記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/12/24
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
ステロイドという薬の名前を聞いたことがある人は多いでしょう。アトピーなどのアレルギー性疾患をはじめ、さまざまな疾患の治療薬として使われるこの薬は、一方で副作用が多いことでもよく知られています。
そんなステロイドによって引き起こされる可能性のある副作用の1つに、ステロイド糖尿病というものがあります。このステロイド糖尿病はなぜ起こり、そしてどのように対処すれば良いのでしょうか。
ステロイドとは、「ステロイドホルモン薬」のことで、もともとは体内で分泌されているステロイドホルモンを薬剤として利用できるようにしたものです。体内の炎症を抑えたり、免疫機能を抑制したりする作用があることから、自己免疫疾患(リウマチなどの膠原病)や炎症性の疾患、気管支喘息、がんなどの治療に幅広く使われています。
一方で、ステロイドには糖の合成を促進して血糖値を上げる作用もあります。しかも治療で使われるステロイドの場合、たいていは体内で分泌されるよりも多い量を投与するため、血糖値が上がりすぎて糖尿病を発症したり、もともと発症していた糖尿病が悪化したりすることがあります。これをステロイド糖尿病と呼んでいます。
もともと糖尿病を発症していなかった人は、一時的に高血糖となったとしてもステロイド薬によるものですから、ステロイド薬を減量・中止すれば症状はほとんど治ります。とはいえ、高血糖になっている間に何の処置もせず放置してしまうと、ステロイド薬をやめても高血糖が続いたり、他の糖尿病と同様、合併症を引き起こしたりする場合があります。
ステロイド薬とは、前述のように炎症を抑える作用、免疫を抑制する作用を持つことから、自己免疫疾患や炎症性疾患を中心に幅広く使われる薬です。主な対象疾患は膠原病、ネフローゼ症候群、関節リウマチ、重篤な喘息、ひどいアレルギー症状などが挙げられます。
ステロイド薬の主な成分は「グルココルチコイド(糖質コルチコイド)」で、インスリン拮抗ホルモンとしても働きます。そのため、肝臓でタンパク質を糖に変換する「糖新生」を促したり、インスリンに対する感受性を低下させ、末梢組織での糖の利用を妨げたりしてしまいます。
つまり、糖をどんどん作らせるのに、消費をさせにくくする働きをしてしまうのです。このようにステロイドが糖新生を促し、糖消費を妨げ続けていると、当然血糖値は上がっていきます。そのため、高血糖や糖尿病を引き起こすことにつながるのです。
ステロイド薬によって血糖が変動する場合、昼から夕方にかけて、食事の後に血糖値が上がる「食後高血糖」になるのが特徴です。経口血糖降下薬だけでは血糖値を正常化するのが難しいため、既に糖尿病を発症している患者さんの多くは、ステロイド治療の開始とともにインスリン療法に切り替えて治療を行います。
基本的には食後高血糖を改善するため、超速効型のインスリン注射薬を毎食前に注射しますが、空腹時血糖も高い患者さんの場合、超速効型と中間型の両方を混ぜたインスリンや、持効型のインスリンを追加し、高血糖になりにくいよう調節します。
ステロイド糖尿病では、通常の糖尿病と異なり、網膜症など心血管系の合併症は起こりにくいとされていますが、長期に渡ってステロイド薬を使う場合や、血糖値が高いまま放置していた場合には、ステロイド薬を中止した後でも合併症や糖尿病が残ることもあります。主に食事療法を中心に、血糖コントロールを徹底しましょう。
また、糖尿病予防というと、一般的には運動療法も推奨されますが、ステロイド薬を使用している場合は骨粗鬆症のリスクも高まるため、骨折につながりやすく、血糖値を下げるほどの運動療法が行えないこともあります。主治医と相談し、治療の妨げとならないよう、また、さらなる怪我を招かないよう調節しながら血糖コントロールを行いましょう。
もともと薬剤を使わず、食事療法や運動療法だけで糖尿病の治療を行っていた人は、ステロイドを開始するとともに、α-グルコシダーゼ阻害薬を服用します。少量から始め、血糖値に合わせて量を調節していきますが、インスリン初期分泌の低下が見られる場合は、速効型インスリン分泌促進薬を併用することもあります。
これらの薬剤を使っても血糖コントロールがうまくいかない場合、スルホニル尿素薬(SU薬)を服用します。これも少量から徐々に必要量だけ増やしていきますが、ステロイド薬による高血糖は昼から夕方にかけての食後高血糖が特徴ですから、空腹時血糖が上昇していないようなら、SU薬の使用を避けるようにしましょう。
ステロイド薬を朝に服用すると、夕方ごろから血糖値が上がってきます。このため、経口血糖降下薬を服用していると、早朝空腹時には低血糖を引き起こしやすく、また、このときに採血しても有用なデータが得られないため、十分な注意が必要です。また、SU薬でも血糖コントロールが改善しない場合、すぐにインスリン療法へと切り替えます。
もともとインスリン療法によって糖尿病治療を行っていた人も、インスリン療法を引き続き行います。ステロイド薬が糖代謝に対して及ぼす影響とは、インスリンに対する感受性を低下させる「インスリン抵抗性」の食後高血糖です。そのため、食後高血糖に対応したインスリン注射として、速効型のインスリンを毎食前に注射します。
普段、中間型や持効型のインスリンで治療を行っている場合は、超速効型や速効型のインスリンに切り替えてインスリン療法を継続します。朝食前の空腹時血糖の値が高い場合は、就寝前に中間型インスリンを追加し、早朝の空腹時に正しく血糖値が低下している状態になるようにします。
ステロイド糖尿病が起こるのは、ステロイドが糖新生を促すとともに、末梢組織のインスリンに対する感受性を低下させてしまうことが主な原因です。糖が組織に取り込まれないのに、次から次へ作られるので、高血糖になってしまうのです。
対処は、食事療法を中心に、経口血糖降下薬による治療とインスリン療法を行います。また、ステロイドで血糖値が上がってくるのは主に昼〜夕方なので、朝の低血糖には十分注意しましょう。