腰痛は病院に行くべき?痛みの特徴を医師に正しく伝える方法とは?

2020/11/21

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

腰痛の原因はさまざまあり、病院に行かなくても治る腰痛も少なくありませんが、なかには腰痛の背後に深刻な病気が隠れているケースもあります。こうした場合は一刻も早く病院に行かなくてはなりません。

そこで今回は、病院に行くべき腰痛の特徴と、医師への痛みや症状の伝え方のコツをご紹介します。腰痛で病院への受診を迷ったときの参考にしてください。

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病院へ行ったほうがいい腰痛の特徴は?

腰痛の原因は、大きく以下の4つに分けられます。

骨、筋肉のトラブルによるもの
筋肉疲労による腰痛、ぎっくり腰、椎間板ヘルニアなど
脊椎や腰椎への負荷、歪みによるもの
神経障害によるもの
坐骨神経痛
椎間板ヘルニア
変形性腰椎症
筋肉、変形した椎間板、骨棘などが神経を圧迫することで、痛みや痺れが生じる
心因性のもの
ストレスによる血流悪化が原因と考えられている
筋肉内に疲労物質が溜まったり、固くなった筋肉が血管や神経を圧迫して痛みを作り出すと考えられている
内臓疾患によるもの
腰は内臓と接しているので、内臓に異常が生じるとその痛みで腰が痛むことがある
内臓疾患による腰痛は全腰痛の約1%程度だが、生命に関わる危険な腰痛

特別な治療が必要ない腰痛であれば、1週間から1カ月程度で自然に改善していきます。1カ月以上腰痛が続いている場合は、治療が必要になる可能性がありますので、早めに病院を受診しましょう。

また、1週間程度であっても以下のような症状がある場合は「神経の麻痺・感染症・腫瘍やがん・内臓疾患・関節リウマチ」など、早期に治療が必要な腰痛の可能性があります。

治療が必要な腰痛といっしょに現れる症状の例

  • 背中が曲がってきた
  • 食事や排尿、月経の際に痛む
  • 抗炎症薬を1カ月以上使っていても改善しない
  • 強い痛みがお尻から膝下まで広がっている
  • 肛門や性器の周囲が熱くなったり痺れたりしている、または尿が出にくい
  • 歩いているときに、脚に力が入らなくなる
  • 発熱や吐き気がある
  • 胸の辺りまで痛い
  • 痛む部分が腫れている
  • ダイエットや食事制限をしていないのに、体重が減少してきた

治療が必要な腰痛の「痛みの状態」の特徴

  • 横になるなど、安静にしていても痛む
  • 楽になる姿勢がない
  • 急に強い痛みが出る
  • 痛みがどんどん強くなっている
  • 転倒後など、原因と考えられる出来事があってから痛み出し、日常生活に支障が出るほど痛む
  • 脚に痺れや麻痺があり。長く歩くと脚が痛くなり歩けなくなる

特に、横になって安静にしていても痛みが軽減されることがなく、楽になる姿勢がない場合は脊椎の重篤な疾患や内臓疾患の可能性があり、危険度も高いと考えられます。これらの症状がある場合はすぐに病院を受診しましょう。

また、「腰だけでなくお尻や脚が痛む、痺れる」場合や、「脚のしびれや痛みで長く歩けない」といった症状がある場合、腰部脊柱管狭窄や重度の椎間板ヘルニアなどにより神経障害を発症している可能性がありますので、なるべく早めに病院を受診しましょう。

すぐに病院へ行くべき「危険な腰痛」の特徴は?

骨折や重度の椎間板ヘルニア、脊柱菅狭窄症などは、早期の治療が必要です。また、腰の病気だけでなく、内蔵疾患や腫瘍、感染症などが原因で起こる腰痛も早期の治療が必要な「危険な腰痛」であり、未治療のまま放置すると生命の危険に直結するものもあります。

腹部大動脈解離(破裂)、腎臓梗塞(腎梗塞)、化膿性脊椎炎、尿路結石、がんの骨転移など、自覚症状のひとつとして腰痛を引き起こす病気は少なくありません。以下のような痛みや症状がある場合は、すぐに病院を受診しましょう。

