アレルギー性鼻炎の点鼻薬の特徴と使うときの注意点とは?

2023/1/18

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

アレルギー性鼻炎とは、アレルギーの原因物質(アレルゲン)によって鼻に炎症が起こることです。代表的なものには花粉症があり、鼻水や鼻詰まりなど、毎年たくさんの人がつらい鼻の症状に悩まされています。こうしたアレルギー性鼻炎に対して処方される点鼻薬には、どんなものがあるのでしょうか。この記事では、点鼻薬の種類と特徴、基本的な使い方や使うときの注意点、副作用のリスクについて解説します。

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点鼻薬の種類と特徴

点鼻薬とは、一般的にアレルギー性鼻炎や鼻詰まりなど、鼻の炎症を抑えるための薬です。中枢性尿崩症の治療薬、子宮内膜症や子宮筋腫の治療薬など、全身作用を目的としたホルモン剤もあります。たいていはエアゾール(噴霧)剤として使われます。

鼻の炎症を抑えるための点鼻薬として、大きく分けて以下の3種類があります。

抗アレルギー薬
  • 長期間使える薬剤で、予防的に使う
  • ステロイド薬に比べると作用は弱め
  • 即効性はないが安全性が高く、アレルギー性鼻炎や血管運動性鼻炎に有効とされている
ステロイド
  • 投与してから2〜3日で効果が現れる
  • 使い続けることで効果が得られる
  • ステロイドに抵抗感がある人もいるかもしれないが、点鼻薬は薬の量も少なく、身体全体への影響はほとんどないといわれている
  • 副作用として、鼻への刺激感・乾燥感、鼻の出血などがみられることがある
  • 副作用がみられたら医師に相談し、自己判断でやめないことが重要
血管収縮剤
  • 鼻詰まりの素早い解消が期待できることから、一般的な市販の鼻炎用点鼻薬で使われている
  • ただし、効果は一時的で数時間後にはまた詰まり、繰り返して使うと薬剤性鼻炎を併発し、さらに重症化する場合がある
  • 上記の理由から、重症の鼻炎に限り1〜2週間を目安に使われる

一般的に、短期間で即効性を求める場合は血管収縮剤が使われ、安定して使い続けたい場合はステロイド薬が使われます。予防的に使う場合や、安全性を重視する場合は抗アレルギー薬を使いますが、ステロイド薬に比べて作用が弱いため、症状が十分におさまらない場合は医師に相談しましょう。

点鼻薬の使い方は?

点鼻薬すべてに共通する基本的な使い方は、以下の通りです。

  1. 鼻を軽くかむ
  2. 容器をよく振る
  3. 片方の鼻孔をふさぎ、反対側の鼻孔に容器の先を入れて上を向き、滴下する(または、軽く上向いて息を吸いながら噴霧する)
  4. 滴下または噴霧後は、薬液を鼻の奥まで広く行き渡らせるため、頭を後ろに傾けた状態で数秒間、鼻で静かに呼吸する
  5. 使用後は、容器の先端をきれいに拭き、キャップをして保管する

噴霧タイプの点鼻薬の場合、最初の噴霧を行う前に予備噴霧を行い、正常に噴霧されるのを確かめなくてはならないものもありますので、最初に噴霧するときに注意しましょう(2回目以降に噴霧するときはすぐに使って構いません)。

点鼻薬で考えられる副作用は?

点鼻薬を使ったときに起こる可能性のある副作用として最も問題視されているものに薬剤性鼻炎があります。これは、鼻詰まりを治療するために点鼻薬を使っているのに、何度も使い続けているうちに慢性的な鼻詰まりを引き起こしてしまうものです。

抗アレルギー薬やステロイド薬でこのような副作用はほとんどなく、副作用が出るとしても眠気や、まれに鼻への刺激感・乾燥感や鼻の出血がある程度と考えて良いのですが、血管収縮剤を長期間繰り返して使い続けているとこの「薬剤性鼻炎」を発症してしまいます。

血管収縮剤による薬剤性鼻炎について

そもそも、鼻の粘膜は「血管の塊」と言えるほど血管が豊富な場所です。この鼻の粘膜が腫れて分厚くなると鼻詰まりが起こるのですが、市販の点鼻薬の主成分である「血管収縮薬」は、平滑筋である血管の壁に存在する「交感神経系α受容体」を刺激することで拡張した小動脈を収縮させ、腫れた部分への血流を減らします。点鼻薬を打つと血管がその成分に反応して収縮することで、腫れた部分への血流が減り、腫れが引くとともに鼻汁も出にくくなるため、鼻の中に空気の通り道ができてスッキリと息ができるというわけです。即効性があり、約15分程度で効き目を実感できることから、以下のような重症の鼻炎に悩んでいる人には有効とされる薬といわれています。

