は「アルコール性肝炎」という状態になります。この時点では腹痛や発熱・黄疸などの重篤な症状が見られることが多く、場合によっては生命に関わることもあります。アルコール性肝炎になる状態の人はたいていアルコール依存症を併発していますので、専門家による治療が必要です。

アルコール性肝炎がさらに進むと、肝硬変という最終段階に進行してしまいます。肝硬変では腹水・黄疸・吐血などの重大な症状がみられ、治らないことが多いとされていますが、他の原因が見られないアルコール性肝硬変の場合、断酒を継続していると肝硬変が改善するという報告もあります。ぜひ、アルコール性肝硬変の場合は、断酒を継続してください。

お酒でがんのリスクは増えるの?

アルコールによって起こりやすいがんの筆頭は、アルコール性肝炎や肝硬変から生じる肝臓がんです。しかし、大量の飲酒を続けていると、肝臓がん以外にも口腔がん・咽頭がん・喉頭がん・食道がん・乳がんなどの発症率も上がることがわかっています。さらに、飲酒に加えて喫煙の習慣もある人では、よりがん発症のリスクが高くなります。

アルコールを時々飲む人の非喫煙者・喫煙者のがん発症リスクをいずれも1としたとき、非喫煙者では飲まない人や、飲酒量が2日に1合程度や毎日1合程度の人の場合はむしろ発症率が下がったのに対し、喫煙者で2日に1合〜毎日1合飲む人では発症率が約1.7倍、毎日2合飲む人では約2倍、毎日3合以上飲む人では約2.4倍にも上がったのです。

中枢神経系の障害って?

大量の飲酒は、脳にも悪影響を及ぼし、ときには脳の萎縮を促進させることがあります。中でも、「思考・自発性(やる気)・感情・性格・理性」などの人間として重要な機能をつかさどり、ヒトで最も発達しているとされる「前頭葉」が障害されやすくなります。ですから、長期にわたってアルコールの大量摂取を続けることは、アルコール性認知症を引き起こしやすいと考えられるのです。

お酒が原因となる病気にならないためには?

上記のようなお酒が引き起こす重篤な病気にかからないためには、最初にご紹介したように「ほどよい飲酒」が重要だと言えます。そのためには、厚生労働省が推奨する「節度ある適度な飲酒量」を守ることが大切です。

「節度ある適度な飲酒量」は、1日平均純アルコールで約20g程度とされています。これは、代表的なお酒で言うと以下のような量です。また、一般的に女性は男性に比べてアルコール分解速度が遅く、同じ量を摂取したとしても女性の方がお酒による臓器障害を起こしやすいと考えられますので、女性は男性の1/2~2/3くらいが良いとされています。

ビール
ロング(500mL)缶1本
日本酒
1合(180mL)
ウイスキー
ダブル1杯(60mL)
焼酎(25度)
グラス半分(100mL)
ワイン
グラス2杯弱(200mL)
チューハイ(7%)
缶1本(350mL)

また、純アルコール量は、以下の式でも計算できます。

純アルコール量(g)=
お酒の量(mL)×アルコール度数÷100×0.8(アルコールの比重)

つまり、例えば4%のチューハイ500mL缶1本に含まれる純アルコール量なら、500×4÷100×0.8=16(g)と計算できます。

休肝日はあった方がいいの?

いくら節度ある適度な飲酒量にしたとしても、毎日休みなくアルコールを飲み続けることは、胃や肝臓に負担をかけてしまいます。というのも、肝臓がアルコールを処理するスピードは、個人差があるものの、平均すると1合あたり約3時間とされています。すると、夜9時に飲んだアルコール1合を、肝臓は夜中の12時までかかって処理するわけです。

このように、連日飲酒を続けると常に就寝中も肝臓を働かせることになるため、週に2日はお酒を全く飲まない「休肝日」を作るのがおすすめです。とくに、歓迎会や送別会などの場でたくさんお酒を飲んでしまったときなどは、翌朝までも肝臓は働き続けてアルコールを分解しています。働き者の肝臓を労るためにも、ぜひ休肝日を作りましょう。

おわりに:お酒の飲み過ぎはがんや認知症を引き起こす。お酒と上手に付き合おう

ほどよい飲酒には食欲増進やストレスを減らすなどのメリットもありますが、大量の飲酒を続けているとアルコール依存症や肝機能障害、肝硬変、肝臓がんをはじめとするさまざまながん、アルコール性認知症などのリスクが高まります。

こうした重篤な病気を防ぐためには、普段から適度な飲酒量を守ることが重要です。1日の純アルコール量を平均約20gに抑えるとともに、週に2日は休肝日を作りましょう。

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