腰や背中に冷や汗が出るほどの激しい痛み
腹部大動脈解離(破裂)でこのような痛みが出ることがある
大動脈が瘤のように膨らんだ「大動脈瘤」が腹部にあり、症状がないまま大きくなる
瘤によって血管内壁に亀裂が入り、剥離を起こした状態を「大動脈解離」と呼ぶ
さらに、血管が突然破裂して大量に出血すると「大動脈破裂」となり、生命に危機が及ぶ
腰から背中にかけての激しい痛み、激しい腹痛、血尿、吐き気や嘔吐、発熱、高血圧など
腎臓梗塞(腎梗塞)で起こる症状
血液中の血栓などによって、腎臓の動脈がふさがってしまう病気
腎臓に血液が流れなくなり腎不全になると透析が必要
背中から腰にかけて突然の激痛が生じる、熱が出る、安静にしていても痛い
化膿性脊椎炎の可能性がある
脊椎(背骨)に細菌が侵入して炎症を起こし、膿が溜まる病気
免疫力が低下しているときに起こりやすく、免疫力の低い高齢者にも多く見られる
腰から脇腹や鼠径部(股の付け根)までの激痛、尿が赤や茶色に変色する
尿路結石の可能性がある
腎臓から尿管を経て、膀胱までの尿路のどこかに結石が詰まってしまった状態
腎臓は背骨の横にあるため、詰まった場所に痛みを感じる
背中や腰に強い痛み
がんの骨転移の可能性がある(症状だけで区別することは難しい)
他の臓器にできたがんが骨に転移すると起こる。背骨の中でも胸椎への転移が最も多い

また、骨粗鬆症が進むと軽い尻もち程度でも骨折することがあるため、知らない間に起こった骨折が腰痛を引き起こすこともあります。骨粗鬆症で重度の圧迫骨折を起こすと、歩行困難を引き起こし、寝たきりの原因になることもあります。症状がひどくないうちに病院を受診し、治療やリハビリを始めることが大切です。

痛みがひどくなくても病院に行ったほうがいいの?

腰の痛みが3カ月以上続く「慢性腰痛」は、腰に異常が見られないものもめずらしくありません。まだはっきりとわかったわけではありませんが、腰に異常が見られない慢性腰痛は、腰の痛みを和らげる体の仕組みが関連している場合があると考えられています。

腰から痛みの信号が脳に伝わると、脳から「ドーパミン」という神経伝達物質が放出され、脳内で「μオピオイド」という物質が大量に放出されます。その後、神経伝達物質である「セロトニン」や「ノルアドレナリン」が放出され、痛みの信号を脳に伝える経路が遮断されることで腰痛の痛みが緩和されます。

ストレスや不安などを長期間感じていたり、うつ状態が長期間続いていると、脳からドーパミンが放出されにくくなり、腰痛が長引いたり、わずかな痛みでも強く感じてしまう状態になることがあります。

慢性腰痛は年齢に関わらず起こりますが、30〜50歳代の働き盛りに多く、さらに都会の事務職に多いことがわかっています。その理由として考えられるのが「ストレス」です。また、慢性腰痛を持つ人の多くにはうつ症状があることもわかっています。

うつ症状を抱える人は引きこもりがちになり、運動不足から筋肉の衰えや肥満を招き、腰や膝への負担が増してさらに痛みが強まるという悪循環が引き起こしやすくなります。また、痛みは長引くと別の種類の痛みに変化したり、複合するという性質があり、複雑化するほど治療が難しくなりやすいです。

「軽い腰痛だから」と痛み止めでやり過ごす行為を続けていると、腰痛だけでなくうつ症状も治りにくくなってしまいます。

慢性腰痛の全てがストレスが原因と言うわけではありませんが、どのような原因であっても、痛みを無理に我慢することは悪化のスパイラルを引き起こします。長く続く腰痛は、軽いものであっても、まず整形外科で原因を調べてもらいましょう。整形外科の範囲外に原因がある場合は、心療内科や精神科、内科など、適した診療科を紹介してもらえます。

問診で痛みの特徴をうまく伝えるコツは?

