記事監修医師
工藤内科 副院長 工藤孝文先生のスマホ診療できるダイエット外来
工藤 孝文 先生
「高齢になっても元気に生活し続けるには、運動習慣や食生活の改善が重要」とよくいわれますが、実は近年の研究で「長生きの秘訣は人付き合い」ということが明らかになりました。人とのつながりがなぜ健康寿命を延ばすのか、交流が心身に与える影響を紹介していきます。
2010年、アメリカ・ブリガムヤング大学のジュリアン・ホルトランスタッド教授が「社会的なつながりを持たない人は、持つ人と比べて早期死亡リスクが50%上昇する」という衝撃的な発表をしました。この発表によれば、孤独による早死にリスクは、運動をしない人の死亡リスクよりも高く、さらに肥満患者の死亡リスクよりも約2倍も高いそうです。
「孤独と健康状態の関連性」はすでに国内外で多数報告されており、代表的な医学研究としては以下の見解が出ています。
要介護状態になった高齢者の話で、「転んで骨折してから、寝たきりになった」というエピソードを聞くことがあるでしょう。これは一見骨折が原因で動けなくなったように思える話ですが、実は「交流の少なさ」や「気力の低下」も寝たきりの原因と考えられるという意見もあるのです。
高齢者の骨折で多いのは、転倒による大腿骨頸部(足の付け根付近)の骨折です。この骨折は手術が必要にはなりますが、多くの人はリハビリを受ければまた歩行可能なレベルまで機能は回復します。しかし、退院から数ヶ月経った頃には、また自宅で寝たきりの日々を過ごしているケースが少なくないのです。
これは、骨折が治ってから「誰かと出かけたい」「遊びに行きたい」といった目標や気力が湧かないために、普段の生活でリハビリを続ける気になれず、運動量が低下した結果起こる寝たきりだと考えられます。
孤独が心臓機能や認知機能になぜ影響を与えるのか、その理由は現在も研究が行われている途中ですが、カリフォルニア大学のスティーブ・コール教授、シカゴ大学のジョン・カシオッポ教授らの見解では、「仲間と助け合うことがない孤独の状態が続くと、人の脳は『たった一人で敵の襲来に備えなければいけない』と判断し、体は炎症モードに突入する。この炎症モードでは病原菌と闘うために炎症物質を放出し続けるため、結果的に体にダメージが蓄積し、免疫力が落ちやすくなる」と仮説立てられています。
もともと人は、自分よりも体の大きい動物と闘うために、人間同士で群れを作り、助け合って進化してきたと考えられています。つまり「他者との交流は、生きる上で欠かせないもの」として人体にプログラミングされている可能性があるのです。
事実、この仮説を裏付ける研究として、上述のスティーブ・コール教授は「他者に親切な行動を1日3回行うと、体内の炎症を促す遺伝子の作用が抑制される」という統計結果を発表しています。
特に配偶者と離別した高齢者、子供と離れて暮らしている高齢者は、交流の機会が少ない傾向にあります。人付き合いが少ないと健康状態にも影響が出る可能性があるので、まずは現状をセルフチェックしてみましょう。下記に当てはまる数が多ければ多いほど、交流の場を増やすことが望まれます。
若い頃だけでなく、歳をとってからも友人や家族との交流を続け、外出やコミュニケーションの機会を増やすことは健康上とても大切です。
現在交流している家族や友人がいないという人は、下記のような交流の場に、できるところから参加してみましょう。
介護や寝たきり予防のために、食事や運動習慣に気を遣う高齢者は増えてきていますが、社会的な交流も健康状態に影響する重要なポイントです。仕事を辞めて以来、引きこもりがちだという高齢者の人は、自身がこれからも元気で居続けるために、人付き合いをする機会をできるところから増やしていきましょう。