トキソプラズマに感染しても症状が出る人と出ない人がいるの?

2020/2/23

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

トキソプラズマという微生物は、飼い猫から感染するリスクがあることから、猫を飼っている人や、動物が好きな人は耳にした人が多いかもしれません。しかし、この微生物は猫だけではなく、さまざまな哺乳類に感染するのです。

一方で、それほど怖い疾患として知られていないのは、感染しても発症しない人が多いからです。このように人によって症状が変わる理由や、感染に気をつけるべき人、予防方法などを詳しくご紹介します。

冷凍宅配食の「ナッシュ」
冷凍宅配食の「ナッシュ」

トキソプラズマとは

トキソプラズマは微生物の一種で、多くの哺乳類や鳥類の体内に寄生しています。よく知られているのは猫ですが、他にも豚・牛・鶏などの食肉用の動物や、羊・馬・鯨・鹿・猪などの体内にも寄生しています。病原性があり、人間の身体に感染するとさまざまな症状を発症することがあるため、病原性微生物と呼ばれています。

トキソプラズマは、口や目などから直接トキソプラズマが体内に入ることで感染し、空気感染や接触感染はしません。豚・牛・鶏といった日常的に食べる動物に寄生していることがありますので、生肉を食べると感染する可能性があります。他にも、猫の体内や排泄物、土中に存在していることが多いため、感染している猫との接触や、ガーデニングなどの土いじりから感染することもあります。

日本での感染ルートを調査した結果によれば、猫との接触よりも生肉を食べることから感染する方が多いと報告されています。トキソプラズマというと猫のイメージが強いかもしれませんが、どちらかというと生肉の方に注意するのが良さそうです。肉を食べるときは、きちんと火を通してから食べるようにしましょう。

トキソプラズマに感染するとみられる症状は?

トキソプラズマに感染しても、人間を含む多くの動物で症状が出ない「不顕性感染」となることが多いです。つまり、感染したことに気づかないだけでなく、免疫機能が抑え込んでいるため、悪い症状もとくに出ないという状態です。しかし、子供や免疫機能が低下している人、高齢者などの場合は、以下のような重篤な症状を発症することがあります。

急性期
リンパ節の腫れ・高熱・悪寒・倦怠感など、風邪のような症状
感染箇所による症状
髄膜脳炎・肝炎・肺炎・心筋炎など

発症してすぐの急性期と呼ばれる時期の症状は、風邪など他の疾患でもよくある高熱・悪寒・倦怠感などの症状が見られます。ときにはリンパ節の腫れなど、伝染性単核球症の症状によく似た症状が見られることもあります。そこで、確定診断のためには血液検査を行い、血中に含まれる抗体がトキソプラズマに対するものかどうかで診断を行います。

目だけに発症する場合、眼トキソプラズマ症と呼ばれ、視力障害・目の痛み・羞明(強い光を浴びると不快感や目の痛みを感じる)などの症状が現れます。眼トキソプラズマ症は後天的感染で発症することは稀であり、胎児期に胎盤を通じて先天性感染していたトキソプラズマが、出生後再活性化して生じることが多いです。

また、潜伏感染していたトキソプラズマが、免疫機能の低下によって再活性化し、脳炎・肺炎・脈絡網膜炎などの重篤な疾患を引き起こすものは「日和見トキソプラズマ感染症」と呼ばれます。トキソプラズマ脳炎では意識障害・けいれん・視力障害のほか、半身の脱力・言語障害・頭痛・錯乱・けいれん発作などの神経症状が現れます。

頭部造影CTやMRIなどの画像診断を行うと、病変部位がリング状の腫瘤として発見されます。この他、PCR検査を行い、髄液からトキソプラズマの遺伝子が検出されることで確定診断とすることもありますが、PCR検査は感度が低いため、陰性の場合は確実に感染していないとは言い切れません。

トキソプラズマの感染を予防するには?

トキソプラズマに対する予防接種(ワクチン)はありませんので、トキソプラズマ感染症の発症を防ぐためには、現状、感染しないよう予防するしか方法がありません。とはいえ、トキソプラズマに感染したとしても、ほとんどの人では症状が見られないかごく軽い症状であり、免疫機能が正常な人では体内にトキソプラズマが残ってもその病原性を抑え込めますので、それほど心配は要りません。