適切な治療を受けるためには、最初に問診で痛みの特徴をしっかり伝えることが大切です。痛みは主観的・感覚的なもののため、他人には伝わりにくい情報です。担当した医師がイメージしやすくなるように、ただ「痛い」と言うだけではなく、以下のようなポイントに気をつけながら、痛みの度合いや特徴を伝えましょう。

痛みの発症時期・きっかけ
いつから痛むのか、突然痛みが起こったのか、その後どういう経過を辿ったか
痛みが生じる原因となった事象がはっきりしている場合は、それも合わせて伝える
痛みの部位
1個所なのか複数なのか、広範囲なのか部分的なのか
痛みが最初に起こった部位から移動した場合は、それも伝える
痛みの強さ
痛みが最も強いときを10としたとき、現在の痛みはどのくらいか
一番強いとき、弱いとき、平均した痛みなどに分けて、痛みの強さを数値化する
痛みの性質(痛みの特徴)
鈍い・鋭い、重い・軽い、ピリピリする・じんじんするなどオノマトペを使って伝える
筋肉痛や神経痛、関節痛、心因性痛などを判断するポイントになるので、できるだけ感じる感覚を詳細に説明する
痛みのパターン・連続性
1日中続く痛み(持続痛)なのか、一過性の痛みなのか、周期的か間欠的か
痛みの憎悪因子・軽快因子
何をすると痛みが悪化し、何をすると軽減するかといった行動や環境・心理的要因などを伝える
動くと痛い、夜間や不安になると痛い、保温やマッサージすると楽になるなど
痛みが始まってから徐々に強まっていると感じる場合は、それも伝える
日常生活への影響
痛みが日常生活に支障をきたしているかどうか
痛くて眠れない、仕事や家事ができない、食欲がないなど
痛み以外の症状があるかどうか
冷や汗、発熱、吐き気など
現在行っている治療について
現在行っている治療があれば、緩和した痛みと残っている痛みの両方を伝える
治療の効果を伝えるために、緩和した痛みの情報は重要
痛みが複数箇所ある場合は、それぞれの部位についてどのような反応があったか、あるいは、治療をしても反応がなかったかを詳細に伝える
薬の効果と副作用
治療中に使った処方薬、市販薬・常備薬などがあれば持っていく(お薬手帳があれば持参する)
指示通り服用できているか、効果はどうか、副作用(吐き気、便秘、眠気など)もあれば合わせて伝える
持病があるかどうか
腰痛以外にもともと発症している基礎疾患があれば、それも伝える

できれば、それぞれの項目についてノートやメモ帳などに書き出して持っていくとスムーズに伝えやすくなるでしょう。また、痛みの部位や強さ、性質を詳しく伝えるために、以下のポイントに注意しながら痛みを観察しましょう。

痛みの部位を細分化する
まず、どこが痛いのか、自分の身体の部位を詳しく分けて意識する
「全身が痛い」「あちこちが痛い」という場合でも、特に痛いのはいくつか特定の部位であるということも
部位別の痛みを分析する
痛む部位が複数あるとき、必ずしも同じ痛みとは限らない
それぞれの痛みが、どのようなときにどう変化しているのか、しっかり分析する
胸の痛みは不安やイライラが強くなると増し、腰の痛みは立って歩いているときに強くなり、口の痛みは食べているときには軽くなる、など
同じ部位の痛みでも、原因は一つとは限らない
重たいものを持ったときにも、不安やストレスが高まったときにも強まるなど、痛みの変化を観察する
同じ部位の痛みでも、複数の原因がある場合、一つの治療法だけが選択肢だけとは限らない
痛みの目盛り(グレード)を細かく意識し、わかりやすく数値化する
時間や状況が経過すると、痛みがどのように変化するのか把握することが重要
最大の痛みを「10」、痛みのない状態を「0」とし、11段階のどの状態か細かく意識する
このとき、ざっくりではなくできるだけ細かく目盛りを持った方が良い

痛みを細分化、数値化していくと、どの治療法がどれだけ効果があったかを自分でも認識できますので、痛みを自分でコントロールしやすくなります

おわりに:軽いものでも、1カ月以上続く腰痛は病院へ。病気のサインを見落とさないことも大切

腰痛の大半は深刻ではないものですが、なかには内臓の病気や骨折や重度の椎間板ヘルニアのように、早期の治療が必要なものもあります。長く慢性腰痛を患っている人は、「いつも腰痛」を軽く考えてしまうかもしれませんが、前回の腰痛と今回の腰痛が同じ原因とは限りません。また、うつ病などストレスからくる腰痛は、悪化のスパイラルをたどることが多く、治癒まで長引きやすいです。1カ月以上腰痛が続く場合は、必ず医師に相談しましょう。

病院を受診するときは、痛みの状態をより詳細に伝えられるように、痛みの度合いや痛み方を観察し、メモ書きに残すようにしてください。

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