高齢者は血圧が上がりやすいって本当?

2019/12/24

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

「イライラすると血圧が上がるよ」と言われたことはありませんか。これは実際に正しいのですが、イライラして血圧が上がっても、若い人ではその後、それほど重篤な状態を引き起こすイメージはありません。

一方、高齢者ではそのイライラによる血圧の急上昇が重篤な疾患の引き金になることもあります。これは、高齢者では若年者よりも血圧が上がりやすいことが関係しています。この記事では、高齢者と血圧の関係について解説します。

冷凍宅配食の「ナッシュ」
冷凍宅配食の「ナッシュ」

高齢者の血圧でみられる特徴は?

心臓のポンプ機能により、大動脈から血液が勢いよく全身に流れ出すとき、血管に圧力がかかります。この圧力が血圧です。心臓がギュッと縮まって血液を押し出すときに最大の圧力(収縮期血圧=上の血圧)がかかり、拡張して血流が緩やかになったときに最小の圧力(拡張期血圧=下の血圧)がかかります。

血圧の高さは、心臓が血液を押し出す力の大きさが関係します。ですから、全速力で走った直後に心臓がバクバクと拍動しているときには一時的に血圧が高くなります。そのほか、血管の弾力性や神経・ホルモンの働きで血管が収縮すると血圧が上がり、血管が拡がると血圧が下がります。血圧降下薬はこの働きを利用していて、血管を拡げることで血圧を下げています。

このように、さまざまな要因によって変化する血圧ですが、高齢者になるにつれて上の血圧が上がり、下の血圧が下がりやすいという特徴があります。その理由として、加齢によって大動脈が老化し、弾力性がなくなったことが挙げられます。弾力性がなくなると血流が悪くなり、同じ量の血液を流すのにより大きな力が必要になるためです。

また、自律神経の働きが落ちると血圧の急上昇・急降下に応じて血管を拡張・収縮させられなくなり、一時的な低血圧や高血圧を引き起こしやすくなることも原因のひとつです。そのほか、季節や温度による血圧の変動が大きいことや、血圧は高いのに脳の血流は不十分という特徴があります。これにより、めまいや立ちくらみを起こしやすかったり、脳梗塞のリスクが高まったりするため、注意が必要です。

血圧が高くなると危険な理由は?

高血圧は、心血管系疾患のリスクを高め、しかもその疾患による死亡率も高めてしまうことがわかっています。高血圧は自覚症状がないため、「高血圧ぐらい、いま身体に不調を感じていないのだから大丈夫」と思い込んでしまう人も少なくありません。しかし高齢者の場合、高血圧が続くことで糖尿病などの合併症を引き起こしやすいほか、そのまま放置していると動脈硬化が進み、やがては脳卒中や心筋梗塞などの重篤な疾患で突然倒れる、などということにもなりかねません。

また、高齢者は日常の中で急激な血圧の上昇や降下が起こりやすいです。特に、ヒートショック(暑いところから寒いところへの大きな温度差、突然立ち上がるなどの素早い動きなどの急激な変化)には注意が必要です。ごく短時間に血圧の急上昇と急降下を繰り返すと、失神や大動脈解離・心筋梗塞・脳梗塞などを引き起こす恐れがあります。特に、入浴時にヒートショックを起こした場合、失神して湯船でおぼれてしまうこともあるため、注意が必要です。

そして、高齢者が朝起きてすぐ動くのも危険です。朝は血圧が上がり始める時間帯のため、めまいや立ちくらみを起こして転倒の原因になるためです。また、イライラしたり強いストレスを感じたりすることも血圧が急上昇しやすくなります。

血圧上昇を予防するためにできることは?

急な血圧上昇を防ぐために、主に以下の4つのポイントに気をつけて過ごしましょう。

冬の入浴やトイレに気をつける
  • トイレや脱衣所にヒーターを置くなど、寒い場所は事前に温めておくと、急激な血圧の変動を予防できる
  • 湯船につかる前に、手の先や足の先から徐々に全身にかけ湯をし、体を慣らしてから入ることも忘れない
脱水症状に気をつける
  • 高齢になるほど、自分の喉の渇きに気づきにくくなり、血圧が上がりやすくなる
  • 汗をかく夏場だけでなく、乾燥する冬場もしっかり水分補給を
  • 喉が渇いたかどうかで判断せず、1〜2時間おきに飲むなど時間で習慣づけておくと良い
  • 睡眠中も汗をかくため、朝起きたときの水分補給も忘れない
ゆっくり行動する
  • 血圧が上がり始めの朝はゆっくり行動して血圧を一気に上げない
  • ベッドや布団の中でゆっくりと手足や体をほぐし、活動の準備をする
  • 起床後、血圧を測る場合はトイレを済ませ、食事の前に安静にした状態で測る
ストレスを避ける、緩和する方法を見つけておく
  • 怒りやイライラは、血圧の急上昇の原因になるため、脳卒中などを引き起こしやすい
  • 日頃から穏やかに過ごせるよう、ストレスを避けるとともに、好きなテレビ番組や読書、買い物などストレスを発散する方法も見つけておく

糖尿病の人はさらに注意!

また、糖尿病を発症している人や、その予備軍の人は注意が必要です。厚生労働省の調査によると、糖尿病の患者さんの約40%は高血圧を併発していますし、高血圧の人はそうでない人と比べて糖尿病になる確率が2〜3倍にも上がることがわかっています。

この2つの疾患と状態がどう関係しているのかはまだ解明されていませんが、放置したままでは両方とも病状が悪化してしまいます。高齢者は血管も老化しているため、動脈硬化がいっそう早く進行することになります。もし、検査などによって高血圧が発覚した場合、糖尿病の検査も受けておきましょう。

糖尿病も併発していた場合、血圧だけを管理するのではなく、血糖値のコントロールも同時に行わなければ、両方の症状を改善できないからです。合併発症していた場合は、それぞれ適切な治療を行うことが大切です。

おわりに:高齢者は血管の弾力性低下や自律神経の乱れで血圧が上がりやすい

高齢者の場合、加齢によって血管の弾力性が失われたり、身体機能の低下によって自律神経がうまく働かなくなったりなどの理由から血圧が上がりやすくなります。

高血圧は放置していると、心血管系など生命に直接関わるような重篤な疾患を引き起こします。ですから、温度差や脱水症状、動作をゆっくり行う、ストレスを避けるなどのことに日頃から気をつけておきましょう。

関連記事

この記事に含まれるキーワード

高齢者(102) 高血圧(137) 高血圧予防(4) 高齢者の血圧(1)