食事から摂る栄養素ってどんな働きをしているの?

2020/5/12

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

「栄養バランスの良い食生活」は、健康を保つための大切な要素のひとつです。しかし、食事から摂取した栄養素が実際に体内でどのように働き、どのように健康に影響するのかについては、あまりよく知られていません。そこでこの記事では、栄養素の基本的な働きや種類とその特徴、不足したり過剰に摂取したりしてしまうとどんなトラブルが起こるのかを解説します。

冷凍宅配食の「ナッシュ」
冷凍宅配食の「ナッシュ」

栄養素の働きは?

栄養素の働きは、大きく分けて「エネルギーになる」「体をつくる(筋肉や骨などの組織、血液なども含む)」「体の調子を整える」の3つがあります。栄養素の中には、どれか1つの働きだけでなく2つ以上にまたがって働くものもあります。たとえば、普段は体をつくるもとになっている「タンパク質」は、体を動かすためのエネルギーが足りないと分解されてエネルギー源にもなります。

体をつくる栄養素は、タンパク質のほかに骨や歯を作るミネラル、細胞膜などをつくる脂質などもあります。体の調子を整えるものにはビタミンやミネラルがあり、臓器が働くのを助けたり、神経の働きに関わったりと、体を一定の調子に保ってくれます。特にビタミンやミネラルは体内で合成できないものが大半なので、食事から十分に摂取しなくてはなりません。このように、人間は生まれてから死ぬまで、生命活動を続けるために何らかの方法で栄養素を摂り続ける必要があります。

栄養素の種類と特徴は?

栄養素には、まずエネルギー源となる主要なものとして「糖質・脂質・タンパク質」の「三大栄養素」があります。さらに、この三大栄養素に微量元素であるビタミンとミネラルを加えたものを「五大栄養素」と呼びます。三大栄養素はエネルギー源になるとともに体をつくり、ビタミンやミネラルは体の調子を整えることから、五大栄養素で大まかに生命維持に必要な要素を含むと言えます。

さらに、近年では五大栄養素には含まれていないものの、「食物繊維」も体の調子を整えるのに一役買っていると言われています。

糖質

糖質は体のエネルギー源として最も使われやすく、各種臓器や筋肉、脳を動かすのに即効性が高いエネルギー源です。糖質が足りなくなると、脳に必要なエネルギーが届かなくなったり、足りないエネルギーを補うために筋肉や脂肪が分解されたりします。逆に、糖質を過剰に摂取してしまうと、エネルギーとして使い切れず、中性脂肪に変換されて脂肪として体に蓄積されます。

近年話題になっている糖質制限ダイエットなどにより、悪いイメージを持たれることも多い糖質ですが、本来は脳や体をすぐに動かせる効率のよいエネルギー源です。

脂質

脂質はエネルギー源として使われるほか、細胞膜・臓器・神経の構成成分となったり、ビタミンの運搬を助けたりする役割があります。また、体温を保つ・肌に潤いを与える・女性ホルモンをはじめ、正常なホルモンの働きを助けるなど、体を一定の状態に保つために非常に重要な役割を持っています。したがって、脂質を減らしすぎるのもよくありません。

特に、女性は体脂肪率だけを見て過剰なダイエットをしてしまうと、美容や健康を損なうことにもつながりかねません。美しい肌や髪を保つためには、ある程度の脂肪も必要です。

タンパク質

タンパク質は筋肉・内臓・髪・爪などの臓器のほか、ホルモン・酵素・免疫細胞など、体の大半の部分を構成しています。タンパク質は体内ではアミノ酸となり、細胞の基本的な成分となっています。遺伝子の情報を載せているDNAも、やはりアミノ酸から作られています。

アミノ酸には大きく分けて2種類(体内で合成できるアミノ酸と、合成できないアミノ酸)あります。体内で合成できないアミノ酸(9種類)を総称して「必須アミノ酸」と呼び、これらは食事から摂取する必要があります。

食品に含まれるタンパク質の栄養的な価値を評価する指標に「アミノ酸スコア」があります。アミノ酸スコアとは、食品中の必須アミノ酸の配合バランスを点数化したもので、最大スコアは100であり、 100に近ければ近いほど「良質なタンパク質」と言えます。

たとえば、卵・鶏肉・鮭・牛乳などのアミノ酸スコアは100、大豆は86、主食である米は65、パンなどの材料となる小麦は37となっています。穀類のアミノ酸スコアが低いのは、とくに必須アミノ酸である「リジン」が不足していることが主な理由と考えられます。したがって、リジンが豊富な鶏肉などと一緒に摂取すれば、アミノ酸バランスを改善できます。

