マロリーワイス症候群ってどんな病気?

2019/12/26

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

お酒を飲みすぎると、気分が悪くなったり吐き気がしたりします。このとき、何度も嘔吐を繰り返すと、吐いたものの中に血が混じることがあり、これをマロリーワイス症候群と呼んでいます。

吐血すると、つい生命にかかわるような重篤な疾患を連想してしまいますが、マロリーワイス症候群は、ほとんどの場合、生命にかかわるほどの重篤な症状には至りません。マロリーワイス症候群の起こる原因や治療法について見ていきましょう。

マロリーワイス症候群とは

マロリーワイス症候群とは、嘔吐を繰り返すことで急に腹圧が上がり、食道の下部から胃の入り口付近にかけての粘膜が縦に裂けて出血するもので、上部消化管出血の約10%を占める症状です。1929年に、マロリーとワイスという2人の医師によってこの症状が報告されたことから、彼らの名前をとって名付けられました。

一般的にアルコールを飲みすぎた後、嘔吐を繰り返すことが原因になることが多いようです。これは、アルコールが下部食道括約圧という、胃の中身が食道へ逆流するのを防いでいる筋肉圧を緩めてしまうため、胃から食道への圧力がかかりやすくなるためと言われています。また、食道裂孔ヘルニアを発症している場合も、食道と胃の境界付近の外圧と内圧の差が大きくなり、裂傷を起こしやすいとされています。

その他にも、嘔吐の原因は妊娠時のつわり・乗り物酔い・偏頭痛・急性胃腸炎・食中毒・過食嘔吐など多岐に渡ります。また、吐き気や嘔吐がなくても、分娩時・排便時のいきみ、激しい咳、くしゃみなどによって大きな腹圧がかかって出血する場合もあります。

マロリーワイス症候群でみられる症状は?

マロリーワイス症候群が起こると、以下のような症状が見られます。

  • 嘔吐とともに吐血が起こる
  • みぞおち付近に痛みがある
  • 便に血が混じる、タール状や黒っぽい便になる
  • 貧血で立ちくらみが起こる

ほとんどは嘔吐の際の吐血のみですが、まれにみぞおち付近の痛みや便に血が混じるなどの症状が出ることもあります。また、みぞおちの痛みが激しい場合、食道壁の全層が破れている「特発性食道破裂(ブールハーヴェ症候群)」が起こっている可能性もあります。この場合は極めて危険な状態ですから、みぞおちに痛みがある場合はすぐに医療機関を受診しましょう。

マロリーワイス症候群はどうやって治療する?

マロリーワイス症候群かもしれないと思われる吐血があった場合、まずは出血部位やその状態を確認するため、内視鏡検査を行います。以前はX線検査を行っていましたが、小さい傷や浅い傷は発見できないことから、最近では内視鏡を用いた検査に変わっています。内視鏡検査では、食道や噴門部(胃の入り口)に縦に裂けたような傷があるかどうかを確認します。

傷が見つかった場合は、その大きさ・深さ・出血の状態(止まっているかどうか、または出血していればその状態)を直接確認し、治療方針を決定します。また、血液検査を行い、貧血の程度を見ることもあります。傷が見つからなければ他の疾患と判断できますから、それに応じた検査を行います。

出血が少ない場合、あるいは既に自然に止血している場合は、とくに外科的な治療などは行わず、安静にしてプロトンポンプ阻害剤(PPI)やH2ブロッカーなどの薬剤を使って胃酸の分泌を抑えるのみで、経過観察しながら保存的に治療を行います。治療後は傷が開きやすくなっているため、自然に止血した場合でも飲酒はやめ、辛いものや脂っこいものなど、胃に負担がかかるものを食べるのは避けましょう。

出血が多く、続いている場合、まず止血処置を行います。止血処置には内視鏡の先端から医療用のクリップを出して傷の部分にかける方法や、粘膜を熱で固めて傷を塞ぐ方法があります。もし潰瘍の動脈から出血している場合、潰瘍の表面に露出している血管にクリップをかける、エタノールを注入する、血管を電気焼灼する、などの方法で止血します。出血量が多い場合は、輸血が必要になることもあります。

潰瘍が大きい場合や深い場合には、止血処置後も入院し、絶食や輸液療法などの治療を行います。とはいえ、マロリーワイス症候群は約70%と大部分が保存的治療で治癒していて、内視鏡的な止血が必要なのは約30%、さらに外科的な治療が必要になるのは約1%と、手術が必要なほど進行することは比較的少ないと言えます。

マロリーワイス症候群を予防するには?

マロリーワイス症候群の原因は、最初にもご紹介した通り、嘔吐などによって起こる急激な腹圧の上昇です。主にアルコールの飲みすぎ、消化に悪いものの食べすぎなどによって嘔吐することが多いため、暴飲暴食を避けるとともに、度数の強いお酒を飲みすぎないよう注意しましょう。例えば、ウイスキーをストレートで飲む、脂っこいものを大量に食べるといったことは避けるべきです。

他にも、便秘も排便時にいきみ、腹圧が上がる原因となります。水分や食物繊維を意識的に摂取し、便秘にならないよう心がけましょう。吐き気があるからと、胃の中にものがないのに無理に吐こうとするのも腹圧を無理に上げる一因となってしまいますので、やめましょう。

また、マロリーワイス症候群による裂傷が粘膜の下、筋肉の層まで達してしまうと、治癒しても組織が硬くなって弾力がなくなるため、さらに避けやすくなります。マロリーワイス症候群を何度も繰り返さないためにも、治療後半年〜1年間は食生活にしっかり気をつけ、その後も暴飲暴食や過剰なアルコール摂取はしないよう心がけましょう

おわりに:マロリーワイス症候群は飲みすぎ・食べすぎで吐血する病気です

マロリーワイス症候群は、食道と胃の境目あたりの粘膜が裂け、そこから出血する病気です。このため、吐いたものに血が混じるのが大きな特徴で、主にアルコールの飲みすぎによる連続した吐き気が原因となって起こります。

他にも、排便時のいきみなどが原因となることもありますので、度数の強いアルコールの飲みすぎ・消化の悪いものの食べすぎに注意するほか、便秘にならないよう普段から水分や食物繊維の摂取を心がけましょう。

関連記事

この記事に含まれるキーワード

嘔吐(91) H2ブロッカー(5) 吐血(13) プロトンポンプ阻害剤(3) マロリーワイス症候群(2)