風邪の諸症状改善に、どんな漢方薬がおすすめ?

2020/3/24

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

風邪を引くと、咳やくしゃみなどの比較的軽い症状から、発熱や全身のだるさなど、日常生活に大きな支障をきたすような症状が出ることもあります。こうした風邪の諸症状の改善には西洋薬が使われることが多いですが、漢方薬で改善することもできます。

そこで、漢方医学での風邪の考え方や漢方薬の選び方、漢方薬を飲むときの注意点についてご紹介します。風邪のときに西洋薬を飲むのが苦手な人は、ぜひチェックしてください。

漢方医学では「風邪」をどう考える?

風邪のひき始めには、大きく分けて「背中がぞくぞくする寒い風邪」と、「ほてったり喉が腫れたりする熱い風邪」の2つがある、と漢方医学では考えます。

「背中がぞくぞくする寒い風邪」とは

漢方医学では、風邪のひき始めに「背中にぞくぞくと寒気がする」というタイプの風邪を「寒い風邪」と呼びます。具体的には、以下のような症状がみられます。

  • ぞくぞくするような寒気
  • くしゃみ
  • 肩こり
  • 透明でサラサラとした、水っぽい鼻水
  • 顔が青ざめている
  • 温かいものを欲しがる
  • 厚着など、体を温めると楽になる
  • 首の後ろを温めると心地よく感じる

一般的な風邪はこちらのタイプがほとんどです。顔色は青白く、透明でサラサラとした水っぽい鼻水が出て、鼻づまりやくしゃみ、肩こり、全身の倦怠感などの症状が出ます。ひどいときは、がたがたと全身が震えるような悪寒や発熱、肘や膝などの節々が痛むなどの症状が出ることもあります。

「ほてったり喉が腫れたりする熱い風邪」とは

一方、「熱い風邪」とは喉風邪に多いタイプです。具体的には、以下のような症状がみられます。

  • 体のほてり(寒気はあってもごくわずか)
  • 喉の渇き、腫れ、痛み、咳
  • 黄色くねばねばした鼻水
  • 顔が赤くなる
  • 冷たいものを欲しがる
  • 薄着など、体を冷やすと楽になる
  • 首の後ろを冷やすと心地よく感じる

寒い風邪とは異なり、喉の腫れや痛み、体のほてり、熱感、発熱、赤い顔、黄色い粘性の鼻水や痰などの炎症症状が中心となります。寒い風邪のように寒気がすることもありますが、ごくわずかです。気候が温かいときや、暖房や冷房などで空気が乾燥したときなどに引きやすい風邪と言えます。

漢方薬の選び方のポイントは?

では、次にそれぞれの風邪に合わせた漢方薬の選び方を見ていきましょう。

寒い風邪におすすめの漢方薬は?

寒い風邪のひき始めには、「体の表面を温めてくれる」タイプの漢方薬がおすすめです。体の表面が温まると発汗が促され、風邪の改善に役立ちます。風邪に有効な漢方薬として有名な「葛根湯(かっこんとう)」はもちろんのこと、「麻黄湯(まおうとう)」や花粉症対策にも使われる「小青竜湯(しょうせいりゅうとう)」もおすすめです。以下のように、症状に合わせて使い分けましょう。

「葛根湯」:ぞくぞくした寒気、透明の鼻水、強い肩こりなどがあるときに
  • ぞくっと背筋が冷えて、風邪かな?と思ったときに飲むとよい
  • 寒気・くしゃみ・透明で水様性の鼻水などの出る寒い風邪のひき始めの症状を改善する
  • 強い肩こりを感じる風邪と相性がよい
「麻黄湯」:ひどい寒気、高い発熱、節々の痛みなどがあるときに
  • 葛根湯よりも体表を温める力が強いため、葛根湯よりも症状が強い場合に使われる
  • 高熱が出ているのに寒気が強く、がたがたと震える、咳が止まらず節々が痛むなどの激しい症状が出ている場合におすすめ
  • 発汗を促す力が強いため、汗をかいている状態で飲んでしまうと脱水の危険性もある。必ず汗をかいていない状態で服用すること
「小青竜湯」:鼻水がひどいときに。花粉症などのアレルギー性鼻炎にも利用できる
  • 上記2種類の漢方と比べ、鼻水を改善する生薬がより多く配合されている
  • 透明で水様性の鼻水によく効き、風邪のほか花粉症などのアレルギー性鼻炎にも使える

ただし、これらの漢方薬を使う上で重要なのは「まだ汗をかいていないうちに飲む」ことです。発汗させることが目的ですから、既に汗をかいている場合にはあまり効果が見られません。また、飲み始めて汗をかいたら目的達成ですから、そこで飲むのをやめましょう。

熱い風邪におすすめの漢方薬は?