ビタミン

ビタミンは「五大栄養素」のひとつです。三大栄養素(糖質・脂質・タンパク質)のように体を構成したりエネルギー源になったりするものではありませんが、体を正常な状態に保つために欠かせない栄養素のひとつです。血管や粘膜、皮膚、骨などの健康を保ち、新陳代謝を促す働きをします。体内で必要な量はごくわずかなものの、体内ではほとんど合成されないか、合成されても必要量に満たないため、食品から摂取しなくてはなりません。

また、ビタミンには水に溶ける「水溶性ビタミン」と、油に溶ける「脂溶性ビタミン」の2種類があります。水溶性ビタミンの代表的なものにはビタミンCがありますが、このようなビタミンは尿に溶けて排出されてしまうため、必要な量を毎日継続して摂取し続ける必要があります。一方で、過剰に摂取しても体に蓄積されることなく尿と一緒に排出されてしまうため、摂りすぎる心配はありません。

脂溶性ビタミンの代表としてビタミンEがあります。その性質から、油と一緒に摂取すると吸収率がアップします。ただし、尿に溶けて排出されず、肝臓に蓄積されるため、摂取しすぎると過剰症を引き起こすものもあります。野菜や肉、果物などの食事から摂取するだけでは過剰摂取になりませんが、サプリメントなどで大量に摂取する場合には注意が必要です。

ミネラル

微量元素(生命維持に必要だが、体内に存在する量が比較的少ない元素)ではありますが、体の健康を維持するために欠かせない栄養素です。骨や歯を構成するカルシウムを始め、鉄やナトリウムなど16種類の必須ミネラルが存在し、体の調子を整える働きをしていいます。

ミネラルは体内で合成することができませんので、必ず食事から摂取しなくてはなりません。不足すると鉄欠乏性貧血やヨウ素不足からの甲状腺腫など、欠乏症を引き起こします。また、カルシウム不足で骨粗鬆症になるなど、さまざまな症状が発生します。摂取し過ぎもビタミン同様、過剰症を引き起こしますので、やはりサプリメントなどで大量に摂取する場合は注意が必要です。

食物繊維

食物繊維は、ヒトが持つ消化酵素では消化されない食物中の成分の総称で、主に穀類・野菜・果物・イモ類・海藻・甲殻類などに含まれています。近年、食物繊維が体の調子を整える上で重要な役割を果たしていることがわかってきました。

食物繊維の多い食べ物は自然と噛む回数が増えるため、唾液の分泌につながるほか、少量で満腹感が得られるので食べすぎの防止にもつながります。同時に、小腸での糖質の消化・吸収を緩やかにするため、血糖の上昇を抑えることで糖尿病の予防にもつながります。さらに、コレステロールや胆汁酸を吸着するタイプの食物繊維には、血中コレステロール値を抑える働きをするものもあります。

大腸では、腸内細菌の好むエサとなり、その発酵を受けてエネルギー源を生成し、腸内で発がん性物質などの有害物質を抑える「善玉菌」を増やしてくれます。さらに、便のかさを増やしたり、腸内細菌が生成したガスの刺激を受けたりして排便を促すため、便秘予防にもつながります。

栄養素の不足、過剰摂取が招くトラブルは?

栄養素が不足したり、逆に摂取したりしすぎてバランスが崩れると、体の消化・吸収・代謝などの生命活動にもさまざまな影響が出てきます。栄養不足では臓器が正常に働かないほか、過食によって肥満や高血圧・糖尿病などの疾患が引き起こされることはよく知られていますが、その他にもさまざまなトラブルが生じることがあります。

糖質が不足、または過剰摂取すると?

糖質が不足すると、脂質よりも先にタンパク質がエネルギー源として消費されてしまいます。つまり、本来は体をつくるために使われるタンパク質が、正常に働けなくなってしまうのです。あるいは、筋肉などのタンパク質が分解されてしまう場合もあります。さらに、糖質は脂質の代謝にも関わっているため、脂質の代謝がスムーズに行われなくなります。一方、糖質を摂取しすぎると肝臓や脂肪細胞で中性脂肪となり、脂肪として体に蓄積し、肥満の原因となります。

脂質が不足、または過剰摂取すると?

コレステロールと中性脂肪は、摂取しすぎると動脈硬化から心疾患や脳梗塞につながります。また、牛肉や豚肉に多く含まれる「飽和脂肪酸」は血中のコレステロールを増やすため、摂りすぎないよう心がけましょう。一方、魚油や植物油に含まれる「不飽和脂肪酸」には血中コレステロールを下げる働きがあります。どちらかといえば、こちらを意識して摂取するのおすすめです。

コレステロールは体内ですべて悪い働きをするわけではなく、ホルモンや細胞膜の成分になるという重要な働きもあります。そのため、少なくなりすぎると細胞膜や血管壁がもろくなって、こちらも血管性の疾患に発展する可能性もあります。必要以上に摂取制限しないように気を付けてください。

タンパク質を過剰摂取すると?