  • 未治療で重症なアレルギー性鼻炎
  • 鼻詰まりが酷いタイプの風邪
  • 睡眠時無呼吸症候群のうち、夜間CPAPが使えないほど鼻閉が強いもの
  • 手術が必要なほど酷い鼻閉があるものの、何らかの理由によって手術ができない場合

※CPAP=機会で圧力をかけた空気を、鼻から気道へ送り込むことで気道を広げ、睡眠時無呼吸症候群を防止する治療法

ただし、このような重症な鼻炎に当てはまらない人に対しては、基本的に処方されません。これは、血管収縮剤を長期間使い続けていると、だんだんと当初のようには効かなくなっていき、点鼻薬の使用回数や使用量を増やさなければ鼻詰まりがおさまらなくなり、薬剤性鼻炎を引き起こすリスクが高まるからです。

血管収縮剤はもともと即効性はあるものの約4〜5時間程度と持続時間が短いという特徴があります。長期間連用していると持続時間がだんだん短くなっていき、頻繁に点鼻し直さないとスッキリ感が得られなくなっていきます。このような現象が起こる理由にはさまざまな説が挙げられていますが、「受容体のダウンレギュレーション」という説が有力といわれています。「受容体のダウンレギュレーション」とは、使用当初は受容体がたくさんあるので血管収縮剤に対してよく反応しますが、使い続けていくうちにだんだん受容体が減っていくことです。受容体のダウンレギュレーションが起こると、同じように点鼻してもなかなか反応しなくなり、量や回数をより多く点鼻しないと効き目が現れにくくなっていってしまいます。

この状態からさらに点鼻薬を使用し続けると、鼻の粘膜に循環障害が起こってしまい、慢性的な薬剤性鼻炎や浮腫性病変(鼻閉)を引き起こします。このことを知らずに、市販の血管収縮剤点鼻薬を長期間連用し続けてしまうことで薬剤性鼻炎を引き起こす例が度々問題となっているといわれています。市販薬は手軽に使える反面、この副作用についてあまり広く知られていないことも問題を助長している可能性があるでしょう。

ただし、前述した通り「ごく短期間、一時的に使う(鼻詰まりの酷い風邪など)」という場合や「重症な鼻炎を今すぐに楽にしたい(重症のアレルギー性鼻炎、手術不可能など)」という場合には即効性、爽快感などの点で優れていますので、「長期間、使い続けない」ということに気をつけながら使いましょう。

点鼻薬で副作用を起こさないためにはどうしたらいい?

まず、市販の点鼻薬を使う場合は、添付の説明書をよく読み、必ず1回の使用量や1日の使用回数、使用日数を守りましょう。病院で処方された薬の場合は、医師の指示をきちんと守り、指示された以上の量・回数・日数の使用は絶対にしないでください。また、同じような症状であっても、家族や友人など本人以外の人には決して譲ってはいけません。

また、薬剤が変質しないように「直射日光の当たらない涼しい場所(冷蔵庫など)に保管すること」「凍結しないよう注意すること」にも気をつけましょう。また、間違って使ってしまったり、目や口に入れてしまったりしないよう「小さい子供の手の届かない場所に保管すること」も大切です。

血管収縮剤も、きちんと用法・用量を守って使えば、重篤な副作用を引き起こすリスクは少なくなります。むやみやたらと使用を避けたり、説明書や注意書きを読まずに安易にどんどん使ってしまったりするのではなく、医師の指示や取扱説明書の内容をきちんと守って使用しましょう。

おわりに:アレルギー性鼻炎で処方される点鼻薬は3種類。副作用に注意しよう

アレルギー性鼻炎で処方される点鼻薬には、大きく分けて抗アレルギー薬・ステロイド薬・血管収縮剤の3種類があります。安全性が高く予防的に使うのが抗アレルギー薬、安定して使い続けられるのがステロイド薬、即効性があるのが血管収縮剤の特徴です。しかし、血管収縮剤は長期間使い続けると薬剤性鼻炎を引き起こします。そのため、用法・用量を守って正しく使うことが重要です。血管収縮剤を使用している市販薬の点鼻薬は多いので、使うときには気をつけるようにしてください。

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