寒い風邪とは逆に、体の表面を冷まして炎症を抑えてくれるタイプの漢方薬がひき始めにおすすめです。とくに「銀翹散(ぎんぎょうさん)」という漢方薬は、ひき始めから喉が腫れて痛む喉風邪におすすめの漢方薬で、喉の腫れや痛みなど、炎症症状を改善してくれます。他にも、口や喉が渇く、咳が出るなど、熱い風邪のひき始めの諸症状にも効果が期待できます。

漢方薬の効果的な飲み方は?

漢方薬による風邪治療はウイルスを殺すことではなく、体の免疫力を高めてウイルスに対する抵抗力を強くすることです。ですから、以下のように養生することも重要です。

  • 温かくして、睡眠をしっかりとる
  • 熱や咳がある場合は、入浴を控える
  • 上背部を冷やさないように、上着を1枚多く着る

寒い風邪のときは汗をかく必要がありますから、熱いお粥や生姜とネギのスープなどを飲み、寝るときには少し厚着をすることが重要です。また、汗をかいたら寝間着をそのままにせず、こまめに着替えて汗で体が冷えないよう気をつけましょう。

熱い風邪や喉風邪のときは、梨のジュースや大根おろしの汁などが炎症を抑えるのにおすすめです。一方で、発汗させすぎると喉が余計に乾燥してしまいますので、食べるものや着るものに少し気をつけましょう。

漢方薬を飲むときに気をつけることは?

漢方薬が効くのは、あくまでも「風邪のひき始め」であり、病院を受診するほどではない軽い症状の場合です。重い症状のときには市販の漢方薬だけで治療しようとせず、必ず医療機関を受診しましょう。また、自己判断で複数の漢方薬を服用するのは相互作用などのリスクがあり、危険ですので、絶対にやめましょう。特に、以下の生薬が含まれる漢方薬は、使用上の注意や用法・用量を守り、飲みすぎないよう注意が必要です。

麻黄(まおう):葛根湯、麻黄湯など
  • 主成分はエフェドリンで、交感神経刺激作用がある
  • 心疾患のある人や気管支拡張剤を飲んでいる人、胃腸虚弱な人では服用に注意が必要
甘草(かんぞう)
  • 成分のグリチルリチン酸が、低カリウム血症を引き起こす可能性がある
  • 短期間の投与で問題になることは少ないが、長期間服用する場合はむくみなどに注意が必要
大黄(だいおう)
  • 瀉下作用があるため、妊娠中の人や下痢を起こしやすい人には注意が必要
附子(ぶし)
  • 量が多すぎると強い毒性を持つ成分を含むため、用法・用量をしっかり守る
地黄(じおう)
  • 量や体質によっては胃もたれ・食欲不振などを引き起こすことがある

風邪に漢方薬を用いた場合、通常は1〜2日で何らかの効果が現れます。もし、何の効果も見られない、症状が重い、服用後に逆に具合が悪くなったなどの場合は漢方薬の服用を中止し、病院を受診しましょう。慢性疾患の場合は長期にわたって漢方薬を飲みますが、風邪の場合は西洋の薬と同じ感覚で短期間飲みます。

飲み方は1日3回、空腹時に服用するのが良いでしょう。薬が吸収されやすく、胃に残った食べ物の影響で薬のバランスが崩れたりすることもありません。ただし、胃が弱っている人の場合は食後に飲んだ方が良い場合もあります。また、1日3回飲むのが難しい場合、1日分を均等に2回に分けて飲んでも構いません。

おわりに:漢方医学で風邪は2種類。種類別に効果的な漢方薬を飲もう

漢方医学では、背中がぞくぞくする「寒い風邪」と、発熱などの炎症症状が中心の「熱い風邪」の2種類に分けて考えます。寒い風邪の場合は体の表面を温めて発汗を促して治療するタイプの漢方薬、熱い風邪の場合は体の表面を冷まして炎症を抑えてくれるタイプの漢方薬を使います。

風邪で漢方薬を飲むときは、1〜2日程度で何らかの効果が現れます。もし効果がない、悪化したという場合は服用を中止し、病院で診察を受けましょう。

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