タンパク質は体をつくる栄養素であるため、発育期や妊娠期には特に十分な摂取が望ましいです。必須アミノ酸を多く含みタンパク質スコアの高い卵・肉類・魚・大豆食品などを積極的に摂取しましょう。

ただし、肉類の場合は同時に飽和脂肪酸も摂取することになるため、摂取しすぎないよう気を付けてください。また、タンパク質を過剰に摂取しすぎると老廃物として体内に窒素酸化物が増えます。窒素酸化物を処理するためには腎臓に負担がかかりますので、腎臓の働きが弱っている人や、腎疾患を抱えている人では特に注意が必要です。

ビタミンが不足、または過剰摂取するとどうなる?

不足しやすいのは水溶性ビタミン(ビタミンC、ビタミンB群など)、過剰摂取になりやすいのは脂溶性ビタミン(ビタミンA、D、E、Kなど)です。水溶性ビタミンは毎日の継続的な摂取を、脂溶性ビタミンはサプリメントなどによる過剰摂取に注意しましょう。脂溶性ビタミンを過剰摂取すると、頭痛や吐き気などの過剰症が起こる可能性があるためです。

ミネラルが不足、または過剰摂取するとどうなる?

ミネラルは体内のさまざまな働きに関わっていますが、体内で作り出せないため、食事から必要量を摂取しなくてはなりません。

カルシウム
成人男性・女性ともに推奨量と比べて1日の摂取量が100mg以上不足しているとするデータもあります。骨粗鬆症を予防するためにも、意識的にカルシウムを摂取しましょう。
リン
リンにはカルシウムが骨になるのを助ける働きがありますが、摂取しすぎると骨から血中に溶け出すカルシウム量を増やしてしまいます。リンは多くの食品に含まれるほか、加工食品や清涼飲料水の保存料などにも使われているため、現代の食生活では過剰摂取になりがちです。加工食品などの食べすぎには気を付けてください。
鉄分
現代人の食生活では、鉄分の不足も問題視されています。鉄分は赤血球の成分となり、酸素や二酸化炭素の運搬に関わっていますので、不足すると鉄欠乏性貧血を引き起こします。特に、思春期の女性では貧血の症状は起こらないものの、体内の貯蔵鉄が減少する「潜在性鉄欠乏症」が多くみられます。加えて、閉経前の女性は男性よりも2割ほど多く鉄分が必要なこともわかっています。女性はぜひ、積極的に鉄分を摂取してください。
食塩(ナトリウム)
1日の食塩の摂取量は男性8g、女性7gが望ましいと言われていますが、日本人の食生活では平均して1日あたり9.9g摂取と、2〜3g多く摂取しています。食塩を摂りすぎると、高血圧を招きます。高血圧は動脈硬化につながるだけでなく、体内の水分量が増えてむくみの原因となります。さらに、体内に水分が増えすぎると心臓に負担がかかって血圧がさらに上昇する悪循環にもつながります。
カリウムは食塩の排泄を促して血圧を下げる働きがあります。そのため、健康な人は食塩と同じくらいのカリウムを摂取するのがおすすめです。ただし、慢性腎不全などで腎臓の機能が低下している人は、腎臓に負担をかけないよう、医師と相談してナトリウムやカリウムの摂取量を決めてください。

そのほか、亜鉛の欠乏による味覚異常、ヨウ素の欠乏による甲状腺腫などもミネラル不足が原因で起こります。これらの栄養素の不足はサプリメントで補うこともできますが、サプリメントは大量摂取による過剰症を引き起こす可能性もありますので、注意しながら摂取してください。

食物繊維が不足、または過剰摂取するとどうなる?

食物繊維が不足すると、「善玉菌」の働きが弱くなったり、肥満や血圧上昇を招く恐れがあります。近年、食生活で不足しがちなもののひとつとして指摘されることも多いため、ぜひ積極的に摂りましょう。

ただし、食物繊維を多く含む食材のうち、果物は果糖もまた多く含むため、摂りすぎると糖質の過剰摂取につながります。また、摂取しすぎて下痢症状を起こしてしまうと、体に必要なミネラルなどの成分も排出してしまいます。食べすぎには十分注意しましょう。

おわりに:栄養素は体をつくり、動かし、調子を整えるために重要な働きをする

栄養素は、体のエネルギー源になり、体をつくり、体の調子を整えるという重要な働きを担っています。特に、体のエネルギー源になったり体をつくったりする糖質・脂質・タンパク質の3つを「三大栄養素」と呼び、体の調子を整えるビタミン・ミネラルを加えた5つを「五大栄養素」と呼びます。いずれも摂取しすぎや不足は体の不調につながりますので、食事やサプリメントを上手に使い、バランスよい食生活を心がけましょう。

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