トキソプラズマへの感染に気をつけなくてはならないのは、以下のような人です。

乳幼児や高齢者、疾患などにより、免疫機能が弱まっている人
  • トキソプラズマが体内にいないかどうか、血液検査を受けておくと良い
  • 陽性だった場合は、医師とも相談し、体内のトキソプラズマが再活性化して発症するのを防ぐための投薬治療も検討する
  • 陰性であれば、感染予防の対策をしっかりする
妊娠している人、あるいはこれから妊娠を考えている人
  • トキソプラズマに感染しているかどうか(抗体があるかどうか)、血液検査を受けておく
  • 抗体が陽性の場合、赤ちゃんに感染する心配はほぼないと考えてよい
  • 抗体が陰性の場合(未感染)、トキソプラズマへの感染を防ぐため、しっかり注意する
  • 既に妊娠中で心配な場合、主治医に相談する

妊婦さんが気をつけなくてはならないのは、妊娠の直前や妊娠中に初感染することです。この時期に初めて感染すると、お腹の赤ちゃんにもトキソプラズマが感染し、先天性トキソプラズマ症を発症し、眼や脳に障害が残ることや、重症の場合は流産や死産に至る可能性もあります。ただし、この場合も早期発見・早期治療を行えば先天性トキソプラズマ症を防げる、症状を軽減できる可能性がありますので、妊娠中に何らかの心配があればすぐに主治医に相談しましょう。

感染予防のためには、以下のようなことに気をつけましょう。

生肉からの感染を防ぐ
  • 生肉を扱うときは、妊娠中ではない健康な人が行う
  • 上記が難しい場合は、ゴム製の清潔な手袋をつけて調理を行う
  • すべての肉をよく加熱し、肉の中心部からピンク色が失せて肉汁が出なくなるようにする
  • 十分に加熱が終わるまでは、味見も行わない
  • 生肉が触れたまな板・洗い場・包丁などはよく洗い流す
  • 手も水と石鹸でよく洗い流す
ガーデニングからの感染を防ぐ
  • 庭や土をいじるときは、手袋をつけて行う
  • 庭いじりの後は、水と石鹸で手をよく洗い流す
  • とくに、食事や調理の前には十分に手を洗い流す
猫からの感染を防ぐ
  • 猫は庭や砂場をトイレとすることがあるので、土や砂の取り扱いには十分注意する
  • 室内飼いの猫は屋外に出さず、エサはドライフードか缶詰にする
  • 猫がねずみを食べてトキソプラズマに感染することもあるので、十分注意する
  • ホームレス猫を家に入れない、触らない
  • 猫のトイレの掃除は、妊娠中ではない健康な人が行うか、手袋をして毎日行う
  • 猫のトイレの掃除の後は、水と石鹸で手をよく洗い流す

まず、注意するポイントは生肉・ガーデニング・猫の3点です。これらに触れるときは妊娠中やその予定のない健康な人が行うのが最も望ましいですが、生肉の調理に関しては絶対に妊娠中の人が行わない、というのも難しいでしょう。その場合は、清潔なゴム手袋をはめて行うと、手にトキソプラズマが触れることがなく安心です。

健康で妊娠中やその予定・可能性のない人が絶対に生肉を食べてはいけない、というわけではありませんが、家族にこのような人がいる場合はやめましょう。肉は必ず中心部までしっかりと火を通す調理方法にすること、生肉が触れたまな板でサラダの野菜などを切らないこと、などに気をつけて調理します。

ガーデニングや猫のトイレ掃除などで土や砂を触るときも健康な人が行うのが望ましいですし、その際は手袋をつけておきましょう。また、猫の糞の中にトキソプラズマの「オーシスト」というさなぎのような状態が放出されることが多いです。排出されてすぐのオーシストは感染力を持っていないのですが、1~5日で成熟し、感染力を持つようになりますので、猫のトイレ掃除はできるだけ毎日行い、オーシストを早めに除去しておきましょう

また、そもそもホームレス猫を家に入れないことは大切ですが、どうしても拾った猫を飼いたいときは、できるだけ直接触らないようにし、獣医に相談してからにするのが良いでしょう。屋外にいた猫は何を食べ、そのときにトキソプラズマに感染したかわかりません。検査や投薬などを行い、疾患の治療や寄生虫の駆除をきちんと済ませてから飼うようにしましょう。

おわりに:トキソプラズマ感染は猫よりも生肉からの方が多い

トキソプラズマというと、猫から感染するというイメージが強い人も多いのですが、日本で調査した結果によれば、生肉を食べて感染する方が多いとわかっています。豚・牛・鶏などの日常的に食べる動物にも感染していることがありますので、肉は生焼けにせず、中心部まで火を通してから食べましょう。

多くの人は感染しても無症状で済みますが、免疫機能が低下している人や妊娠中・妊娠予定の人は、初感染しないよう注意が必要です。

関連記事

この記事に含まれるキーワード

感染症(48) 生肉(4) トキソプラズマ(5)