記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2020/4/30
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
「認知症」というと、なんとなくもの忘れがひどくなる、今いる場所や時間がわからなくなる、というイメージを持っている人が多いです。これも間違いではないのですが、これらは認知症の中でも最も多い「アルツハイマー型認知症」の特徴をあらわしたものです。この記事では、アルツハイマー型認知症以外にどのようなタイプがあるかや、それぞれの特徴を解説します。
認知症とはそれ自体がひとつの疾患のことを指しているのではなく、ある特定の状態や症状のことを総称して言います。具体的には、脳細胞が死滅したり活動が低下したりして、認知機能(自分は誰で、ここはどこであるかといった認識など)に障害が起き、日常生活や社会生活が難しくなってしまった状態です。
認知症というと、ひどいもの忘れのイメージが強いですが、もの忘れが起こりにくい認知症のタイプもあります。また、理解力や判断力に影響することもあり、その症状の出方はさまざまです。このような症状の違いはその原因によって左右され、タイプの名前も原因別に「アルツハイマー型認知症」「脳血管性認知症」「レビー小体型認知症」などと分類されています。
なお、かつては「痴呆症」と呼ばれていたこともありますが、痴呆という言葉は侮蔑的な意味を多分に含むとして問題になり、2004年12月に厚生労働省の用語検討会において「認知症」という名称で呼ぶようになりました。
認知症の半数以上を占める最も有名なものです。ひどいもの忘れから始まり、今まで日常生活で苦もなく行えていたことがだんだんとできなくなっていきます。「遠い昔のことは覚えているのに、最近のニュースは忘れてしまう」「新しく会った人の名前を覚えられない」「時間や場所がわからなくなる」などの症状が特徴です。
アルツハイマー型認知症の原因は、脳の領域のうち記憶を司る「海馬」を中心に脳全体が萎縮してしまうことです。萎縮が起こるのは「β蛋白」や「タウ蛋白」といった異常なタンパク質が脳に溜まることで神経細胞が死んでしまうためで、スキャン画像を健康な人の脳と比べると、明らかに空白部分が多いのがわかります。
認知症にならずとも老化によってもの忘れは少しずつ進行していきますが、老化によるもの忘れがゆっくりと少しずつ進行していくのに対し、アルツハイマー型認知症のもの忘れはある時から急激に進行します。その後、症状の後期になると再び進行が緩やかになります。アルツハイマー型認知症の症状は、以下の「認知機能障害」「BPSD(行動・心理症状)」「身体症状」の3つに分けることができます。
実際にはいない人、存在しないものなどが見える「幻視」のが症状の特徴です。眠っている間に怒鳴ったり奇声を上げたりする「異常言動」、手足が震えたり歩き方が小刻みになる「パーキンソン症状」などの症状がみられることもあります。頭がはっきりしているときと、認知症の症状が顕著なときが日によって大きく異なることもこのタイプの特徴です。
レビー小体型認知症は、脳の神経細胞の中に「レビー小体」と呼ばれる異常なタンパク質の塊ができてしまうことで発症します。レビー小体型認知症では脳の萎縮は見られませんが、「レビー小体」が大脳に広く出現することで認知症を発症すると考えられています。調子が良いときと悪いときを繰り返しながらだんだんと症状が進行していくため、初期には認知症と気づかれにくいこともあります。
レビー小体型認知症の症状は、大きく「認知機能障害」「BPSD(行動・心理症状)」「抑うつ症状」「身体症状」の4つに分けられます。
アルツハイマー型認知症の次に多い認知症で、脳梗塞や脳出血など、脳の血管に何らかの障害が起こることで引き起こされるものです。そのため、血管障害が起こった脳の場所やその障害の程度によって症状が異なり、障害された脳の部分に関することはできなくなる反面、その他の部分はほとんど影響がないというように、はっきりとできること・できないことが分かれるのが特徴です。障害された脳の場所によっては、手足の麻痺などの神経症状が起こることもあります。
血管性認知症は、脳梗塞や脳出血後に障害を受けた場所のみに症状が起こり、その後も脳梗塞や脳出血が再発すると症状が進行する、というように段階的に進行します。
血管性認知症の症状は、大きく「認知機能障害」「BPSD(行動・心理症状)」「身体症状」の3つに分けられます。
認知症かもしれないと思ったら、できるだけ早めに病院を受診し、本当に認知症なのかどうかを専門家にきちんと判断してもらうことが重要です。というのも、一見認知症の症状に見えても実はそうではなく、すぐに対処すれば治療できる場合もあるからです。
たとえば頭部打撲の後、徐々に脳内出血を起こす「慢性硬膜下血腫」がこれに該当します。早期に脳外科手術を受ければ完治することもありますが、時間が経つと手遅れになってしまう恐れがあります。手遅れにならないためにも、まずは早期に鑑別診断(可能性がある複数の疾患から、データや状況を比較して絞り込み、疾患を特定すること)を受けることが大切です。
その結果、もし認知症だと確定した場合でも、早い時期からさまざまな治療や介護サービスなどを受ければ、それまでと生活の質を大きく変えずに済みます。また今後の治療や介護の方針についても、本人の意識がまだまだしっかりしているうちに家族と一緒に話し合うことができます。また、認知症の原因疾患やタイプを早めに知ることができれば、それぞれのタイプに合わせた対応や治療をすぐに学び、始めることもできます。
このような理由からも、認知症かもしれないと思ったらまずは早めに病院を受診し、詳しい診断を受けることが大切です。
もし、普段から別の疾患で治療を受けているなどのかかりつけ医がある場合、まずはかかりつけ医に相談し、その病院から認知症の専門医や病院を紹介してもらいましょう。紹介状によって、これまでの疾患の経緯や詳しい身体状況を伝えてもらえるだけでなく、かかりつけ医が認知症の診断内容や薬の処方を把握し、現在治療中の疾患や身体状況に応じて薬剤や治療法を調整するなど、医療的な連携を取りやすくなります。特に認知症の場合、医療情報や服薬状況を一元的に管理・把握できる、かかりつけ医やかかりつけ薬局の存在が非常に重要です。
かかりつけ医がいない場合は、認知症専門の精神科・心療内科・脳神経科などに行くのが良いでしょう。多くの自治体では、「認知症サポート医」「もの忘れ相談医」など、一定の認知症の研修を受けた医療機関情報をリスト化しています。近隣の地域包括支援センターなどに問い合わせてみてください。また、認知症介護の家族会などで情報が得られることもありますので、家族がそのような場所に参加してみるのもおすすめです。
認知症とは決まった疾患のことを指すのではなく、脳に異常が起こって認知機能が障害される症状や状態の総称です。原因によってタイプが分類され、主なものはアルツハイマー型・レビー小体型・血管性があります。
もし、認知症かもしれないと思ったら、早めに病院を受診して鑑別診断を受けましょう。認知症でなければ原因疾患の治療が早急に必要ですし、認知症だとわかれば余裕を持って今後の治療方針を決められます。